【カルチャーの壺】ストII 春麗が変えた格ゲー、歳を重ねるダルシム - 産経ニュース

【カルチャーの壺】ストII 春麗が変えた格ゲー、歳を重ねるダルシム

ストリートファイターIIのキャラクターイラスト(画像はバージョンアップ版のもの)。第1作から空気感を変えることでシリーズ初の女性キャラ「春麗(チュンリー)」(中央下)登用するなど、キャラクターのバリエーションが豊富になった(c)CAPCOM U.S.A., INC. ALL RIGHTS RESERVED.
ゲームセンター用に開発された昭和62年の「ストリートファイター」シリーズ第1作のキャラクターイラスト。腕っぷしの強そうな男性キャラばかりだった(c)CAPCOM U.S.A., INC. ALL RIGHTS RESERVED.
ストリートファイターVのダルシム。超人的な身のこなしは登場当時と変わらないが、ファンとともに歳を重ねた結果、ひげをたくわえた姿に変化。ちなみにダルシムには妻や子供がいて、好物はカレー(c)CAPCOM U.S.A., INC. ALL RIGHTS RESERVED.
ドクロの首飾りをし、手足が伸び、火を吹き、空中浮遊、テレポートもできる謎のインド人「ダルシム」。登場したストリートファイターII当時はひげをたくわえていない(c)CAPCOM U.S.A., INC. ALL RIGHTS RESERVED.
シリーズ1作目の画面で、最後のボス「サガット」(右)と戦う「隆(リュウ)」は、シリーズのメインキャラに。サガットも後の作品に登場するが、胸にはこのとき隆の必殺技「昇竜拳」を浴びた際にできた傷がある(c)CAPCOM U.S.A., INC. ALL RIGHTS RESERVED.
 世界が注目する日本のポップカルチャーの中で、「格ゲー(格闘ゲーム)」の代名詞が昭和62年から続くカプコン(大阪市)の「ストリートファイター」シリーズだ。人気を支えるキャラクターたちには、細かいプロフィルが設定されていて、細部にも手を抜かないところが日本製っぽい。キャラの創出には格ゲーならではの難しさもあり、開発者のユニークな“お国柄観”から生まれたインド人もいる。
(渡部圭介)
シビアな空気感一新
 シリーズの始まりは昭和62年だが、1作目「ストI(ワン)」のキャラは腕っぷしの強い男たちばかり。バラエティーに富むのは4年後に発売された続編「ストII(ツー)」からで、背景には空気感の一新があったという。
 ストIは勝敗がつくと、目を開いたまま口から血を流す敗者の顔が現れるなど「敗者=死」を連想する。ストIIの開発に携わった岡野正衛さんはストIについて「生死をかけた戦いという、緊張感とシビアな雰囲気があった」と指摘する。
 ストIIでは死を連想させる演出は避けた。勝者が敗者にかけるセリフも、敗者が生きていることを暗示させる。地面に倒れた体が跳ね上がる演出も採用し、「漫画のような雰囲気」(岡野さん)を追求した。
 現実とフィクションに明確な線を引いて登用が可能になったのが、シリーズ初の女性キャラ「春麗(チュンリー)」だ。ゲームであってもシビアな世界観のままでは、劣勢に立たされた女性キャラが男性に痛めつけられる描写には、慎重論があったという。
 春麗の登場で、女性がゲームに没入できる選択肢ができた。春麗はシリーズを性別を問わずに楽しめるゲームへと進化させた功労者でもあり、今やシリーズの看板キャラだ。
ガンジーの次に有名?
 空気感を変えても、ストIで確立したご当地の武術や格闘技に通じた各国のキャラが対戦する基本理念は不変。見た目で国籍が分かるキャラも多いが、開発陣の当時のユニークな“お国柄観”も投影されている。
 例えばインドの僧侶にしてヨガの達人「ダルシム」。関節を外して手足が伸びる設定で、遠い間合いからの攻撃も可能。口から火の玉も出せる超人は首にドクロの装飾をあしらう。
 「インドの方に怒られるかもしれないが、当時はインターネットも普及してなくて、世界各地が謎に満ちていた」と岡野さん。後の作品にも登場し、コラボしたレトルトカレーが販売されるなど根強い人気のキャラで、岡野さんは「日本人にとってはガンジーに次ぐ有名なインド人になったかも…」と口にする。
成長するキャラ
 ダルシムは平成28年発売の本編5作目(ストV)で白いひげをたくわえ、若々しさが消えた。同作ディレクターの中山貴之さんは「キャラも年齢を重ね、成長しているという考えがある」と説明する。
 つじつまを合わせながら、当初のプロフィルになかった設定を追加することもあるという。各キャラのプロフィルを最初から固め過ぎないのがシリーズの流儀で、中山さんは「ファンの想像の余地は残したいと思う」と話す。
 一部のファンでささやかれる「豪鬼(ゴウキ)」が「隆(リュウ)」の父親という噂も、中山さんは「違うとは言いません」。ちなみに、中山さんの思い入れが深いキャラ「是空(ゼクウ)」の設定には、あるゲームクリエイターへのオマージュを込めている。
 ファンの想像と気付きに委ね、キャラのイメージを膨らませながら成長させていく。長くファンに愛されるキャラ、ゲーム作りの奥義を見た気がする。
 ストリートファイター 移動は左右とジャンプが基本の「2D格闘ゲーム」。プレーヤーは好きなキャラを選択して操作、攻撃と防御を織り交ぜながら相手の体力をゼロにした方が勝利。プレーヤー同士の対戦もできる。
 ゲームセンター用に開発された昭和62年の第1作(ストI)は「コマンド」の採用で話題になった。定められた暗号のような順でボタンなどを操作すると、相手に大きなダメージを与える必殺技が飛びだす。こうした仕組みは、格ゲーの常識になっていった。
 ただ、難解なコマンドは初心者泣かせ。ストIIでは通常のパンチを繰り返していても、まれな確率で必殺技が出るようにしていた。初心者に必殺技を出せる喜びを知ってもらい、ゲームに引き込むためだった。
 キャラクターが小刻みに体を動かすといった細やかな演出も好評で、ストIIは爆発的な人気を博し、任天堂の家庭用ゲーム機「スーパーファミコン」用のソフトが発売されるなど、ブームは拡大した。
 米国では実写版映画も作られた。小室哲哉さんがプロデュースした「篠原涼子 with t.komuro」名義の「恋(いと)しさと せつなさと 心強さと」はアニメ映画の主題歌。CDの売り上げが200万枚を超える大ヒット曲となり、ストIIの影響は音楽界にも及んだ。