鉄道の駅で航空機の搭乗手続き、派手な大阪ラッピング電車…台湾が観光に力を入れる理由 

 

 日本と台湾間で、多くの観光客を呼び込もうと、友好協定を結んだり共同して事業展開したりする動きが加速している。ただ、昨年1年間の台湾からの訪日客数が450万人を超える半面、日本から台湾へは約190万人にとどまり、台湾の側には不均衡な状態だ。こうした点からも、台湾はリピーター確保に向けた観光地の情報発信を強化。鉄道会社は、駅で飛行機に載せる荷物を預けられる世界でも数少ないサービスも導入するなど、観光客の迎え入れを強化している。(野々山暢)

世界最先端の旅行者向けサービス

 台湾最大の都市・台北市。ここから台湾北西部にある空の玄関口、桃園(とうえん)国際空港(桃園市)へ向かうには鉄道「桃園メトロ」を利用する。海外旅行からの帰国となれば、土産物など大きな荷物を抱えて移動するのがひと苦労。だが、台湾ではそんなストレスを感じない。

桃園メトロ・台北駅の「インタウン・チェックイン」では、駅に空港のように航空会社の窓口や航空券を発行する機械がある

 なぜなら桃園メトロが航空会社と連携して導入した「インタウン・チェックイン」があるからだ。空港に行く前に、鉄道の駅で事前に飛行機に積み込む荷物を預けられる仕組みで、世界で5カ所ほどしかないサービスだという。

 記者も帰国の際に利用してみた。台北駅に専用の機械があり、パスポートをかざすと予約していた航空券が発行される。隣には空港と同じような航空会社の窓口があり、航空会社のスタッフに荷物を預ける。

 その後は、機内に持ち込むかばんだけ持って空港まで移動。桃園メトロの台北駅から特急で約35分、桃園国際空港に到着した。すでに航空券があるため、航空会社の窓口に寄ることなく出国手続きに進んだ。

 「空港で何もしなくて荷物が届くのか」と不安だったが、関西国際空港では問題なく荷物を受け取れた。

 最先端のこのサービス、料金は無料。飛行機が出発する3時間前までに荷物を預けなくてはならないが、重い荷物を持って移動する労力と時間が減るのがメリット。それだけでなく、空港での手続きを省けるため、空港内で買い物をする時間を増やすことができた。空いた時間を利用し、空港に向かう途中、下車して身軽に観光を楽しむこともできる。

 桃園メトロは昨年3月の開業当初からこのサービスを開始。現在のところ利用できる航空会社はチャイナエアライン(中華航空)やエバー航空など台湾の航空会社が中心だが、提携先が広がれば、観光客の利便性はさらに向上する。

台北を走る“コテコテ大阪電車”

 このサービスのように、台湾の観光関連事業者らは近年、旅行者向けサービスを充実させたり、キャンペーンを強化したりしている。

台湾鉄路管理局の台北駅では近鉄と協同した写真展が大きく宣伝されていた=7月31日、台北市

 同じ桃園メトロは今年2月、南海電鉄と連携したセット券を販売。日本と台湾の両方で使える鉄道券で、同時購入で約2割安くなるほか、桃園国際空港と関西国際空港の双方の飲食店で割引も受けられる。

 桃園メトロ側は2千枚用意したが、5月までに完売。「セット券は予想以上の反響だった。空港以外にも日本の鉄道会社との共通点を見つけて、連携を進めていきたい」と担当者は積極的だ。桃園メトロでは巨大なカニや大阪城、通天閣などが描かれた派手なラッピング電車も台北市内で走らせており、観光連携への力の入れようが分かる。

桃園メトロでは大阪観光PRのラッピングがされた電車も走っている(桃園メトロ提供)

 関西つながりでは、台湾の国鉄にあたる「台湾鉄路管理局」が、近鉄グループホールディングスと連携し、沿線の観光地を紹介する写真展などを開催。琵琶湖で活動する滋賀県の旅客船事業者団体や、三重県の「御在所(ございしょ)ロープウエイ」も台湾の同種団体・企業と協定を結んでいる。

 なぜ台湾側はこのように力を入れているのか。背景にあるのが、観光客数の「不均衡な状態」(台湾当局者)だ。

台湾の訪日客は450万人超だが…

 日本政府観光局(JNTO)などによると、昨年1年間で台湾から456万人が日本を訪れ、前年より9・5%増加。大阪だけでも約140万人が訪れたと推計されている。

約180の屋台が並ぶ台北市内の寧夏夜市。多くの観光客が訪れる

 台湾鉄路管理局と連携している近鉄グループホールディングスは28年4月、アジアでの情報発信を強化するため、台北支社を開設。台湾一高いビル「台北101」(高さ508メートル)と「あべのハルカス」(大阪市阿倍野区)で友好協定を結んだ。近鉄の担当者は「台湾からの観光客は大きなマーケット。今後も互いの魅力を発信するイベントを企画していく」と打ち明ける。

 一方、台湾観光局によると、日本から台湾を訪れたのは189万人。台湾の人口が約2300万人であることを踏まえると、単純計算で約5人に1人が来日していることになり、日本に“恩恵”が偏っている不均衡な状況となっている。

台湾当局者「経済発展にも影響」懸念

 こうした状況を打破するため、台湾は事業者だけではなく行政も観光アピールを強化している。

 台湾観光局は今年、「海湾旅行年」をテーマに、さまざまな海岸風景が楽しめる10カ所の離島のPRを展開。また、8月には日本と台湾の大学生を対象に、台湾内に32カ所ある日本と同じ漢字表記の鉄道駅をめぐるイベントを開催した。

 さらに、台湾最南端にある屏東(へいとう)県は、9月上旬に大阪市内のホテルで旅行関係者を集めた商談会を予定している。

 台湾の観光スポットといえば、中国歴代王朝の秘宝を収めた「故宮博物院」や「台北101」など台北市内にある施設が有名だが、台北以外の魅力を発信することでリピーターの確保を狙っている形だ。

台北市内にある台湾一高いビル「台北101」

 国家発展委員会の陳美伶・主任委員は日台間の観光客の格差に「台湾の消費が日本に流れているといえ、台湾経済の発展にも影響が出かねない」と指摘。桃園メトロの担当者は「日本の利用者確保は重要。ますます日本の観光客にとって便利な交通環境を整備していきたい」と“観光不均衡”の解消に意気込んでいる。