盗難から仏像守れ 3Dプリンターの身代わり像に脚光 - 産経ニュース

盗難から仏像守れ 3Dプリンターの身代わり像に脚光

本物の仏像(右)と3Dプリンター製作した「お身代わり仏像」
 和歌山県内で仏像の盗難が相次いでいる。今年に入って県南部で複数の被害が報告され、容疑者も逮捕された。人々の信仰を踏みにじる卑劣な犯行だが、狙われるのは普段人の出入りがない無人の寺社が多く、防犯対策が難しいという。そんな中、和歌山市の高校生らによる被害防止の取り組みが画期的だと注目を集めている。本物の代わりに3Dプリンターで作ったレプリカの「お身代わり仏像」を安置するという対策だ。   (小笠原僚也、井上裕貴)
奇跡の返還
 9月7日、同県田辺市の山間部にある本宮町地区の無住寺・華蔵寺(けぞうじ)には、朝から大勢の報道陣や近隣住民、警察関係者が詰めかけていた。普段は住職が常駐せず、正月や彼岸の法要などで年に数回しか人が訪れない寺に、盗まれた仏像が“帰ってくる”からだ。
 和歌山県警は8月、同県白浜町の寺から町指定文化財の仏像(時価200万円相当)を盗んだとして男2人を逮捕。その後の捜査で、2人は華蔵寺で、室町時代に作られた木造の「釈迦如来坐像(しゃかにょらいざぞう)」(時価50万円相当)を含む仏像などを盗んだとして再逮捕された。このうち大阪市に住む男の自宅から、釈迦如来坐像が見つかったのだ。
 県警によると、通常は盗難被害に遭った仏像は、被害が分かったときには多くが転売された後で、今回のように寺社に返還されることは非常に珍しいという。
 この日、地元の新宮署員から引き渡された仏像は早速本堂に安置され、集まった約30人の住民は次々に仏像の前で手を合わせた。近くの寺の住職で、華蔵寺の住職も兼務する九鬼聖城(くきせいじょう)さん(61)は「600年間華蔵寺を見守ってくれた仏像で、戻ってくれて本当にほっとした。戻ることはほとんどあきらめていたので、見つかったのは奇跡です」と感激していた。
大勢の住民らが見守る中、釈迦如来座像が華蔵寺に返還された=和歌山県田辺市
依然相次ぐ仏像盗
 華蔵寺の釈迦如来坐像は無事に戻ったが、他に盗まれた仏像などはまだ見つかっておらず、県警が捜査を続けている。
 県内ではここ数年、仏像の盗難被害が後を絶たない。県警によると、平成28年に15体だった盗難仏像の数は29年に53体、30年には40体に。今年も県南部で相次いで被害が確認されている。
 普段人が立ち入らない無人の寺社が狙われており、華蔵寺の仏像は昨年末から今年3月の間に盗まれていた。檀家(だんか)総代の石谷強さん(56)は「まさかこんな山あいの小さな寺が狙われるとは…。自分たちの防犯意識も甘かった」と話す。
 しかし住民の少ない地域で住職や檀家らが寺社を見張り続けるのは難しい。同県立博物館(和歌山市)の大河内智之主任学芸員は「仏像の窃盗は地域の歴史を奪い去るひどい犯行。地域に合わせた盗難防止の取り組みが必要だ」と話す。
最新技術を駆使
 そんな中、盗難対策として注目されているのが、3Dプリンターで作ったお身代わり仏像の安置だ。
 この取り組みは、仏像を盗難や火災から守ろうと県立博物館や県立和歌山工業高校、和歌山大学が協力して平成24年から続けており、本物の仏像は県立博物館で保管し、寺社にはお身代わりを奉納する。たとえレプリカが盗まれても、本物は保管されているため被害を免れるというわけだ。
 レプリカはプラスチック製だが、精巧なつくりは本物と変わらず、素人目では判別がつきにくい。3Dプリンターによる実際の製作は和歌山工業高の生徒らが行っている。
3Dプリンターで造形した仏像の「お身代わり」=和歌山市の和歌山工業高校
 製作では仏像の形状を3Dスキャナーで計測し、計測しきれなかった細かな凹凸や傷などは目視で確認してデータに加える。そして3Dプリンターで造形し、塗装を施して仕上げる。
 和歌山工業高では、毎週金曜にお身代わりを製作する授業を実施。生徒たちが自ら計測からデータ入力、3Dプリンターによる造形まで手掛ける。産業デザインを学ぶ生徒たちの勉強にもなる上、専門業者に依頼すると1体数百万円の費用がかかる製作費を、授業では材料代のみに抑えられるメリットもある。造形した仏像は和歌山大の学生有志がボランティアで塗装している。
 今年8月末時点で県内13カ所の寺社に26体のお身代わり仏像を奉納。9月には「国際博物館会議」(ICOM、アイコム)が京都で開かれたのに合わせ、世界の博物館関係者が県立博物館を視察。高校生らによる3Dスキャナーでの計測も実演され、多くの関係者が取り組みを高く評価したという。
 お身代わり仏像の取り組みにも関わっている大河内さんは「当初は寺社にレプリカを置くことに難色を示す人もいたが、地域の未来を担う若者が真剣に取り組んでいることを知ると、皆さん喜んでくれている」と取り組みに手応えを示す。
仏像の形状データを処理する和歌山工業高校の生徒=和歌山市
 お身代わり仏像の製作に励む和歌山工業高3年の宮本紗季さん(17)は「仏像は昔から地域で守ってきた大切な宝。丁寧な作業を心がけて、地域の人に喜んでもらえるようにしたい」と力を込めた。