【軍事ワールド】「トランプ宇宙軍」の目指す方向定まらず、視界不良… - 産経ニュース

【軍事ワールド】「トランプ宇宙軍」の目指す方向定まらず、視界不良…

ミッション(任務)の内容がほとんど公開されず「謎の宇宙機」と呼ばれるX-37(米空軍提供)
8月9日、宇宙軍創設のイベントに参加した米国のペンス副大統領(左)とマティス国防長官=9日、ワシントン近郊の国防総省(AP)
米空軍の通信衛星のイメージ図 (米空軍宇宙軍団のホームページより)
6月18日、米ホワイトハウスで国家宇宙会議に出席し、宇宙軍創設の必要性を強調するトランプ大統領(AP)
 米トランプ政権は9日、宇宙軍の創設を決定した。陸海空軍と海兵隊、沿岸警備隊に次ぐ6つめの軍事組織で、宇宙空間での軍事的活動領域を広げようとする中国やロシアへの対抗措置だとされる。だが、トランプ氏の「宇宙は米国が支配する」との言葉を実現するには、高いハードルがある。(岡田敏彦)
 宇宙を支配
 宇宙軍創設計画は9日、ペンス副大統領が国防総省で発表した。ペンス氏は「トランプ大統領が発言したように、宇宙にアメリカの存在が(人工衛星などとして)あるだけでは十分とは言えない。米国は宇宙を支配しなければならない」と強調。2020年までに宇宙軍を創設する計画を明らかにした。さかのぼること約1カ月半の6月18日にはトランプ米大統領もホワイトハウスで開かれた国家宇宙会議で同様の発言を行い「宇宙分野で米国の支配が必要だ」と断言しており、ペンス氏の発現はトランプ氏の意向を受けたものだ。
 宇宙で「軍」となれば、頭に浮かぶのはSF映画やSFアニメでおなじみの、人型ロボットや宇宙戦闘機がレーザー光線を撃ち合い戦うイメージが一般的ではないだろうか。だが、トランプ政権の「宇宙軍」は、こうした派手な戦いとは無縁のものだ。
 まず第一に、宇宙での戦闘機の撃ち合いやロボット同士の殴り合いといった戦闘は実現しない。宇宙へ出るということは、第一宇宙速度(秒速7・9キロメートル)以上の速さを有していることでもある。これより速度が遅いと地球の引力に引きずられ地表へ墜ちてしまうからだ。
 秒速7・9キロという猛烈な速度では、敵機と接触(会敵)することはほぼ不可能だ。見つけた次の瞬間には敵機は遙か彼方へ飛び去っているか、目に見えない速度ですれ違っている。
 こう見ると宇宙での“戦闘”など起こりそうにないが、トランプ政権の目指す宇宙軍の目的とは、「衛星の戦い」だ。
 衛星キラー
 秒速7・9キロという速度では、進行方向を変えにくい。急旋回など不可能だ。これは人工衛星も同じで、急激な軌道変更はできない。つまり、衛星の軌道を分析、計算すれば未来位置は導き出せる。そして長射程ミサイルで容易に撃ち落とせるのだ。
 34年前の1984年1月21日、米国は衛星攻撃ミサイルの実験を行った。ミサイルは2段式の「ASM-135」で、発射母機はF-15戦闘機を用いた。戦闘機を一段目のロケット扱いとしたこのミサイルは重さ約1・2トン、長さは約5・5メートルと通常の対艦ミサイル並の小型で、楽に戦闘機に搭載できた。
 実験は以降5回行われ、85年9月13日の実験では目標衛星に命中。“敵”の偵察衛星や通信衛星を小型のミサイルで撃破できることを証明した。
 ちなみに実験は成功したが、このミサイルは実用化されなかった。破壊した衛星の破片がスペースデブリ(宇宙のゴミ)となって地球周回軌道に残ったからだ。こんな兵器を実用化すれば、後のロケット打ち上げの妨げとなり、ひいては自国の衛星を打ち上げる安全な軌道が無くなるため、米議会が計画を中止させたためだった。
 だが現在、事情は異なる。中国やロシアといった米国の“軍事的ライバル”の国家は、軍事用の通信衛星やスパイ衛星、さらには米国のGPSと同様の中国版GPS「北斗」などを次々と軌道に投入しているうえ、衛星への危険性は増大している。
 宇宙条約とキラー衛星
 人工衛星や探査衛星の打ち上げなど、宇宙での活動を行う国はほぼすべて1967年の宇宙条約を批准している。同条約では宇宙空間の探査・利用の自由などを定めるとともに、核兵器や大量破壊兵器を地球周回軌道や宇宙空間に配備することを禁じている。ところが宇宙空間を通過する大陸間弾道弾については禁止していないうえ、通常兵器は非侵略目的なら認められるという解釈が一般的だ。
