「ブラバン」は甲子園のもう一つの魅力 百回を彩ったアルプス応援

関西の議論

 熱戦を繰り広げた第100回全国高校野球選手権大会。真剣勝負はグラウンド上にとどまらず、アルプス席の吹奏楽応援も熱を帯びた。定番曲からオリジナル曲まで、時代ごとに形を変えながら数々の名場面を彩ってきた吹奏楽応援。なぜ多くの甲子園ファンを魅了し、高校野球に欠かせない存在となったのか。この夏話題となった応援を振り返りながら、その魅力に迫った。(桑村大)

絶対王者を支えた

 8月21日、決勝を迎えた阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)。大阪桐蔭(大阪)の三塁側アルプス席では、春夏連覇を後押しする吹奏楽部員170人が一糸乱れぬ演奏を続けた。

史上初の2度目の春夏連覇を後押しした大阪桐蔭吹奏楽部=兵庫県西宮市の甲子園球場

 同部は、全日本吹奏楽コンクールなどで何度も金賞を受賞している名門。吹奏楽の分野でも「王者」なのだ。「どこよりも早く新曲を取り入れるのが大阪桐蔭の応援の特徴」という部長の前田梨緒さん(18)の言葉通り、今夏も音楽グループ「DA PUMP」のヒット曲『U・S・A』や、福山雅治さんが作詞・作曲したNHKの今大会テーマソング『甲子園』など、数多くの新曲を演奏してスタンドを盛り上げた。

 指揮する梅田隆司監督(66)は「選手も知っている曲で応援される方が喜んでくれる。リクエスト曲はもちろん、選手が普段口ずさんでいる曲も取り入れている」と話す。

 こうした取り組みは、実力ある吹奏楽部ならでは。最新の曲は譜面が発売されていないことが多く、部員らがメロディーを譜面に書き起こすほか、試合内容に応じて曲目を変えるという。「コンクールでも甲子園でも同じ音を出すことを目指して演奏しており、野球部員の懸命なプレーを支えたいという一心です」と前田さん。

特徴が吹奏楽とマッチ

 吹奏楽応援はなぜ、これほど定着したのか。そこには、野球のプレースタイルが大きく影響しているようだ。

 「野球は攻守がはっきりと分かれ、メリハリがある。プレーごとに区切られているので、演奏を始めやすい。野球という競技の特徴が吹奏楽応援と合ったのではないか」。『高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究』の作者、梅津有希子さん(42)はこう分析する。

近江高校の吹奏楽部。奥の野球部員らは演奏に合わせて声援を送る=兵庫県西宮市

 吹奏楽応援はサッカーやバレーボール、駅伝など、野球以外の高校スポーツでも行われるが、野球ほど浸透していないという。梅津さんは「他競技と比べて高校野球の歴史が古いことも一つの理由ではないか」とも話す。

 甲子園での吹奏楽応援の発祥には諸説あるが、甲子園の常連校、東邦(愛知)のホームページ(HP)によると、戦前最後の大会となった昭和16年春の第18回全国選抜中等学校野球選手権で、前身の東邦商業の吹奏楽応援が最初だった。

 HPには、当時の吹奏楽部の様子を紹介する記事が掲載されており、その中で部員だった稲垣信哉さん(91)は「今のようなバトンやチアガールと一緒になっての華やかなものではなく、校歌や応援歌を演奏するだけでした」と語っている。

 吹奏楽応援は徐々に広まり、時代とともに発展。近年は応援曲も多様化し、定番曲以外の曲も人気の一つになっている。

アゲアゲホイホイ旋風

 「アゲアゲホイホイ! もっともっともっと!」

 野球部員らがメガホンを手に掛け声を上げ、軽快なリズムに合わせて一斉に踊り出す。高校野球の定番応援曲『サンバ・デ・ジャネイロ』に、このように合いの手をいれた応援が、アルプス席の一大ブームとなった。

 発案者は、報徳学園(兵庫)の応援団員だった玄之内大(げんのうち・だい)さん(22)=流通科学大4年=とされる。平成26年夏、前年秋の近畿大会で耳にしたサンバ・デ・ジャネイロのノリの良さを気に入り、「そのままでは面白くない」と、テンションが「アゲアゲ」で、点が「ホイホイ」と取れるという意味を込めた合いの手を考えたという。

「アゲアゲホイホイ」で盛り上がる報徳学園の部員たち明=8月16日、兵庫県西宮市

 応援はツイッターやユーチューブなどを通じて瞬く間に全国へ広がり、甲子園での応援にも波及。今夏は21校が使用し、“定番化”の様相をみせる。

「応援の力」実感

 一方、ファンに「魔曲」と親しまれる智弁和歌山(和歌山)の『ジョックロック』や龍谷大平安(京都)の『あやしい曲』など、オリジナル曲を取り入れて独自の応援スタイルを築こうとする高校も少なくない。

 初出場を果たした奈良大付(奈良)は大会前、得点機に演奏するチャンステーマを新調。スクールカラーのロイヤルブルーにちなんで『青のプライド』と命名された曲は、プロ野球・千葉ロッテの応援曲を手掛けた作曲家のジントシオさんが作曲・作詞した。

 重厚感のあるイントロに始まり、相手にジワジワとプレッシャーを与えるようなアップテンポなメインメロディーだ。2回戦の日大三(西東京)戦では、主砲・上野拓真選手(3年)がこの曲を背に3点本塁打を放ち追い上げムードを演出。「普段と違う曲なので気持ちが高ぶった」と、新チャンステーマに乗せられたと話した。

「あやしい曲」などのオリジナル曲の演奏で知られる龍谷大平安吹奏楽部の応援=兵庫県西宮市

 今大会、全出場校の応援を見届けた梅津さんは「個性ある応援曲が演奏されるのが甲子園の魅力。今大会も応援で流れが変わったと思えるシーンが何度もあり、応援が選手を後押しする力になっていると感じた。ぜひ一度は球場に足を運んで『応援の力』を実感してほしい」と話している。