【関西の議論】万葉集に詠まれた植物「ムラサキ」を復活、化粧品にも応用…滋賀の山村からブランド化狙う - 産経ニュース

【関西の議論】万葉集に詠まれた植物「ムラサキ」を復活、化粧品にも応用…滋賀の山村からブランド化狙う

ムラサキの根っこ「紫根」。抗酸化作用や保湿効果のある成分が含まれるとされる(前川真司さん提供)
ムラサキを使って染めた布。鮮やかな紫色が美しい(前川真司さん提供)
栽培したムラサキを使って開発された化粧品を紹介する「みんなの奥永源寺」の前川真司代表
滋賀県東近江市の奥永源寺地域にある耕作放棄地。今年ムラサキを植える予定だ=4月
耕作放棄地を耕す奥永源寺地域の住民ら(前川真司さん提供)
 「茜さす 紫野行き 標野(しめの)行き 野守は見ずや 君が袖ふる」「紫草(むらさき)の にほへる妹を 憎くあらば 人妻故に われ恋ひめやも」
 万葉集の代表的な恋歌である、額田王(ぬかたのおおきみ)と大海人皇子(おおあまのおうじ)の相聞歌(そうもんか)が詠まれたとされる蒲生野(がもうの)。そこは現在の滋賀県東近江市とされ、歌に詠まれた多年草「ムラサキ」がかつて山間部の奥永源寺地域に自生していたとされる。その奥永源寺で、ムラサキを復活させる取り組みが始まっている。仕掛け人は、地域おこし会社を立ち上げた元高校非常勤講師の男性で、化粧品会社と提携しムラサキを使った商品開発にも成功。「ムラサキのブランド化も」と夢を描く。(北野裕子)
美容に効果、幻の花ムラサキ
 ムラサキは初夏から夏に白い小ぶりの花を咲かせ、根は赤く、「紫根(しこん)」と呼ばれる。紫根の主成分「シコニン」には抗酸化作用や保湿、保護効果などがあるとされ、古くから漢方薬に使われてきた。また、スキンケアにも効果があるとされ、最近では化粧品などにも使われている。
 かつては国内で自生していたが徐々に姿を消し、環境省の絶滅危惧種に指定されている貴重な植物だ。現在、化粧品などに使われているムラサキは、中国産か大手製薬会社の契約農家が育てているものが大半だという。
 冷涼な気候を好むため、標高400メートル以上に位置する奥永源寺地域は自生に適しているとされ、東近江市の花にも指定されている。
ムラサキに引かれ
 そのムラサキを使って地域おこしを進めるのは、株式会社「みんなの奧永源寺」代表の前川真司さん(30)だ。
 ムラサキと出合ったのは十数年前で、滋賀県立八日市南高(東近江市)で非常勤講師として働いていたときだった。同校にムラサキの種が保存されており、平成16年に住民らと「紫草を育てる会」をつくり、ムラサキの調査などを始めた。
 活動を続けるうちにムラサキに引かれ、「歴史があり、価値があるのに、地域の人はほとんど知らない。これからも守り続け、地域で愛される存在にしたい」と思ったという。
 ムラサキの栽培やムラサキを使った商品開発も手がけたいと考え、27年に同市が募集していた奧永源寺地域の地域おこし協力隊に応募。人口約400人、高齢化率が50%を超える同地域で耕作放棄地を借り受けてムラサキの栽培を始め、3年で成功させた。
 昨年3月、協力隊の任期は終えたが定住を決意。自然や文化を生かした地域おこしを図ろうと、住民などから出資を募り、「みんなの奧永源寺」を設立した。地域の自然を生かした体験ツアーなどを行う一方、大阪の化粧品メーカーと提携し、ムラサキを使った商品開発にもこぎつけた。
 化粧品は4月26日から販売。「MURASAKIno(ムラサキノ)」と名付けたシリーズで、化粧水▽乳液▽美容液▽洗顔▽ハンドクリーム-の5種類。どの商品もうっすらとピンクがかった液が特徴で、見た目も美しいと評判だ。
 赤紫のパッケージデザインも滋賀県出身のデザイナーが手がけるなど、ボトルやパッケージにもこだわった。
 昨年9月、東京都内で開かれた美容業界の展示会では多くの化粧品販売会社などが興味を示し、手応えを感じたという。
栽培むつかしいムラサキ
 ムラサキは連作障害(同じ場所に同じ野菜などを栽培した際に生育が悪くなること)があるため、1度植えると4~5年は同じ畑を使えない。前川さんは5つ程度の耕作放棄地を確保し、栽培していくという。
 しかしまだまだ課題は多い。ひとつはムラサキの安定栽培だ。現在は種を保存していた八日市南高などの協力で、苗を無償提供してもらっているが、昨年は台風などで畑の水はけが悪く、全て枯れてしまった。
 紫草を育てる会の事務局長を務める八日市南高の山岡剛教諭は、水はけや日当たりなどを課題にあげ、「土などの条件をそろえるのが難しく、育てるのは簡単でない」と指摘。安定栽培にはさらに研究、調査が必要だとする。
 前川さんも生産の安定性を課題にあげており、今後、生育方法の研究にも力を入れたいという。
目指せ「奥永源寺ブランド」
 過疎化、高齢化が進む奥永源寺地域。前川さんは「化粧品だけが目的でなく、東近江市の花だと知ってもらい、地域活性化につなげたい」と話す。ムラサキを活用した産業で雇用を生み出すことや、地域ブランドとして発信していくことも考えており、「万葉集にも詠われた歴史ある花。ブランド化し、地域のみなさんに知ってほしい」と意気込む。
 ムラサキを詠った額田王や大海人皇子の相聞歌は、宝塚歌劇団で40年以上にわたって続く人気演目「あかねさす紫の花」の題材にもなっている。課題も多いが、前川さんはそんな“由緒ある”ムラサキを守り育て、町おこしにつなげる活動を、いち早く軌道に乗せたいと考えている。