あと5年で1世紀「大阪ガスクッキングスクール」が支持される秘密は

関西の議論
大阪ガスビル1階にある「クッキングスクール淀屋橋校」で、料理を習うエプロン姿の女性たち=大阪市中央区

 年間約4万人が利用している「大阪ガスクッキングスクール」(大阪市中央区)が、来年でオープン95周年を迎えようとしている。大正13(1924)年に設置された当初はガスの普及を目的に西洋料理を中心に展開していたが、戦後は「家庭の味」が見直されるように。その後、核家族化や共働き夫婦が増えてくるとライフスタイルが一変し、「イタめしブーム」や「健康ブーム」なども手伝ってメニューも多様化していった。時代とともに移り変わるニーズに合わせ、利用者の支持を集めてきた。(北村博子)

最初はガス普及が目的

 「はじめは『割烹(かっぽう)研究会』という名称でした。当時の『割烹』は高級料理ではなく、『切ったり煮たりする料理』という意味だったそうです」

 大阪ガスのマーケティング推進部の川瀬実登里さんが説明しながら大阪ガスの記録や研究をまとめた出版物「炎と食」を開くと、そこにはキッチンに向かう大勢の割烹着姿の女性が写っていた。

 川瀬さんによると、大正13年に開設された頃は、一般家庭にあまりガスが普及しておらず、台所で料理するのは薪(まき)や炭が主流だったという。

 明治時代のガス灯が、大正時代になると電灯に取って代わるようになり、同社は照明事業から撤退を余儀なくされ、家庭用の新たな熱源供給へとシフトすることに。大阪市内のガス供給は明治38年から始まっていたが、「ガスで炊いたご飯はくさい。腐りやすい」などのデマもあり、なかなか家庭に浸透することはなかった。

 同社は大正2年にガス料金を引き下げ、「安全」「便利」「簡単」を掲げて宣伝したが、思うような効果は得られなかった。そこで、ガスを実体験してもらおうと開設されたのが、料理教室だった。

 当時のメニューは流行していた西洋料理が中心。同社が保管するレシピには、「コムポト・チキン」「ポタージュ・ボストン」「バター・プリン」などハイカラなカタカナ料理が並ぶ。

主菜や副菜から菓子へ

 昭和8年、御堂筋沿いに大阪ガスビルが完成すると、同ビル7階に会場が移され、「瓦斯(がす)料理講習室」と名称も変更された。

 約100人も収容できる広々とした会場は大理石の調理台をはじめ、ドイツ製のレンジや湯沸かし器など当時では最先端の調理器具を備え、ガス器具のショールーム的な役割も担っていた。誰でも気軽に参加できるように参加費を下げ、家庭料理をメニューに取り入れたところ、毎回満席になるほどの人気を集めた。

 戦争中は一時中断していたが、昭和28年に料理教室を再開。人気料理人を講師に招くなどして受講者が増えていった。「大きな転機は40年代の高度成長期だと思います。オーブンが家庭に普及していくと同時に、パンやお菓子の教室が増えてきました」と川瀬さんは説明する。

 50年代以降は講習内容が多様化していき、「親子クッキング」や結婚前に料理を学ぶ「ブライダルクッキング」が話題に。58年に強火バーナーを搭載したテーブルコンロ「チャオ」が販売されると、中華料理やスペイン料理といった強火を使った教室も開設された。

 また、ビジネス街で働くOLをターゲットにした夜間コースが導入され、昼よりも多くの利用者を集めたという。共働き夫婦が増えてきたことから「男性クッキング」もスタートした。

増えるバリエーション

 平成5年に「大阪ガスクッキングスクール」に名前が変わり、利用者のニーズにこたえて、料理教室のバリエーションもどんどん増えていった。

 最近では流行語にもなっている「インスタ映え」する料理がヒットしているほか、グループの人たちと協力するのではなく、最初から最後まで独力で調理する「ひとりでクッキング」も人気上昇中だ。「昔は料理のレパートリーを増やしたいという利用者が多かったのですが、現在では基本的な料理の作り方がわからない人が増えたのではないか」と川瀬さんは分析する。

 また、「コラボクッキング」も多彩になっている。企業の新商品を使ったり、医師による減塩料理を習ったりするだけでなく、行政とのコラボで地産地消をテーマにした料理も展開。人気の調理道具がプレゼントされるコラボ企画まで登場した。

 平成26年からは、同社グループの社会貢献の一環として、親子向けの「防災クッキング」も手がけている。長期保存が可能な食料や水、カセットコンロなどを使い、健康面にも配慮した災害時に役立つメニューを提案している。

 今夏、大阪北部地震や西日本豪雨などの自然災害が相次ぎ、防災に対するニーズも高まるなか、同スクールメニュー開発室の畑中貴美子チーフは「災害時の経験を見つめ直すことで、料理教室に対しても必要なことが見えてきたり、考えることが出てくるかもしれない」と指摘する。

 今年7月にはこれまでの教室の歩みなどを紹介するイベントが大阪ガスのハグミュージアム(大阪市西区)で初開催され、約千人の参加者でにぎわったという。人々の暮らしに寄り添いながら、ガスを使った料理のおいしさを伝える同スクールは、消費者のさまざまな要望や期待を背負って、これからも歴史を紡いでいく。