【関西の議論】「背広」は死語か…20代3割「知らない」 クールビズで消費も縮小 - 産経ニュース

【関西の議論】「背広」は死語か…20代3割「知らない」 クールビズで消費も縮小

高島屋大阪店のスーツオーダーのサロン=大阪市中央区
高島屋大阪店のスーツオーダーのサロン=大阪市中央区
大阪のビジネス街・本町界隈でスーツの上着を着ている人はほとんどいない=大阪市中央区
大阪のビジネス街・本町界隈でスーツの上着を着ている人はほとんどいない=8月、大阪市中央区
 高度成長期などにサラリーマンたちが使っていた「背広」という言葉が死語になりつつある。大阪の街頭で20代の男女に聞いたところ、「分からない」「思い浮かばない」などと30%近くが全くこの言葉を知らず、正確に知っている人でもほとんどが日常的に使っていなかった。国の調査でも、20代で「『背広』を主に使う」とする回答は2%弱しかない。代わって使われているのはスーツという英語由来の言葉だが、クールビズの普及で、サラリーマンでも1年の半分ほどは上着なしで勤務し、スーツに対する家庭の年間支出額は、クールビズ前と比べて約30%減少している。言葉も現物も、背広はどこにいってしまうのか。(張英壽)
「せびれ?」知っていても日常では使わず
 「背広」という言葉を知っているか-。大阪を代表する繁華街・ミナミ(大阪市中央区)で、20代の男女33人に聞くと、30%近い9人が全く知らなかった。
 「え、せびれ? 魚ですか」と驚いた大阪市淀川区の女性会社員(26)は「全く聞いたことがない」と率直に打ち明けた。スーツの意味と伝えて「背広」と漢字を書いて見せると、納得したように「背中が広く見えるという感じ」と話した。
 堺市堺区の男子大学生(20)は「昔の人が着る羽織るもの? 結婚式のときに着る長めのスーツ?」と想像をたくましくした。「『背広』はどこかで聞いたことがあるけど、意味がはっきりわからなかった」という。
 大阪府泉大津市の男子大学生(21)は「和服みたいなものかな。思い浮かばない」、大阪市中央区の病院勤務の女性(21)も「見当がつかない」とそれぞれ回答した。
 一方、背広の意味は知っていたものの答えに時間がかかったり、一部間違っていたり、あるいは内容が曖昧(あいまい)だったりする回答が11人いた。
 大阪府泉佐野市のIT会社員の男性(28)は当初「知らない」と話したものの、スーツのことと伝えると「わかった」と思い出し、「『背広』ははるか昔に聞いたことがあるけど、(頭から)消えかけていた」と話した。堺市北区の女子大学生(21)は「何でしたっけ」と自問し、「スーツ…。でも、スーツのどの部分か分からない。胸元あたりかな」。
 現代では、スーツや背広は上着とズボンを指すが、堺市東区の女性(22)は「サラリーマンが着るジャケットで、スーツの一部」、大阪府貝塚市の20代後半の女性会社員は「男性の着るジャケットの一つで、スーツみたいな感じ」と回答した。
 大阪府高石市の証券会社員の男性(24)も「スーツの上着だけの意味と思っていた」という。ただ、「クリーニング店の控えの紙にも『背広』と書いてあり、60代以上の客と接すると、『背広を脱ぎや』といわれる。学生時代は『背広』は知らなかったけど、わかるようになった」と説明した。
 はっきりと背広の意味を知っていると回答したのは13人。
 堺市堺区のアパレル店勤務の男性(27)は、相手の年齢によってスーツか背広かを使い分けており、「60~70代には背広、50代にはスーツのほうがしっくりくる。ただ個人的にはスーツと言っている」と語った。
 「背広はスーツのこと」と即答した兵庫県姫路市の男性会社員(26)は「父親が『背広』というので、こちらも『背広』と返すけど、ほかでは『スーツ』で通している」と教えてくれた。
 ほかにも、両親らが使用するため、背広を理解しているという声が聞かれたが、ほとんどの人は日常的にこの言葉を使っていなかった。
「背広を主に使う」のは10~50代で1~4%台
 文化庁の「国語に関する世論調査」では、平成27年度と11年度にこの「背広」と「スーツ」について調べている。全国の16歳以上の男女を対象に実施しており、27年度は1959人、11年度は2196人が回答した。
 両年度の調査では、背広とスーツのうちどちらを主に使うかと質問。「背広を主に使う」は11年度、34.7%だったが、27年度には19.8%と14.9ポイント減少。これに対し、「スーツを主に使う」は11年度、52.8%だったが、27年度には68.2%と15.4ポイント増加した。
