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「歩けない。置いていって」“究極の選択”も JR西が津波想定訓練

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「歩けない。置いていって」“究極の選択”も JR西が津波想定訓練

 南海トラフ巨大地震など広範囲の津波被害が想定されるような大規模災害で、列車の運転士ら乗務員は乗客の安全をどう守ればいいのか。JR西日本が異常事態を想定した「シナリオなき体験型訓練」を続けている。訓練では、車外誘導時に「もう歩けない、置いていって」と告げる乗客を、「置いていく」のか「連れていく」のか“究極の選択”も迫る。乗客同士のトラブルなどあらゆる事態も想定し、乗務員の臨機応変な対応と緊急時の判断能力を養うのが狙いで、全乗務員対象の訓練は鉄道業界では初めてという。

 「75分後に津波、了解!時間あるから焦らずゆっくりやろう」

 運転士が車掌に叫ぶ。会議室での訓練だが、緊迫した空気。沿岸部を走る列車に乗務中、震度7の地震が発生し、大津波警報が発令されたという想定だ。

 9月から始めている訓練は、東日本大震災時の乗務員の記録を反映させたシミュレーションで、運転士と車掌、チェック係が1組となって行う。乗務員にはさまざまな場面を想定した「場面シート」が次々と提示され、その都度、適切な判断を求められる。「お客さま同士がもめており、降車する気配がない」では、「A 収まるまで待機」「B 説得して降車させる」のいずれかを選択。チェック係に、判断の根拠を説明しなければならない。

 その後、余震が発生。車内で急病人が出るなど状況は刻々と変化し、乗務員の前のモニターには騒ぎ出す乗客の姿が映し出された。

 「やばい、英語や。英語無理」。モニターの映像を見た運転士が独り言のように漏らすと、マイクに向かい、こう声を張り上げた。

 「車掌、どうぞ! 次の駅まで列車を動かそうと思います。なお車内で外国人のお客さまが暴れられています。英語で対応できるのであれば、英語での案内放送もお願いします」

 この訓練は、JR西の運輸部が昨年6月から約1年かけて開発。人為的ミスによる事故防止のため、航空業界で行われている乗務員訓練「CRM」(クルー・リソース・マネジメント)の要素を取り入れ、「Think-and-Act Training」(考動トレーニング)と名付けられた。平成17年の福知山線脱線事故を機に設立されたJR西の安全研究所の研究成果も反映したという。

 開発に携わった運輸部の前川卓さん(28)は「訓練者自らが考え、どう行動するかに力を入れている」と話す。このため、訓練には明確な“解”は存在しない。例えば、乗務員が列車から乗客を誘導する場面では、乗客が「もう歩けないので、置いていってください」と告げるケースも想定。「A 置いていく」「B 連れていく」という究極の選択も迫られる。訓練では「A」か「B」かだけでなく、選択が最善と判断した理由が重視される。訓練を体験した乗務員からは「いざという場合にパニックにならずに落ち着いて行動できるか考えさせられた」といった声が寄せられているという。

 JR西は11月までに運転士約4200人、車掌約3300人、内勤の列車区長ら約千人の計約8500人を対象に訓練を実施。今後は別の緊急事態も想定し、繰り返し訓練する方針だ。

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