【衝撃事件の核心】中国に「旧日本軍が残した札束」はすべて偽札だった - 産経ニュース

【衝撃事件の核心】中国に「旧日本軍が残した札束」はすべて偽札だった

 聖徳太子が描かれた旧一万円札の偽札を渡したなどとして偽造通貨交付罪に問われた中国籍の男(65)に対する裁判員裁判の判決公判が7月、大阪地裁で開かれた。男は偽札約180枚と引き換えに4万人民元(事件当時のレートで63万円相当)を受け取っていたという。「旧日本軍が中国に残した遺産」と男はもうけ話を持ちかけていたが、偽札などに詳しい専門家は眉唾物だと一刀両断。地裁も男に懲役3年を言い渡した。
「旧日本軍の遺産」
 判決によると、事件の全体像は次のようなものだ。
 《男ら中国側の人物は、偽造の旧一万円札を日本側の人物に売却することで利益を得ようとした。一方、日本側の人物は日本で現在の一万円札に換金してもうけを出そうとした》
 これを念頭に事件を追う。
 当時日本に住んでいた男は平成24年春、日本人の知人に「旧日本軍が中国に残していった装飾品などの民族遺産がある」などと持ちかけた。この話に知人ともう1人の日本人が乗り、男は25年6月、“民族遺産”に含まれている旧一万円札約180枚を日本人男性に渡し、4万人民元を受け取った。
 だが、これはすべて偽札だった。
 日本国内に偽一万円札が出回っていることが発覚。警察が捜査を進めると、男から偽札を受け取っていた日本人2人の存在が浮上した。警察は、偽札であることを認識しながら詐欺話に乗っかり、売りさばいてもうけようとしたとみて27年1月、2人を偽造通貨輸入容疑で逮捕。28年までにいずれも実刑判決が確定した。
 一方、中国人の男は指名手配された後、29年4月に香港から関西国際空港に到着した際に偽造通貨輸入容疑で逮捕され、翌月、偽造通貨交付罪で起訴された。
旧一万円札が狙われる
 今回、犯罪の道具に使われた旧一万円札。発行されたのは昭和33年から61年初めだが、使うことは可能。日本銀行によると、現金自動預払機(ATM)では使えないが、日銀本店や支店の窓口で現行の一万円札と引き換えられる。
 ただ、発行停止から30年以上が過ぎ、見かける機会はめっきり少なくなった。存在すら知らないという人も増えている。専門家によると、そうした希少性が犯罪者につけ込まれやすいポイントなのだという。
 通貨鑑定を手がける民間機関「偽造通貨対策研究所」(東京)の遠藤智彦所長によると、旧一万円札は現在ほとんど流通しておらず、一般の人はおろか、金融機関の職員らも偽造と見破れない可能性がある。また、紙幣にアルファベットと数字の組み合わせで印刷されている「記番号」によってはオークションで高値がつくなどといい、「換金のしやすさ」が旧一万円札が狙われる一因になっている。
 さらに、遠藤所長は「ホログラム(角度を変えると、画像の色や模様が変化して見える)や潜(せん)像(ぞう)模様(傾けると文字が浮かび上がる)といった偽造防止対策が施されている現在の一万円札に比べ、偽造しやすい」とも指摘する。
一見してでたらめな書類
 今回の事件も旧一万円札の珍しさを悪用したのかもしれない。
 中国人の男は公判で自分の立場を「通訳」と釈明した上で、偽札を持っている中国側の人物から「一万円札は戦後賠償として中国での印刷が認められたもの。日本政府の許可を得れば使用できる」と聞いていたと主張。「日本人の男らが日本政府の認可なく使用すると思わなかった」ので、偽造通貨交付罪の認識はなく、無罪だと主張した。
 だが、地裁は今年7月の判決公判で「偽札だと認識していた。日本人が換金目的で偽札を受け取ったことも分かっていた」などとして男の主張を真っ向否定。懲役3年(求刑懲役6年)を言い渡した。
 地裁は判断の理由の一つとして、旧日本軍が投降時に置いていったと、中国人の男が供述した「賠償承諾書」について、平成になってできた「財務省」が登場するなど「一見してでたらめな書類」と指摘。中国人の男もそれは分かったはずだとして、言い分に信用性はないとした。
 「旧日本軍が中国に民族遺産を残した」という突拍子もない話が発端だった今回の事件。遠藤所長は「戦争や歴史を絡めたもっともらしいストーリーをかたる手口の事件は多い」としたうえで、こう断言する。
 「中国に眠っていたとされる資金に関する相談を数多く受けたが、本物だったことは一度もない」