市街地至近のダム、新たな観光名所となるか 京都・宇治「天ケ瀬ダム」

関西の議論

 ダムといえば山の中-。そんなイメージとは逆に、市街地に近く、歩いて行けるのが「天ケ瀬(あまがせ)ダム」(京都府宇治市)だ。このダムを新たな観光資源にしようと、地元の一般社団法人が定期ツアー化を模索している。全国の一部のダムは豪快な放流で観光客の人気を集めるが、大阪や東京など都心からが遠く、一日がかりの小旅行となる。しかし、天ケ瀬ダムは同じ宇治市の世界遺産・平等院や京都観光とのリンクも可能な都会派。法人は京都市内を訪れる年間5千万人超の観光客とのコラボで新境地を開けるか。(勝田康三)

最寄り駅から約3キロ

 天ケ瀬ダムは宇治川の上流に位置し、高さ73メートル、長さ254メートルのドーム形アーチ式コンクリートダムで昭和39年に完成した。放流された宇治川の水は、木津川、桂川と合流して淀川に流れ込む。

天ヶ瀬ダムの放水の様子。地元自治体などが見学ツアー化を目指している=京都府宇治市(お茶の京都DMO提供)

 淀川ダム統合管理事務所によると、7月上旬の豪雨で琵琶湖の水位が上昇。瀬田川洗堰(大津市)の全開放流に伴い、その下流に位置する天ケ瀬ダムも放流を続けた。8日にはダムから約3キロ下流の観測点で氾濫(はんらん)注意水位の3メートルに近づく2・97メートルまで上昇。しかし19日に瀬田川洗堰のゲートが下ろされたことで、水量が毎秒約700トンから約150トンにまで減り、宇治川の水位も一気に下がった。

 これらの影響で、夏の風物詩となっている「宇治川の鵜飼(うかい)」は開幕翌日の今月2日から20日まで営業を休止、中州の府立宇治公園も19日まで立ち入り禁止となった。

 天ケ瀬ダムは発電のほか、治水や上水道用水の役割を担う。京阪宇治駅から約3キロ、平等院からは約2・3キロと歩いて行ける近さ。まさに「全国でも例を見ない」(国土交通省治水課)都市近郊の立地だ。

 このダムの定期的な観光ツアーを計画するのは、京都府南部の12市町村が構成員となり、地域振興を目的に設立した一般社団法人「京都山城地域振興社」(通称=お茶の京都DMO)。宇治茶の産地が集中していることから、茶に関連したイベント開催などでの集客に力を入れるが、新たな観光資源を探している。

天ヶ瀬ダムの放水の様子。地元自治体などが見学ツアー化を目指している=京都府宇治市(お茶の京都DMO提供)

 宇治市内には世界遺産の平等院のほか、「宇治川の鵜飼(うかい)」や宇治茶の関連施設などがあり、平成29年の入り込み客数は約550万人を数えた。京都市内から車や電車で30分程度で来られる立地であるのも強みだ。

 同法人の脇博一社長は「宇治市内の複数の観光名所を組み合わせたツアーが企画できる」と強調。全国で展開される一日がかりのダム観光と差別化を図りたい考えだ。

試行的ツアーが好評

 同法人は5月中~下旬の4日間、定員一日40人のバスツアーを実施。平等院から天ケ瀬ダムまで無料シャトルバスを各日1本走らせ、ダムの施設や放流を見学する内容で、「駅から歩いて行けるダム」とアピールした。試行的なツアーのため、参加費を一人500円と激安に。評判は上々で、募集開始から2日後に定員に達した。

天ケ瀬ダムを見学するバスツアーの参加者ら=今年5月、京都府宇治市(お茶の京都DMO提供)

 ツアーでは、ダム事務所内での説明の後、参加者らが「キャットウオーク」と呼ばれる階段を歩いて降りた。階段は点検用のため通路が狭く、むき出しの壁を真下に降りていく感じで、高いところが苦手な人は足がすくむほど。階段下の広場に立つと、放水口からはき出された大量の水が間近で見られた。最大の見せ場の放流では水しぶきが飛んできて迫力満点。「ゴー」という音で雨具を着た参加者の歓声もかき消された。

 天候不良の日もあり、4回の参加者は計133人。居住先の内訳は宇治市内24%、同市を除く京都府内46%、大阪府18%、滋賀県5%-など。参加者からは「間近で見る放流は迫力があった」「普段入れない場所に立ち入れて満足」といった声が聞かれた。アンケート(122人が回答)では、80・3%が満足と答え、96・8%が「家族や友人にダム見学を勧める」と回答した。

 脇社長は「天ケ瀬ダムが観光施設として需要があることは分かった。ダム観光は京都市内にはないアイテム。うまく京都の観光客を取り込む方法を考えたい」と意気込む。

国も「ダム観光」推進

 ダムは治水、発電、環境保全が大きな役割のインフラ設備だが、国交省は「国民に生活インフラの重要性を認識してもらえる」として、「ダムツーリズム」を推奨。年に4回、パンフレット「ダムを見に行こう」を発行し、旅行代理店などとタイアップしてダムツアーを紹介している。

 同省が管理する治水が主な目的のダムは全国558カ所。発電や工業・農業用のダムなどを含めると1千カ所以上のダムが存在するとみられる。

 インターネット上での人気ランキングで1、2位を争う観光客を集めるのが、宮ケ瀬ダム(神奈川県)と関西電力の黒部ダム(富山県)だ。

 相模原水系広域ダム管理事務所によると、宮ケ瀬ダムの観光放流(4~11月)に訪れる観光客は約10万人(29年)で、周辺の観光施設を加えると約200万人(26年度)に及ぶ。「ダムの放流観光として注目を集め、ここ2、3年で倍増した」(同管理事務所)という。

 黒部ダムも6月26日~10月15日に行う「観光放水」の期間中、立山黒部アルペンルートを通じて見学に訪れる観光客は約50万人。4~11月の観光シーズン中では約100万人になる。

放流タイミングなど課題

 市街地に近いという希少性がある天ケ瀬ダムだが、課題もある。放流する時間帯が不透明なのだ。「事前に放水の日時が分からないとツアーの募集をかけられない」と脇社長。さらに放流中は発電ができないため、関電の協力はもとより、ダムを管理する淀川ダム統合管理事務所との調整が必要になる。

 安定的にツアーを行うためにも、連絡体制の構築など関係機関のシステムづくりが求められる。参加者の安全対策や案内役など管理上の調整も欠かせない。

 同管理事務所によると、天ケ瀬ダムでは上流の琵琶湖の水位が降雨などで上がると、それに合わせて放流される仕組み(通常放流)になっており、頻度は年間50~100日だという。澤村滋男副所長は「他のダムと比べても通常放流が多いダム。ダムの役割を広く知ってもらうためにも、見学者が来るタイミングに合わせる観光放流の実現に向け、できるだけの協力はしたい」と話す。

 同法人は関係機関との調整を進める一方、8~9月に計5回、ダムツアー第2弾を計画中だ。天ケ瀬ダムに加え、府南部の南山城村にある高山ダムの2カ所をめぐる。参加者のモニタリングを行い、定期ツアーが可能か検証していくという。

 脇社長は「外国人観光客が天ケ瀬ダムを訪れ、SNSを活用してその魅力を広めてくれれば。なんとかして定番ツアーに育てたい」と期待を込めて話した。