見えない心の傷を癒やすため 学び考え続ける 「臨床宗教師」目指す決意

大阪北部地震
地震3日後の臨床宗教師実習で、特別養護老人ホームの利用者から話を聞く岡至さん(奥)。自坊も被災した=6月21日、大阪府茨木市(小野木康雄撮影)

 大阪北部地震は発生から18日で2カ月。被災した大阪府茨木市の善照寺僧侶で龍谷大大学院2年の岡至(いたる)さん(24)は、宗教者の専門職「臨床宗教師」を目指して研修に励んでいる。0歳のときに阪神大震災の影響で病気の手術が延期され、生死にまつわる苦悩を和らげる僧侶の役割に関心を持ってきた。それが今回直面したのは、だれも救うことのできない非力な自分だったという。「とにかく学び、考え続ける」。被災寺院の跡取りとして、そう決意している。

 6月18日午前7時58分。「ゴゴゴ…」という轟音(ごうおん)とともに、境内が激しく横に揺れた。

 何が起きたのか、最初は分からなかった。収まるとすぐ、庫裏(くり)2階の自室から離れに走った。足の不自由な祖母(87)が1人で住んでいるからだ。洗面台にしがみついて無事だった姿を確認し、肩を抱き合ってほっとしていると、出かけたばかりの両親も戻ってきた。

 善照寺は戦国時代の永禄5(1562)年に創建された古刹(こさつ)。太鼓楼は礎石から10センチほどずれ、地蔵堂の瓦が落ちた。江戸後期の文化10(1813)年に建造された本堂は引き戸が壊れ、余震のたびに天井から土ほこりが舞い落ちる。

 お寺と同様、門徒らの自宅は家財道具が散乱し、屋根が損壊して避難した人もいた。第15代住職の父、玲(りょう)さん(58)と民生委員の母、三奈枝さん(58)は地域を奔走。だが、焦りは募っても自分の出る幕はなかった。

 地震とは不思議な縁がある。生後5カ月だった平成7年1月、尿が膀胱(ぼうこう)から腎臓に逆流する「尿管逆流症」を患い、兵庫県内の病院で手術を受ける予定だったが、阪神大震災が発生。病院が負傷者の治療に追われ、手術は約半年延期された。後遺症で腎臓の機能は約6割に低下したという。

 そうした生い立ちもあって、4月から大学院で臨床宗教師の養成講座を受講。東日本大震災の被災地では津波の被害に遭った人たちと会い、防災が大切だと教わったが、今回の地震で教訓を生かせなかった。

 大阪北部地震の発生3日後、茨木市内の特別養護老人ホームでの実習で、利用者らにこう話した。「いつ地震が来るか分からないのに、本当にしておかねばならないことを忘れていた。煩悩に眼(まなこ)を遮られていた」

 日常が戻り、目に見える被害は少なくなった。だからこそ、表に出にくい心の傷を手当てすることや南海トラフ巨大地震に備えて今回の地震を風化させないことが大切だと考えている。

 「行動力を養うとともに、学び、考え続けたい」。来年1月まで、臨床宗教師研修に全力を注ぐ。(小野木康雄)

 臨床宗教師 被災者やがん患者らの苦悩や悲嘆を和らげる宗教者の専門職。相手の価値観を尊重し、布教や宗教勧誘を行わない。欧米の聖職者「チャプレン」の日本版として、平成24年度から東北大大学院が養成を始め、各地の大学に広がった。今年3月に日本臨床宗教師会の認定資格となり、146人が資格を取得した。