産経WEST

【西論】山崎豊子と司馬遼太郎 大阪商人の視点ゆえ見えた日本 編集委員・荻原靖史

産経WEST 産経WEST

記事詳細

更新

【西論】
山崎豊子と司馬遼太郎 大阪商人の視点ゆえ見えた日本 編集委員・荻原靖史

 淀川河口の八十島(やそしま)。古代の風景だ。ナニワの資本主義はこの大小の砂州から育ったという。人類学者、中沢新一さんは著書「大阪アースダイバー」で、次第に地形が安定し、海民(かいみん)らの末裔がやがて商品とお金の流通する社会を渡っていく過程を掘り起こす。

 太閤の街づくりで築かれた商都。商人の世界は信用、すなわち暖簾(のれん)がものをいう。その中心に船場がある。

 「やはり大阪の空と川と人間を、今後も書きつづけてゆくつもり。…こうした市民生活の思考や行動の中で、私が、今、もっとも興味のあるテーマは、人間の金銭欲である」

 こう書いたのは船場の老舗(しにせ)に生まれた作家、山崎豊子さん。このとき33歳。一連の船場ものは作家の原点であり、人間の業と欲をクールに見つめた傑作ぞろいだ。

 たとえば「船場狂い」で船場にあこがれと野心を募らせる女を描き、「ぼんち」では女道楽に走る足袋(たび)問屋の若旦那を主人公に据えた。ぼんちとは、山崎さん流の解釈では「放蕩を重ねても、ぴしりと帳尻の合った遊び方をする奴」で「地に足がついたスケールの大きなぼんぼん」だという。放蕩もここでは甲斐性。船場の家制度や慣習への醒めた目線を感じる。

 あるいは「しぶちん」「暖簾」「女系家族」といった作品群は登場人物たちの欲望やど根性の見本市のようだ。大阪商人が使う船場言葉が作品に独特のリズムをつける。

 のちに社会派作家の代表とされる山崎さん。このナニワ資本主義こそ人間観察の最初の現場だった。

関連トピックス

「産経WEST」のランキング