【関西の議論】突如崩れた民家、静かに進行する高齢化社会の家屋倒壊 - 産経ニュース

【関西の議論】突如崩れた民家、静かに進行する高齢化社会の家屋倒壊

 前触れなく、音を立てて崩れ落ちた。大阪府東大阪市で6月、老朽化した民家が突如倒壊し、住人の親子2人が一時下敷きとなった。「家屋は以前から傾いていた」(近隣住民)のに、対策が講じられることはなかった。建築物の維持修繕は原則的に家主の責任。空き家であれば撤去を勧告・命令できるが、実際に住んでいる場合は行政も対応が難しい。高齢化社会の深化に伴い、こうした老朽家屋の「自然倒壊」も増えるとみられ、専門家は実態把握の必要性を訴えている。
「助けて!」叫ぶ声
 ドドドド…。地響きとともに、すさまじい土煙が舞い上がった。
 6月8日午後5時すぎ、大阪府東大阪市川俣本町。木造2階建ての民家がいきなり全壊したのだ。近所の男性(69)はその瞬間こそ見ていないが、すぐにこの家が倒壊したのだと分かった。「前から全体が傾き、つっかえ棒のようなもので支えている状態だった」
 男性によれば、この民家には70代の女性と2人の息子が暮らしていた。当時、家にいたのは女性と50代の長男。市消防局によると、2人は建物に挟まれ、身動きがとれない状態だった。
倒壊した大阪府東大阪市の民家(志儀駒貴撮影)
 「助けて、痛い!」。 がれきの中から女性が叫んでいた。「『大丈夫、がんばってや』とみんなで励まし続けた」と男性は振り返る。2人は約1時間後に救出された。いずれも脚などにけがをしていたが、命に別条はなかった。
 現場は、近所でも有名な“危険家屋”だった。向かいに住む男性(70)もいつ崩落するか、いつも気がかりだった。といって、住人に補修をするよう頼むこともなかったという。「出ていってくれと言っているように相手に受け取られるのは嫌だった。行政が何らかの指導をしてくれていると思っていたが…」
 倒壊した家は、正確な築年数は不明だが、数十年~100年程度は経っているとみられ、老朽化が目立っていた。捜査関係者によると、家はこの住人らの持ち家だったが、土地は借地で、現在はこの場所から離れたという。
自然倒壊、各地で
 こうした自然倒壊現象は実は各地で起きている。岐阜県大垣市では平成28(2016)年9月、築95年の木造2階建て民家が崩れた。20年8月には東京都渋谷区で築約80年の木造2階建て民家が崩壊している。
 一般社団法人「あんしん解体業者認定協会」(東京都港区)の担当者は、東大阪市の民家倒壊について「腐敗した木材が瓦の重みに耐えられなくなった可能性が高い」とみる。現場の画像を確認したところ、上部からの圧力で家屋を支える木材が崩れたのが分かったという。
 木材の腐敗は湿気を含むことで進行が早まるが、この家の立地も周囲を民家に囲まれ、風通しが悪かったとみられる。
 一般的に自然倒壊に至る要因としては、ほかに地中の埋設物の存在が挙げられる。
 高度成長期はまだ、建築時に出た廃材を地中へ捨てる慣習が残っていた。その地下埋設物も時が経てば腐敗し、地盤沈下の原因になる。その上に立つ家屋が古くなっていれば、小規模な沈下であっても、それをきっかけに一気に崩れ去るというのだ。担当者は「放置してもリスクしかない」と早急な修繕の必要性を指摘している。
行政関与にも限界
 東大阪市は昨年3月、市内にある空き家の実態調査を行っていた。今回の自然倒壊物件はこの中で「空き家」と報告されていたが、職員が現地で再調査をして居住者がいることが判明した。
 27年5月に施行された空き家対策特別措置法では、倒壊の危険がある建築物を「特定空き家」とし、市町村長が撤去や修繕を勧告・命令できるほか、税制優遇の停止も可能とした。
 しかし今回、自然倒壊したのは空き家でなかったため、東大阪市もそれ以上の調査はせず、危険性の判定もしていなかった。
 建築基準法では「常時適法な状態に維持」することを所有者らに求める一方で、放置すれば著しく保安上危険、または著しく衛生上有害な場合、行政が除却命令など必要な措置もできるとしているが、実際に住人がいる場合は生活基盤を奪うことになり、命令を出すハードルは高い。
 今回の倒壊民家は昭和56(1981)年以前の古い耐震基準で建設されたとみられる。住宅政策に詳しい近畿大の森本信明名誉教授(住宅計画)によると、耐震診断さえ受けていれば、倒壊危険がある建物として早期に発見できた可能性が高いという。
 森本名誉教授は「行政側の関与にも限界がある。家主は自身に管理責任があるという意識を強く持つべきだが、周辺住民の気付きも重要だ」と話している。