【軍事ワールド】沈没ロシア軍艦は「宝の船」か 韓国で発見めぐり大騒動に - 産経ニュース

【軍事ワールド】沈没ロシア軍艦は「宝の船」か 韓国で発見めぐり大騒動に

韓国・鬱陵島沖の海底で発見したと発表されたロシア海軍の巡洋艦「ドミトリー・ドンスコイ」(共同)
韓国で公開されたドミトリー・ドンスコイの模型(AP)
韓国領・鬱陵島沖の海底で発見したと発表されたロシア海軍の巡洋艦「ドミトリー・ドンスコイ」(共同)
韓国領・鬱陵島沖の海底で発見したと発表されたロシア海軍の巡洋艦「ドミトリー・ドンスコイ」(共同)
韓国で公開されたドミトリー・ドンスコイの模型(ロイター)
 日露戦争の雌雄を決した日本海海戦(1905年)で自沈したロシア戦艦「ドミトリー・ドンスコイ」を韓国の新興企業「シンイル・グループ」が発見したとのニュースが今月中旬に流れた。シンイル・グループは同船に約15兆円相当の金塊が積まれていたとし、「お宝」の引き上げにも言及したが、韓国内でお宝の所有権や引き上げ資金の集め方をめぐり大騒動に発展。「詐欺ではないか」との疑惑も噴出している。(岡田敏彦)
 沈没戦艦の探索
 ドミトリー・ドンスコイは1883年に進水、3年後に就役した装甲艦。日露戦争時にはバルチック艦隊に所属し、ロシア本国から半年かけて日本海へ投入された。他艦が次々と沈没するなか奮闘し、最後は日本の降伏勧告も受け入れることなく鬱陵(ウルルン)島付近で自沈した。
 それから113年たった今年7月17日、韓国のシンイル・グループがドミトリー・ドンスコイを発見したと発表した。ロイター通信やAFP通信によると、同社は「『宝船』とされるロシアの軍艦を発見したと発表」。水深約425メートルの海底でみつけたというもので、キリル文字でドミトリー・ドンスコイの艦名が記されたプレートがはめられた沈没船の写真も発表し「世界で唯一の発見者」だと主張した。またCNNなどに対してシンイル・グループは「当局に届け出たうえで海上にひきあげる」との方針を示した。
 沈没した軍艦の探査、発見は近年、マイクロソフト共同設立者のポール・アレン氏がフィリピン沖で第二次大戦時の戦艦「武蔵」を発見するなど大きな注目を浴びている。海外でもドイツ潜水艦「Uボート」の沈没位置の特定などがダイバーたちによってなされてきた。そこには当時を生きた人々への追悼や、歴史の謎を解き明かす夢とロマンがあった。そしてこのドミトリー・ドンスコイ探索にもあるはずだった。
 夢は生々しく
 ところが事態は間もなく思わぬ方向へ動く。韓国紙・朝鮮日報(電子版)は23日、発見者のシンイル・グループを巡り、投資家が被害者の会を結成したと報じた。同紙によるとシンイル・グループはかねてからドミトリー・ドンスコイに150兆ウォン(約15兆円)の金塊が積まれているとして引き上げ資金集めのため投資を募り、今年初めには「シンイル・ゴールドコイン」という仮想通貨を発行。投資家らは「ドンスコイが引き上げられれば、金塊の売却収益も配当するという説明を受けた」などと話している。ところが、一部の専門家が「金塊があるという確証はない」と指摘したことで、投資家らが不安を抱き反発したのだ。
 もうひとつの原因は、ある企業の株価の動きだった。ドンスコイ発見の報道があった17日、韓国紙・中央日報(電子版)によると「第一製鋼」という企業の株価が急騰、前日より30%上昇し4160ウォンで取引を終えたのだが、この急騰には引き上げ話がからんでいた。
 朝鮮日報(電子版)によると、今月6日、一部インターネットメディアが「シンイル・グループが第一製鋼を買収した」と報じていたのだ。この情報を信じた人々は第一製鋼も注目株になると見て先手を打ち、買いに走ったとみられるが、株価の急騰後にシンイル・グループは買収話を否定し、株価は急落。
 しかも同紙によると、買収を報じたインターネットメディアは、シンイル・グループと業務提携していたというのだ。AFP通信(電子版)によると急騰後の第一製鋼株は60%近く下落しており、株価急落で損をした投資家たちは、シンイル・グループの代表を告訴することも検討しているという。
 さらに同通信によると25日には韓国の金融監督院がシンイル・グループに対して調査を開始したことを明らかにした。株価の操作や仮想通貨の不正販売の疑いがもたれていると同通信は報じている。
 沈没船は誰の物か
 このあと、引き上げを推進するシンイル・グループの会長には「詐欺の前歴があるとの証言がある」「仮想通貨『シンイル・ゴールドコイン』にはドミトリー・ドンスコイ発見後、2日間で100億ウォン(10億円)があつまった」(いずれも朝鮮日報電子版)などシンイル・グループに関する情報が飛び交い、26日には同グループが記者会見を行った。
 中央日報(電子版)によると、同グループのチェ・ヨンソク代表は「ドンスコイに150兆ウォンの宝物(金塊)という言葉は、我々が探査する前からメディアで報じられていた。検証なく引用していた」として国民に謝罪するなど、実際に150兆円分の金塊を確認したわけではない点について説明した。一方で第一発見者としての所有権を主張したが、これにも異論が提起された。
 朝鮮日報(電子版)など韓国メディアは、すでに2003年6月、韓国の東亜建設と韓国海洋研究院がドミトリー・ドンスコイを発見していたと指摘。東亜建設は1998年の通貨危機で経営が危うくなり、起死回生で引き上げ事業に乗り出した。当時の報道では無人潜水艇が沈船を撮影し、バルコニーの模様などからドミトリー・ドンスコイであることを確認したとしている。この際は引き上げに至らず東亜建設は破産、投資家らも大損をして終わったが、第一発見者は東亜建設であるとの主張が認められれば、シンイル・グループにドミトリー・ドンスコイの所有権はなく、積まれているとされる金塊の所有権もなくなるとの見方がある。
 さらに重要なのがロシアの存在だ。世界各国の海軍の間では、沈没した軍艦については遺骨収集を行うのが原則だが、沈没位置が深海であるなど収集が難しい場合、沈没した軍艦を墓に見立て、永遠に保存し慰霊するのが共通認識とされている。
 また沈没船の所有権については法律的に複雑な面はあるものの、軍艦の所有権は浮かんでいようが沈んでいようが軍艦の所属国にあるという認識も一般的とされる。引き上げて「お宝ゲット」などとお気軽に話が進むものではないようだ。
 事実、26日のシンイルグループの会見ではロシアの取材陣がロシア政府の見解を説明。現地メディアによると「ドンスコイはまだロシアの軍艦であり、ロシア船員の遺骨が残っているためロシアの国軍墓地に該当する」「ロシア政府の同意なしに船や物品を引き上げる場合は略奪とみなす」というのがロシア側の主張だという。
 伝説と現実
 ところで、この金塊伝説には根本的な問題がある。
 現在の金相場は1キロで約480万円。つまり1トンで約48億円。15兆円分の金塊となると、重さは約3200トン。ドミトリー・ドンスコイの満載排水量は5800トンだ。船に必須の燃料(当時は石炭)や砲弾、人員や食料を搭載したうえで、なお3千2百トンのデッド・ウエイト(お荷物)を積んで日本艦隊と決戦に挑む…。どう見積もっても重すぎだ。そもそも浮くかどうかも怪しい。多くの人が「何かおかしい」と感じる数字ではないだろうか。