【東京五輪への道】第一戦に舞い戻ったヒロイン、鈴木聡美…平泳ぎで頂点目指す - 産経ニュース

【東京五輪への道】第一戦に舞い戻ったヒロイン、鈴木聡美…平泳ぎで頂点目指す

 これまでの五輪で一大会3個のメダルを獲得した日本の女子選手は2人しかいない。ひとりは今年2月、平昌(ピョンチャン)冬季五輪スピードスケート競技で、金1つ銀1つ銅1つを獲得した高木美帆(24)=日体大助手。もう一人は2012年ロンドン夏季五輪競泳競技で銀1つ銅2つを獲得した鈴木聡美(27)=ミキハウス=だ。快挙を成し遂げた鈴木は21歳でロンドン五輪に出場。その後、世界の主要大会の表彰台から遠ざかったが、今年8月のパンパシフィック選手権の200メートル平泳ぎで久々に銅メダルを手にし、復活を印象づけた。2020年東京五輪にも「ロンドンから8年を経て、メダルを狙っていきたい」と意欲をみせている。(大宮健司)
ジャカルタ・アジア大会の女子100メートル平泳ぎで優勝し、ガッツポーズする鈴木聡美=ジャカルタ(共同)
返り咲いた表彰台
 五輪、世界選手権に次ぐ主要な国際大会として位置づけられているパンパシフィック水泳選手権。8月に東京で行われた今年の大会で鈴木は女子200メートル平泳ぎの銅メダルを獲得したが、これは彼女にとって、ロンドン五輪以来となる主要大会の表彰台だった。「記録もだいぶ戻ってきた。東京五輪に向けていいステップが踏めた」と笑顔を浮かべた。
 ロンドン五輪で、鈴木は女子200メートル平泳ぎの銀、同100メートルの銅、女子400メートルメドレーリレーの銅の3メダルを獲得する、当時では五輪の全競技を通じて日本女子初の偉業を成し遂げた。水に乗る伸びやかな泳ぎは、男子平泳ぎで五輪連覇を成し遂げた北島康介氏の泳ぎに比類すると言われた。ルックスとさわやかな笑顔から、「水泳界の夏目雅子」と騒がれ、一躍スターにのし上がった。
パンパシフィック選手権女子200メートル平泳ぎ決勝で3位に入った鈴木聡美=東京辰巳国際水泳場
 「五輪は初出場だったので、とにかく高揚感しかなかった。『いつも通りの泳ぎをやったらメダルを取れてしまった』という表現が正しいくらい。怖いものなしだった」と振り返る。だが、この偉業によって鈴木はその後の競技人生で苦しい時間を送ることになる。
期待が重荷に…自分を見失う 
 競泳界は16年リオデジャネイロ五輪での連続表彰台に期待をかけた。しかし、「メダルを取らなければいけない」という重圧にさいなまれ、思うような泳ぎができなくなった。社会の注目度の高さにも戸惑いを感じて、「周りは純粋な気持ちで応援してくれているのに、自分が義務感に感じてしまっていた」という。
 泳ぎを変えたことも悩みを深める一因となった。100メートルで通用するスピードを追求し、練習も短距離に重点を置いた。「擬音を入れると『ガシガシ』したパワフルな泳ぎが海外では主流だったので、まねてみた」。しかし、フォームを変えたことで本来の持ち味だった伸びやかな泳ぎを見失い、200メートルは後半に失速するようになった。結局、リオ五輪は200メートルでの出場を逃し、100メートルも決勝に進出できなかった。
パンパシフィック選手権女子200メートル平泳ぎで3位に入り、表彰台で笑顔の鈴木聡美=東京辰巳国際水泳場
 この挫折が大きな転機になった。リオ五輪は迷いを抱えたままレースを迎えていた。「自分も監督も、お互い良かれと思ってやってきたことが、やっていくうちに『違う気がするな』と思っていた。でも、監督に提案できなかった」。
 レースを終えると反省がこみ上げ、会場で監督に申し出た。「ロンドンの泳ぎを取り戻したい」。鈴木は惨敗に終わったリオデジャネイロの地から4年後の東京を目指し、再出発した。
 「ロンドンでメダルを取って、周りの視線が変わって、違った景色がいろいろ見えだして…。自分を見失っていた」と今では思える。
 一線級のアスリートが格言にする「悩んだときは初心に帰れ」という言葉の本当の意味も理解できたという。「『やらなきゃいけない』ではなくて『自分がやりたい』が大事。メダルではなくて、記録を純粋に求めていかないと、本来の自分の力は発揮できないことに気付いた」。
ジャカルタ・アジア大会女子100メートル平泳ぎ予選で力泳する鈴木聡美=ジャカルタ(共同)
戻ったロンドンの泳ぎ 
 今年4月の日本選手権の200メートルは若手の勢いに押され、23歳の青木玲緒樹(れおな)=ミキハウス、21歳の渡部香生子(かなこ)=早大=に敗れ、前年の2位から順位を1つ落とした。しかし本人は「今年の方がより伸びやかで、パワフルだけではない『すごく気持ちよさそう』という風に見える泳ぎができた。ロンドン五輪以来の感覚」と手応えをつかんでいた。
ジャカルタ・アジア大会で女子100㍍平泳ぎで(左から)2位の青木玲緒樹、1位の鈴木聡美=19日午後、ジャカルタ・アクアティックセンター(納冨康撮影)
 パンパシフィック選手権の後に臨んだジャカルタ・アジア大会では50メートル、100メートルの平泳ぎ、400メートルメドレーリレーで3冠を達成。特にリレーでは、個人のラップタイムでロンドンを上回る好タイムが出てと「驚いた」といい、自信を深めた。
【ミキハウスでアジア大会報告会】囲み取材に応じる競泳の(左から)清水咲子、青木玲緒樹、鈴木聡美=大阪府八尾市のミキハウス本社(撮影・甘利慈)
 女子の平泳ぎでは、27歳で出場したリオ五輪の200メートルで金メダルを獲得した金藤(かねとう)理絵(引退)の例がある。ぽっかり空いた次のエースの座を争う若手の追い上げも激しいが、成功も挫折も経験したベテランは、29歳で迎える東京五輪に向けて「今以上に厳しいトレーニングが増えてくると思うが、何のためにやっているかを思い返しながらやっていきたい。メダルを狙える位置にはいる」と話す。鈴木の視線は前しか向いていない。