王国誕生(2)関西私鉄は「官に対抗」が原動力 運賃や駅数…激動の阪神間

関西の力

 大阪-神戸間はJR、阪神、阪急の3社が競う鉄道激戦区だ。官設鉄道を補完するようなかたちで成長したとされる首都圏の私鉄と異なり、関西私鉄は「VS官設鉄道」という対抗意識が成長の原動力となった。「名を捨てても実を取る」-。こうした私鉄の気概が現在でも、JRへの対抗意識として息づいている。

競合する阪急、阪神、JRの3路線

「綺麗で早うて。ガラアキで 眺めの素敵によい涼しい電車」

 官設鉄道が走る路線に参入を目指していた阪神は難題に直面していた。明治26年に設立した前身の「神阪電気鉄道」が計画した大阪-神戸間の鉄道計画を当時の逓信(ていしん)省が認可しなかったのだ。阪神は妙案で対抗する。当時、道路の上に線路をつくる路面電車は「軌道」として内務省が管轄していた。阪神は鉄道ではなく軌道として特許を申請。路面電車として営業するということにしたのだ。

 明治38(1905)年の開業区間にはごく一部の軌道区間があったが、実態はほぼ鉄道。軌道という名目で“実”をとった。

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 この後、関西各地にこうした「軌道」が乱立。大正9年に神戸線を開通した阪急も、そのひとつだった。

 阪急の前身、箕面有馬電気軌道は「綺麗で早うて。ガラアキで 眺めの素敵によい涼しい電車」というキャッチフレーズで対抗する。阪急の担当者によると、「先行する他社に対抗し、スピードを売りにしようと駅数を絞り、社名も『阪神急行電鉄』と改名したほど」だった。

阪神大震災直後の阪急神戸線。架線がたれ、曲がった線路上を非難、買い出しの列をつくっている=平成7年1月19日、兵庫県西宮市

サービス競争

 大阪-神戸間をスピードでみると、JR新快速の大阪-三ノ宮間の所要時間が約20分と一番早いが、運賃を比べると、私鉄2社の方が安い。阪神は他社の約2倍の駅数があり、利便性がアピールポイントだ。

 速さの国鉄(JRの前身)と、安くて便利な阪急・阪神の綱引きは、当初は私鉄連合の方が優勢だった。JR西の資料によると、近畿圏のJR西在来線の年間輸送人員は昭和62(1987)年、8億900万人。阪急と阪神を合わせると、9億7800万人だった。

 阪急、阪神は自動改札、中づり広告の導入や全車両冷房化など、相次いで日本で初めてのサービスも導入するなど、快適さも充実させる。

 一方、国鉄は、私鉄との運賃格差を埋めようと、昼間だけ使える割安乗車券「昼間特割きっぷ」の販売を始めるなど対抗。平成27(2015)年には、JR西の9億9800万人に対し、阪急・阪神は計8億7800万人と逆転している。

強い同族意識

 逆転のきっかけのひとつは平成7年の阪神大震災だ。私鉄の復旧が難航するなか、JR大阪-神戸間が地震後わずか2カ月あまりのスピードで全線開通したことが、JRの乗客増の要因のひとつといわれている。

 私鉄各社は互いをライバルと認めつつも、つながりを強め、相互乗り入れなどを加速する。競争から共存への路線転換だ。「対JR」ということだけでなく、人口減社会を控え、鉄道会社は、乗客減少という共通の難題にも直面しているからだ。

 関西の鉄道史に詳しい奈良大の三木理史教授(地理学)は、「互いに対抗意識はあっただろうが、関西の私鉄は同族意識も強い」と指摘している。

(平成29年3月14日夕刊1面掲載 年齢や肩書き、呼称は当時)

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 伝統、文化、医学、農業、エンターテインメント、スポーツ…。関西には世界に誇れる魅力あるコンテンツがあふれている。現状の停滞を打破し、突破できる「力」とは何か。この連載では、さまざまなジャンル、切り口で「関西の力」を探る。