【夜間中学はいま】(1)小2で不登校、手こずる「九九」にも学び直す喜び - 産経ニュース

【夜間中学はいま】(1)小2で不登校、手こずる「九九」にも学び直す喜び

尼崎市立成良中琴城分校の数学の授業で、教諭(左)に教えられながら問題を解く大永尉惠さん(右)=30日午後、兵庫県尼崎市(安元雄太撮影)
尼崎市立成良中琴城分校に登校する大永尉惠さん=30日午後、兵庫県尼崎市 (安元雄太撮影)
夜間中学の設置状況
夜間中学の校数と生徒数の推移
 「九九が苦手。6から上の段は(記憶が)あやしいです」。習熟度別の数学の授業で、2桁や3桁の筆算問題が並ぶプリントと格闘する大永尉惠さん(32)=兵庫県尼崎市=は、そう言ってはにかんだ。
 大永さんが通うのは全国に31校ある夜間中学のひとつ、尼崎市立成良中学校琴城分校。空が夕焼けに包まれる頃、「こんばんは」のあいさつとともに生徒たちが登校し、夜空に星が瞬く頃、授業が終わる。昼の中学校との違いは時間帯だけではない。41人の生徒の年齢層も10代から80代まで幅広い。「うーん」と頭を悩ます大永さんに、机を並べる70代の男性が「前回休んだから忘れてるな」と教える光景は、「夜間中学ならでは」(担当の桜井克典教諭)。生徒の国籍も日本、韓国、中国、ネパール、タイなど国際色豊かだ。
 小学2年で習う九九に大永さんが手こずるのは、小2から不登校となったため。仕事や2児の子育てで多忙な真っ只中、「学び直し」の場を求め、半年余りの試験登校を経て平成29年4月、正式に入学した。
 うまく書けた「達」
 社会現象にまでなった漫画「美少女戦士セーラームーン」に夢中だった小学1年の冬、大永さんの生活は両親の離婚で一変した。父は仕事に追われ、姉たちも自分のことで精いっぱい。幼い大永さんを朝起こしてくれる人はおらず、生活リズムの崩れから登校する日が減っていく。たまに教室に姿を見せても授業はわからず、学校からさらに足が遠のいた。高学年になると級友から無視されるなどのいじめにもあった。「居場所がなかった」と当時を振り返る。
 学校や勉強と縁遠いまま大人になった大永さんが、夜間中学入学を決意したのは、現在小1の長男が3歳のときに発達障害のひとつ、自閉症スペクトラムと診断されたことが関わっている。「本を読んで必死に勉強しようとしました。でも、わからない漢字が多くて…」。尼崎市内で一番上の姉と一緒に障害児の通所施設を運営しているが、役所に提出する書類の作成にも苦労した。たとえば何度も記入した「発達障害」の文字。「『達』を『●(=にてんしんにゅう)(しんにょう)』から書いていたので、ものすごくバランスが悪かった。夜間中学で書き順を学び、格好良く書けたときはうれしかったです」
 子供たちが暮らしやすい地域、社会にしたい。そのために学び直しを-。切実な思いが、何年も前に駅前で見た夜間中学のポスターの記憶を掘り起こした。
 「よう来たなあ」
 かつて居場所がなかった学校になじめるのか。不安と緊張の中、大永さんは再び校門をくぐった。琴城分校が初めて受け入れる不登校経験者だったが、学びたいという気持ちが本物だと伝わると、他の生徒たちとの距離は一気に縮まった。仕事が忙しく遅刻して行っても「頑張って、よう来たなあ」と迎えてくれる。1時限だけでも授業を受けられれば学校に自転車を走らせるのは、そのひと言があるからだ。
 2年目の今年度は生徒会長を引き受け、学校外での行事や集会などでも積極的に表舞台に立つが、当初は夜間中学に通っていることを周囲に隠していた。「学校に行っていない過去を話すのが恥ずかしくて、言えませんでした」
 だが、年齢も国籍も異なる生徒たちは抱える背景も多様で複雑で、大永さんのまったく知らない世界を生きてきていた。戦争で家族を失い中国人の養父母に育てられた残留孤児、壮絶な差別を体験した在日韓国人、親の仕事や結婚などで来日した外国人…。涙を流してそれぞれの人生を語ってくれた。「夜間中学では数学や英語や社会など昼の中学校と同じように教科の勉強をしますが、仲間の人生に触れることで『生きること』についても学んでいると思うんです」
 嫌いだった学校が好きになり、つまらなかった勉強が楽しくなり、自分に自信がなくて一歩引いていた大永さんが熱心に人と関わるようになった。「学びたいという気持ちがあれば、人生はいつでもやり直しができる。20代でも、80代でも。琴城分校で私の第二の人生が始まりました」
 今、夜間中学生だと胸を張って言える。いずれ高校にも進学したい。「私のように夜間中学を必要としている人は大勢いると思う。一人でも多くの人に夜間中学に出会ってほしい」。心からそう願っている。
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期待される「学び直し」
 文部科学省(文科省)の平成29年度の調査によると、年間30日以上欠席する不登校の小中学生は14万4031人にのぼり、過去最多を更新。うち約6割が90日以上欠席している。
 不登校などで十分な教育を受けないまま中学校を卒業した「形式卒業者」の夜間中学入学は以前は認められていなかった。しかし、増加が続く状況などを受け、文科省は方針を転換。27年7月に形式卒業者の入学を認める通知を出し、28年12月には法的な支えとなる教育機会確保法が成立した。
 夜間中学には「学び直し」の場としての役割が期待され、文科省によると、29年7月1日現在、全国の夜間中学で計73人の形式卒業者が学んでいる。
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