小松左京・不滅のSF魂(1)トランプ大統領誕生40年前に「予言」 復活の日、さよならジュピター…

石野伸子の読み直し浪花女
旺盛な好奇心で多彩な活動を展開した小松左京

 小松左京(こまつ・さきょう)のSF作品の復刊が相次いでいる。

 昨年12月、文春文庫で出た短編集「アメリカの壁」は35年ぶりの復刊。続いてことし1月には、早川書房から「復活の日」がハードカバーで復刊され、この「復活の日」はその後5月にハルキ文庫で、8月には角川文庫で新装版として相次いで復刊された。

 「復活の日」は昭和39(1964)年、今から54年も前に早川書房から出版されたものだ。「日本アパッチ族」に続く小松左京のSF長編第2作。まだパンデミック(感染症の大流行)という言葉が世に知られない時代に、細菌兵器の流出による人類滅亡を描いて大きな話題を呼んだ。昭和55年にはデビューまもない草刈正雄の主演で映画化され、オリビア・ハッセー、チャック・コナーズなどハリウッドスターも出演して大ヒットした。

 さらに6月には小松左京の最高傑作とファンの多い「果しなき流れの果に」もハルキ文庫から復刊した。

 なぜいま小松左京なのか。

 小松は昭和6(1931)年大阪で生まれ、京都大学文学部を卒業後、経済誌の記者やラジオの漫才台本作家などをへて昭和36年、30歳でデビューした。発刊まもない「SFマガジン」主催の第1回空想科学小説コンテストに短編「地には平和を」を応募したのがきっかけだったがデビューと同時に、「日本アパッチ族」「復活の日」など話題作を相次ぎ発表。日本のSF界をリードした。

 作家活動だけでなく、多彩な活動を繰り広げた。昭和45(1970)年の大阪万博や平成2(1990)年の「国際花と緑の博覧会」など国家規模のイベントにおけるプロデュース活動、「さよならジュピター」の映画製作、幅広い評論活動など、旺盛な好奇心で時代を駆け抜けた異才ぶりは記憶に新しい。平成23(2011)年7月、80歳で死去。ことしは没後7年。その小松のSF魂が復活の機運をみせているのだ。

 ひとつのきっかけが米国のトランプ大統領誕生、というのがいかにも小松左京らしい。話がグローバルでジャーナリスティック。

 昨年復刊された短編集「アメリカの壁」の標題作「アメリカの壁」は昭和52年に発表された短編だ。

 ある日突然、米国の上空に分厚い霧の壁ができ、世界からの通信が途絶える。孤立する大国。しかし、時の大統領はベトナム戦争などで疲弊した国民に支持されたモンロー主義者で、なにやら陰謀のにおいがする。

 世界との通信が途絶えて2カ月。時の大統領が演説する。

 「この奇妙で不幸な孤立状態にわれわれは挫けたり感情的になったりしてはいけない。孤立状態はいつまで続くか誰にもわからない。しかし、アメリカには充分広大な国土があり、まだ未発見のゆたかな資源がある。つい三カ月前にもフロリダ沖で中東油田に匹敵する大油田が発見されたではないか」

 「ほかの世界から孤立させられてもアメリカはなお未来をきりひらく力をもっている。アメリカは生きのびる」

 アメリカンファーストを訴え国民を鼓舞する大統領。これはまるで現代アメリカに誕生した新大統領ではないか。分厚い霧の壁はそのまま、メキシコの壁ではないか。

 ネットで話題が広がり昨年2月にまず電子書籍でリリースされ、その反響が大きかったことから本での復刊となったという。

 復刊した短編集「アメリカの壁」で文庫解説を書いた小松左京の次男で、著作権管理事務所「小松左京ライブラリー」(神戸市)を運営する小松実盛さん(54)はこう言って笑う。

 「小松左京は根っからの心配性。いろんな網を仕掛けては極端な危機的状況を設定し、そこをどうクリアするかというシミュレーション作品を数多く書いた。だから、世界で起こるさまざまな危機にシンクロしてしまうのです」

 ある日突然東京を分厚い雲が多い、首都機能がマヒしてしまう「首都消失」、南極大陸にまで追い込まれた人類の再生を見つめる「復活の日」。巨大な危機をしかけ、社会がどうなるかを詳細に描いてみせる小松のシミュレーション小説。

 仕掛けた網の最大で最強のものが代表作「日本沈没」だったといえるだろうか。

石野伸子

産経新聞特別記者兼編集委員。生活面記者として長らく大阪の衣食住を取材。生活実感にもとづき自分の足と感性で発見したホンネコラムをつづるのを信条としている。

▼そのほかの「ベテラン記者コラム」を読む