患者・高齢者に癒やし「似顔絵セラピー」 - 産経ニュース

患者・高齢者に癒やし「似顔絵セラピー」

高齢者や患者の心を癒やす「似顔絵セラピー」をしている村岡ケンイチさん=大阪市生野区の葛西医院(南雲都撮影)
 似顔絵を描くことで、病気の患者や高齢者の心を癒やす「似顔絵セラピー」に取り組む人がいる。東京のイラストレーター、村岡ケンイチさん(37)。筆を走らせるだけでなく、モデルと会話を交わすことで、その人が元気だったころ、若かった時代のイメージを膨らませていく。容貌だけでなく、その人の人生をも投影したような優しい絵は、患者や家族、医療関係者らの心をなごませている。(小川原咲)
 「緊張するわ。美人に描いてや」
 「自然にしていてくださいね。好きなものや楽しかった思い出はなんですか」
 4月18日、大阪市生野区の「葛西(かっさい)医院」。村岡さんは、向かい合って座った院長の祖母、今岡桃代さん(88)に話しかけた。すぐには筆をとらず、世間話から入る。緊張気味だった今岡さんの表情が次第に和らいでいった。
 「岡山県出身で中学校で英語の教師をしていた。結婚後に大阪に移住。困っている人を放っておけない性格で、よく周囲の相談に乗ってきた」
 こんな今岡さんの身の上話を聞きながら、色紙に鉛筆で線を書き、水彩絵の具で色を付けていく。約1時間後に似顔絵が完成。ほほえむ今岡さんの周りを、これまで相談に乗ってきた人やボクシングジムを経営する息子が取り囲む構図で、教鞭(きょうべん)をとった中学校の校舎が背景になっていた。
 「しゃべっている間に絵になった。私の一代記や。宝だね」。絵をじっくり見つめ、今岡さんは笑った。
 この日は今岡さんのほかに患者2人の似顔絵を描き、いずれも「若い頃を思い出した」「いい思い出になった」などと感謝の言葉を口にした。
 似顔絵セラピーを行っている村岡さんは広島県廿日市市出身。小さいころから絵や漫画を描くのが好きだった。
 転機となったのは名古屋芸術大に在学していたときのオープンキャンパス。仲間と来場者の似顔絵を描く企画を行った。出来は良くなかったが、モデルからは「自分の顔ってこんな感じ?」と笑いが起こり、話に花が咲いた。
 こんなに人を笑顔にしてコミュニケーションがとれる絵のジャンルはない-。「似顔絵を極めたい」と、大学卒業後は東京の似顔絵プロダクションに3年間所属し、腕を磨いた。
 そんなとき、病院内を芸術作品で彩る「ホスピタルアート」を行うアーティストと知り合った。患者の似顔絵を描いてみたらとアドバイスを受け、平成18年に広島県内の病院の緩和ケア病棟で似顔絵セラピーを始めた。
 初めてのモデルは、やせてほおがこけ、ベッドに横たわった患者だった。緊張で手が震え、声がうわずった。うまく描けなかった。チャレンジ自体が軽率だったかもしれないと悩んだ。
 それでも患者や家族は笑ってくれた。医療スタッフからは「心を閉ざしていた患者さんがコミュニケーションをとるきっかけになった」と感謝された。
 その後、口コミで評判となったり、テレビなどでも取り上げられたりし、活動範囲が拡大。これまでに全国約140カ所を回り、3千人以上を描いた。最近では絵が得意な看護師や介護士から「やり方を教えてほしい」という依頼もある。
 村岡さんは「似顔絵セラピーは、セラピーの時間が終わっても絵は残ってモデルを癒やし続けられる。もっと笑顔を増やしたい」と意気込む。
 村岡さんのセラピーは1日(8時間)で最大10人程度の似顔絵を制作し、料金は約5万円(宿泊費、交通費が別途必要)。問い合わせは村岡さん(042・316・8192)。