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【ベテラン記者のデイリーコラム・石野伸子の読み直し浪花女】石上露子伝説のリレー(8)京大出の長男、引き取った夫…次男も自死、香を焚き続け

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【ベテラン記者のデイリーコラム・石野伸子の読み直し浪花女】
石上露子伝説のリレー(8)京大出の長男、引き取った夫…次男も自死、香を焚き続け

 しかし、長男は養生の甲斐なく、30歳で死去。遺骨を抱いて本宅に帰った露子はそのまま失神してしまった、と長年そばにつかえた女性が証言している。

 ただ一人残された次男は陸軍に入り、南方の空に飛び立ち露子を心配させるが、無事に帰還。しかしこの次男と母親とはその後、微妙な葛藤を抱え、揺れ動く。

 昭和19年末、空襲が激しくなっていたことから、次男は別居の父親を心配し、母親に懇願して引き取ってもらう。その夫も翌20年4月、終戦を待たずに死去。

 自伝「落葉のくに」はこのあたりで終わっている。

 「空襲いよいよ激しき年の瀬、別れ住みて十何年、大和より大阪へ、いま病めりときく夫を迎へとりて五カ月、二十年はる四月野におくる。まましき母もいまはなし。

 花のおぼろほとけに香をたきつづく」

 しかし、老境の母は、さらに新しい香をたかなくてはならなかった。

 好彦は東京で露子の意に染まない結婚をした。嫁姑の性格は合わず、一時浜寺で同居したこともあるが、結局若い夫婦は離婚することになる。

 そして終戦。戦後の農地改革で杉山家の経済的基盤が崩壊、当主・好彦の悪戦苦闘が始まる。

 露子は浜寺の家を出て富田林の実家に帰り、400年続いた旧家の行く末を見守る。好彦は自身の好みで建て直した浜寺の3階建て洋館で洋裁学校を始めたり、得意の英語を生かして進駐軍と付き合ったり、やりくりを続ける。

 昭和24年、再婚。2人の男の子にも恵まれたころが、杉山家にとってしばしの安定期だったろうか。石上露子伝を編集した松村緑さんが、婦女新聞の記載などをきっかけに露子を再発見、面会を果たしたのはそのころ。

 長年連れ添う老女一人を相手に広大な屋敷に住まう露子の日常生活は寂しそうではあったが、孫2人をえて平穏なる顔つきだったと松村さんは書いている。

 初めての歌集を編む話が進もうとしていた昭和31年3月3日。次男好彦は突然ピストル自殺をする。

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