【西日本豪雨】「生まれた子牛のためにも」 濁流に飲まれた被災牧場が再建目指す 東広島市

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 西日本豪雨の際に川が氾濫し、飼育中の牛約30頭が濁流にのまれそうになった牧場がある。牛は無事だったが体調不良が相次ぎ、大半の飼料が流失するなど窮地に陥った。しかし、豪雨の直後に子牛が誕生し、牧場に希望をもたらした。「この子のためにも、少しでも早く元の状態に戻らんと」。小さな命を守るため、牛を育てる男性は再建を誓った。(森西勇太)

 「もう終わった。みんなやられてしまう」。

 7月7日午前6時半ごろ、広島県東広島市安芸津町の岡崎牧場。牧場から少し離れた自宅にいた岡崎義博さん(42)は、牛舎の様子を映すモニターの前で愕(がく)然(ぜん)とした。牧場近くの川が豪雨で氾濫し、牛舎に流れ込んだ濁流が牛の顔の高さに達しそうだった。牛たちは不安なのか、身を寄せ合うように集まる様子も確認できた。岡崎さんは画面の前で、ただ無事を祈るばかりだった。

 約1時間半後、濁流が引き牧場に駆けつけると、幸いにも流された牛はいなかった。生き残っていたことに安心したが、牧場は土砂で一面茶色に覆われ、牛舎は損壊。ほとんどの飼料が流され、「これからどうしたらええんじゃ」と途方に暮れた。

 ただ、絶望の中、牧場に明るい話題が舞い降りた。翌8日、オスの子牛が誕生したのだった。

 子牛は生まれてまもなく立ち上がり、母牛の乳を飲んで元気な様子を見せた。出産予定日は、雨が激しくなってきた7月6日午後だった。「あの時生まれたら、あんたおらんかったで」。出産に立ち会った岡崎さんは、子牛にこう語りかけた。

 ただ、牧場経営が厳しいことに変わりはない。被災後の約1週間は、牧場付近の道路が寸断されたため餌を運搬できず、通常の半分ほどの量しか与えることができなかった。濁った水を飲んだ牛が下痢をしたりするなどし、体調を崩していた。

 「生まれてきた子牛のためにも、できるだけ早く元に戻らんと」。その思いだけで約1カ月間、牧場の復興に突き進んだ。家族総出で、牛舎に流れた土砂をスコップでかき出した。餌のわらを切る機械が水没のため故障し、1日約100キロのわらを手作業で切り続けた。

 今では餌を十分与えられるようになり、これまでのような生活を取り戻しつつある。しかし牧場では、完全に除去できない土砂で砂ぼこりが舞い、牛が肺炎や感染症にかからないか気がかりだ。岡崎さんは「牛たちにつらい思いをさせないためにも、できるだけ早く再建したい」と汗をぬぐった。