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【新聞記者 難波太郎】鯨と生きる 400年超す捕鯨…伝統文化そして町の誇り

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【新聞記者 難波太郎】
鯨と生きる 400年超す捕鯨…伝統文化そして町の誇り

 「子供の頃、すき焼きといったらイルカやった」。紀伊半島の南端に程近い、熊野灘に面した和歌山県太地(たいじ)町。水産加工業を営む男性(64)はそう振り返る。町の漁協直営のスーパーには、クジラの切り身やベーコンなどの加工食品が並ぶ。「他の魚と同じ自然の恵み。特別な感覚はない」と町民。若者が食べる機会は減っているものの、クジラの食文化は町の根底に息づいている。

 江戸時代から400年以上の捕鯨の歴史をもつ太地町。今も、沖合でクジラを狙う「沿岸小型捕鯨」と、クジラやイルカを湾に追い込んで捕獲する「追い込み漁」が行われている。漁師らの多くが先祖代々、捕鯨を生業としてきたという。

 町に息づくのは食文化だけではない。太地独特の名字は、古式捕鯨の役割に由来をもつ。「背古(せこ)」はクジラを追い込む勢子(せこ)舟に乗って銛(もり)を打っていた人、「筋師(すじし)」は鯨筋(げいきん)を扱っていたという。江戸時代に生まれた古式捕鯨は、皆がそれぞれの役割を果たして初めて獲物を仕留めることができた。命を落としかねない危険な漁だったからこそ、漁師らは“運命共同体”。町の結びつきの強さは、時代を経た今も揺るがない。

 粛々と続けていた捕鯨が世界から注目されるきっかけとなったのが、追い込み漁を題材にしたアカデミー賞作品の米映画「ザ・コーヴ」。イルカの血で入り江が真っ赤に染まる場面などがショッキングに描かれ、町には多くの批判が集まった。

 今年に入り、捕鯨への向かい風は強まりつつある。1月には、キャロライン・ケネディ駐日米大使が短文投稿サイト・ツイッターでイルカ漁を批判。3月には、オーストラリアが南極海での日本の調査捕鯨中止を求めた裁判で、国際司法裁判所が現行の調査捕鯨中止を命じる判決を言い渡した。

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