【関西の議論】退去か継続か 京大・吉田寮の「百年戦争」、最終局面へ - 産経ニュース

【関西の議論】退去か継続か 京大・吉田寮の「百年戦争」、最終局面へ

 大正2(1913)年建築の京都大「吉田寮」(京都市左京区)は、小説家・梶井基次郎やノーベル賞を受賞した赤崎勇博士も暮らした、国立大で現役最古の学生寮だ。その吉田寮が揺れている。大学側は老朽化による危険性を指摘し、9月末までの全員退去を求め、寮生は反発。寮生側は、歴史ある寮について広く知ってもらおうと、「吉田寮ツアー」を始めた。一般には近寄りがたい、入りづらいといったイメージがある吉田寮。木造建築の中には、社会とは違った時間が流れているような空間が広がっていた。(池田祥子)
築105年の異空間
 ツアー開始に先立ち吉田寮旧棟内を訪ねた。
 京都大吉田キャンパスの敷地内の南側にたたずむ古い木造2階建ての建物。「京都大学 吉田寮」と記された木造看板が掲げられた入り口に近づくと、玄関脇の小部屋から寮生が奏でるピアノのメロディーが流れてきた。
大正時代に建てられた国立大の現役最古の学生寮「吉田寮」の玄関=京都市左京区
 旧棟は、玄関や共有スペースがある管理棟と、寮生が生活する3棟からなる。築105年の古い木造の廊下をきしませながら進むと、洗面所らしき水場やガスコンロ、積み重なった鍋や皿などが無造作に置かれている。土壁に畳敷き(6~10畳)の寮生が暮らす部屋も雑然とした様子だ。手入れが行き届かない中庭では、鶏の親子が放し飼いにされていた。
吉田寮内の廊下=京都市左京区
 いろいろな生活臭が漂い混とんとしている一方、建物には至る所にレトロ感が残り、周囲の喧噪(けんそう)とは全く異なった「古き良き時代」を感じさせる空気が流れていた。
 吉田寮は相部屋が基本になっている。「ちょっと不便さもあるけれど、ここの良さは住んでみないと実感できない」。理学部4年の喜友名(きゆな)正樹さん(21)は語る。
 吉田寮の魅力の一つは、寮費400円を含め毎月2500円という生活費の安さ。現在、旧棟と平成27年築の新棟で構成され、計約240人が暮らす。
突然の退去通告に反発
 吉田寮は存続をめぐって大きな危機に直面している。
 京大側は昨年末、新棟を含む全寮生に今年9月末までに退去することを求める「基本方針」を策定し、寮生側に通告した。旧棟の老朽化に伴う安全確保のための措置としている。寮生側は補修などによる維持を主張しているが、今後旧棟をどうするのかは決まっていない。
階段は大正当時の様子が伝わる=京都市左京区
 かつて老朽化を巡る話し合いは、団体交渉(団交)形式で行われてきた。しかし、27年に就任した担当副学長は、代表者同士で話し合う方法などを提案。学生側によると、京大側はこれまでの交渉内容を反故(ほご)にしたといい、寮生らは反発。そんな中での基本方針策定に、寮生側は「一方的な通告だ」と対立を深めた。
 その後、寮生側は代表者同士で話し合う方法をおおむね受け入れることとし、今月に入り約3年ぶりに交渉が再開した。しかし、寮生の間には依然、不信感がくすぶる。新棟の寮生も退去を求められているうえ、旧棟をどうするのか具体的に決まっていないためだ。文学部4年の松本拓海さん(23)は「今回も『意見として聞いておく』と述べるだけで、大学側からは対話に応じる姿勢が感じられない。このまま取り壊しの可能性があるのではと疑っている」と憤る。
 一方で大学側は基本方針で、退去した寮生のうち希望者には現在の寮費(1カ月400円)で大学が、ワンルームマンションなどの生活用の代替施設を用意すると提案。このままでは就職活動などに何らかの影響が出ることを恐れる一部寮生らが退去し始めているという。
 7月の会見で吉田寮問題を問われた山極寿一(じゅいち)総長は「対話は始まったばかり。誠実に答えてくれることを願っている」と語った。さらに、「これまで学生を信頼し自治を認めてきた。名前を名乗らずに集団で大声を上げる団交はしないが、寮生と話し合う必要性は感じている」と述べた。
市民向けツアー糸口に!?
 京大には吉田寮のほかに、熊野寮、室町寮、女子寮(立て替え決定)があるが、「安全性に問題があるのは吉田寮のみ」(京大)という。
 学生寮は学生が自治会をつくり、運営方針を決めて自主的に管理、運営する。昭和30~50年代には学生運動の拠点になった場所もある。学生寮をめぐっては、老朽化で取り壊しが決まった旧制一高寮の東京大駒場寮(東京都目黒区)では、反対派の寮生らが寮を占有。平成13年、明け渡しを求めた訴訟で最高裁が寮生側の上告を棄却し、廃寮となった。
 吉田寮の結論が見えない中、寮生側は、補修・改修のアイデアを募る「市民と考える吉田寮再生100年プロジェクト」を立ち上げた。その一環で、寮について広く知ってもらおうと、市民らを対象に寮内を巡りながら生活の様子を説明するツアーを計画。毎週土曜に食堂で寮生らが交流を図るために開店する「食堂酒場」への参加者を募っている。
 喜友名さんは「寮生は、なんでもかんでも特権を振りかざせばいい、とは思っていない。建物の歴史、文化的価値は貴重だし、寮生だけでなく多くの人と、どこに価値を見いだして残していくのか具体的に考えるきっかけになれば」と話している。
寮生が再現した戦前の吉田寮の室内=京都市左京区
 ツアーは8月4、5日。この日程以外での見学希望も可。問い合わせは(yoshidaryo100nen@gmail.com)