 米月刊誌「ナショナルジオグラフィック」(電子版)などによると、旧ソ連は1970年代に宇宙ステーションで特殊な大砲の発射試験を行っていたという。米国の衛星破壊ミサイル同様の危険な兵器だが、現在では散弾の発射やマイクロ衛星を直接衝突させるなどの方法に加え、よりスマートな方法、例えば人工衛星を攻撃する人工衛星(キラー衛星)に搭載したレーザーで衛星のセンサーを焼き切るといった手法や、強力な妨害電波で衛星の通信を遮断するといった方法もあるとの見方が一般的だ。一方では宇宙で核兵器を爆発させ、電磁パルス(EMP)で半導体を、ひいては衛星を破壊するといった恐れもある。また中国では近年、衛星破壊ミサイル「DN-3」の発射実験を行うなど、人工衛星の行く手には危険が満ちているのだ。
 こうした「キラー衛星」や「衛星破壊ミサイル」の脅威から自国の衛星を守るのは米国にとって急務だ。ハイテク化した米軍はいまや艦船や戦闘機、地上部隊など離れた部隊を組織的に動かすため衛星によるデータリンクを常用している。この“繋がり”を守ることは極めて重要なのだ。
 だが、「守る」となると、どうやって-との疑念が生じる。米メディアも今回の「宇宙軍」構想について具体的な情報はなかったとするものがほとんどで、どのような防衛方法を採るのか、またはキラー衛星を潰す攻撃衛星を開発し配備するのかなど、具体策は今後の行方を見守るしかないようだ。
 ただ、今回のトランプ政権による宇宙軍構想には、別の狙いも透けて見える。
 チキンレース
 米国ではすでに空軍内に「空軍宇宙軍団」が存在し、約3万6千人が所属。軍事衛星の打ち上げや早期警戒衛星などの運用にあたっているほか、「謎の任務を行う宇宙機」として知られるX-37の運用も行っているとされる。この組織を拡充すれば、宇宙軍を新設する必要はさしてない。
 大上段に構えて「6番目の軍」を作ると公表するのはなぜなのか。一部の米メディアで指摘されるのが次期大統領選だ。「2020年までに宇宙軍の創設を目指す」とペンス氏は述べたが、その2020年は、11月3日に大統領選が予定されている。選挙の直前に宇宙軍が組織され華々しくPRされれば、トランプ氏にとって実績のアピールとなる。
 もうひとつ見逃せないのが、この計画には「スターウオーズ構想」の再来ともいえる側面があることだ。
 1980年代にレーガン政権下で進められた戦略防衛構想(SDI)は、核兵器搭載の弾道ミサイルを迎撃可能とする最新兵器を開発し、核兵器を無効化することを目的に進められた。野心的な計画は当時流行の映画から「スターウォーズ構想」と呼ばれた。
 現在ではイージス艦やTHAAD(高高度防衛ミサイル)、PAC3などで弾道ミサイル迎撃システムは実現されているが、レーガン政権当時は異なったアプローチで進められた。
 宇宙の偵察衛星でミサイルを捉え、人工衛星に搭載したレーザー兵器やレールガンで攻撃する、つまり宇宙空間で迎撃を完結させようと計画したのだ。
 結果的には目標に技術が追いつかず、計画予算の増大や冷戦終結もあって計画は尻切れトンボに終わったが、宇宙とは別の成果があった。軍事大国ソ連は、この「宇宙戦争」に対抗しようと軍事費を増額させた。これが国家予算の破綻とソ連崩壊につながったと評価されているのだ。
 もちろん米国も軍事費増大によって貿易赤字と財政赤字という「双子の赤字」を背負ったが、ソ連という軍事的な脅威は文字通り消滅した。レーガン元大統領を尊敬しているともされるトランプ氏なら、この“狙い”を踏襲する可能性は十分にある。ただし、リスクはレーガン時代よりも重い。
 予算はどこから
 8月13日に米国の2019年度国防予算が成立し、中身はこれまでのトランプ氏の「軍を再建する」との言葉通り、大幅な増額予算となったが、予算のほとんどは人件費と旧式装備の維持整備費、そして研究開発に充てられる。ステルス戦闘機など新装備(最新兵器)の導入計画を前倒しで加速できるような「ゴージャスな増額」ではない。
 この米防衛予算は18、19年度と2年連続で予算強制削減の適用を免れてきたが、議会が3年連続で適用を止める保証はない。そして宇宙軍創設の予算は2020年度分から計上される見通しだ。
 現状でも少ないパイの取り合いをしているところへ、さらに新たなライバルが加わる。特に空軍ではかねてから「宇宙と空を区別する必要はない」との意見が根強く、宇宙軍は厄介者扱いされかねない。議会と軍が理解を示さなければ、宇宙軍は絵に描いた餅で終わる可能性もある。