 年齢層別にみると、27年度では、「背広を主に使う」は16~19歳4.8%、20~29歳1.8%、30~39歳2.9%、40~49歳3.6%、50~59歳4.9%、60~69歳32.3%、70歳以上50.2%。10~50代で極めて低い数値になっている。「スーツを主に使う」は16~19歳、20~29歳、30~39歳で90%超、40~49歳でも90%近くを占めており、50~59歳は75.7%、60歳以上は43%。
 27年度の調査からは、背広は60代以上の会話に多く現れるが、それより若い世代ではほとんど使われていないことが分かる。生まれた年代でいうと、昭和30年より前と、後で、大きな違いが出ているということになる。
 一方、11年度では、「背広を主に使う」は16~19歳5.4%、20~29歳6.7%、30~39歳14.1%、40~49歳25.5%、50~59歳49%、60~69歳52.4%、70歳以上68.4%だった。いずれの年齢層でも27年度を大きく上回っている。「スーツを主に使う」としたのは16~19歳、20~29歳で80%超、30~39歳71.2%、40~49歳58%、50~59歳38.8%、60歳以上29.8%で、こちらは27年度より低い。
 「国語に関する世論調査」で背広とスーツを扱ったのは11、27の両年度だけだが、この16年の間でも、会話から背広という言葉が大きく後退したことがうかがえる。
 ところで、この「背広」という言葉はどこから来たのだろうか。諸説あり、各種の辞典をあたってみても、明確な回答は記されていないが、英語の「シビル・クローズ(civil clothes=市民服)」が変化したという説が有力という。
 「新明解語源辞典」(三省堂)によると、このほか、背広を売り出した、英国ロンドンの洋服商の町・サビル・ロー(Savil Row)に由来▽スコットランドの毛織物産地「Cheviot(チェビオット)」の転訛(てんか)▽仕立てるときに背を広くとることによる-という説がある。中国語に由来するという説も紹介している。
 背広が、欧米から取り入れた服装であることは間違いないが、この言葉はいつごろから使われたのだろうか。「日本国語大辞典第二版」(小学館)によると、明治3(1870年)に使用例があり、明治20~22(1887~89)年に発表され、近代小説の始まりとされる二葉亭四迷の「浮雲」にも出てくる。
職場での服装カジュアル化、ピークの4分の1に
 呼び方のほかにも、変化はある。
 実は、家庭での背広、つまりスーツに対する支出はこの30年あまりで大きく減少している。総務省の家計調査によると、1世帯(2人以上、農林漁業世帯を除く)あたりの「背広服」に対する年間支出金額は昭和60年に1万3978円だったが、32年後の平成29年には半分以下の5217円にまで減っている。ピークだったのは平成3年の1万9043円で、この年と比べると、29年はほぼ4分の1だ。
 平成17年には、環境省が提唱したノーネクタイ、ノー上着の「クールビズ」がスタート。期間は当初、6~9月の4カ月だったが、東日本大震災が発生した23年から27年までは5~10月の半年間に伸びた。28年からは5~9月と1カ月短縮されたが、それでも5カ月に及んでいる。サラリーマンらはこの半年近い期間中、スーツにとって大切な上着を着用していない。さらに、インターネット時代に入り、年中カジュアルな服装で勤務するIT企業も多くなっている。
 1世帯あたりの背広の年間支出金額で、クールビズが始まる前の16年と29年を比較すると、7639円から5217円と約32%減少した。クールビズや職場での服装のカジュアル化が、スーツ支出減少の一因になっているとみられる。
オーダーは人気、「着ない」からお金かけられる
 ただ、スーツ市場が縮小する中で、オーダーメードの人気が高まっているという。
 高島屋大阪店(大阪市中央区)では昨年10月、税込みで5万円台からスーツをオーダーできるサロンをオープンし、人気を集めている。売り場の担当者は「嗜好(しこう)が多様化した現代では、カスタマイズ(自分の好みに作り替える)が付加価値を生む。低価格で品質がいいオーダーは魅力になっているはず」と話す。
 服飾評論家の池田哲也さんは「オーダーメードは、スーツの機能性を高める。機能性とは、体にフィットさせることで、細い人をたくましく見せたり、太っている人をスマートに見せたりすることだ。こうすることで、男性の体形の欠点を隠し、よりよく見せることができる。本来、スーツにはそんな機能があり、だからこそ世界中で愛用されてきた」と指摘する。
 そのうえで、「現代では1年のうち半分くらいしか、スーツを着ないかもしれないが、日常的に着ないからこそ、お金をかけられるともいえる。スーツは会社員のユニホームのようになってしまった感があるが、オーダーメードが普及することで、フォーマルな場では、いいものを着るようになるのではないか」と展望している。