【関西の議論】奈良のとんかつ「無料食堂」が大反響、「お代は出世払いで」店長の心意気 - 産経ニュース

【関西の議論】奈良のとんかつ「無料食堂」が大反響、「お代は出世払いで」店長の心意気

「困っている人は食べに来て下さい」と呼びかける「まるかつ」店長、金子友則さん=奈良市
店の定番メニュー「ロースカツ」をつくる金子友則さん。サクッとした衣に柔らかい豚肉が絶品だ=奈良市
まるかつが4月に新販売した「青いコロッケ」(左)と「黒いコロッケ」(右)。ユニークなメニューも人気を集めている=奈良市
「まるかつ」の店外に貼り出されている無料食堂のお知らせ=奈良市
 行きつけのとんかつ屋でこんな張り紙を目にした。「お腹(なか)がすいても、お家(うち)にお金がないときやお子さんにおいしいものをお腹いっぱい食べさせてあげたいのにご事情があって難しいときは(中略)店長のおごりで、コソッと無料でお腹いっぱい食べてもらいます」。奈良市のとんかつ店「まるかつ」の金子友則店長(41)が5月から始めた「無料食堂」の取り組みが、SNSなどを通じて大きな反響を呼んでいる。中には善意を踏みにじるような客もいるが、金子さんは「1人にでも僕の思いが届けばそれでいい」と話す。(神田啓晴)
常連客からの懇願に救いの手
 豚肉からパン粉、油まで原材料にもこだわり、160度の低温でじっくりと揚げた自慢のとんかつ。サクッとした食感を堪能した次の瞬間、豚肉の濃厚なうまみが口いっぱいに広がる。
 「油はラードではなく、米油を使っています。子供からお年寄りまで、体に優しいとんかつにしたいですから」。人気のロースかつ定食は1180円だ。店は幹線道路に面しているとはいえ、周辺に駅はない。決して恵まれた立地とはいえないが、県内外から連日多くの客が訪れる。
 金子さんは奈良県橿原市で育ち、高校卒業後は県内の飲食店で修行。平成26(2014)年に同店をオープンすると、ランチタイムには行列ができる繁盛店に成長させた。
 「無料食堂」のヒントを得たのは2年前、常連客から突然かかってきた1本の電話だった。「妻が通帳を持って、子供を連れて出ていってしまった。おなかがすいてどうしようもないんです。お金が入るまで食べさせてくれませんか」。ワラにもすがる思いで電話をかけてきた男性を、むげに断ることはできなかった。
 「飲食店をしていると、たくさんの人と出会う。(こんな場合)役所に行けばいいと思うかもしれないけど、実際は助けを求められる場所がないんですよ」
 当分の間、いわゆる“ツケ”のような格好で弁当などを提供していたが、男性はしばらくして、それまでの食事代をきちんと支払ってくれたという。
 「放っておくのも1つかもしれませんが、相談に乗ってあげたいんです。それが甘えにつながることもあるし、何が正しいのか…。難しいですね」。今でも助けたことが良かったのかどうか、自問自答することもあるという。
豪雪被害のお見舞いで半額キャンペーンも
 困っている人を助けたい-。そんな思いで金子さんは、今年2月に北陸地方が記録的な大雪に見舞われた際も、福井と石川、富山、新潟の各県民を対象に全品半額キャンペーンを実施した。
 「福井県は、店のメニューにもあるソースカツ丼が有名。スノーボードやジェットスキーをするために訪れたこともあるし、何かできないかと思いました」
 ツイッターで告知したところ、5月末までの期間中に北陸地方から約260人が来店。大学の卒業旅行で奈良を訪れた学生や除雪作業に奔走した自治体職員らもいた。
 店のノートには、豪雪に見舞われた当時の写真に添え、「温かい言葉をありがとう」「涙が出るほどうれしかった」といった感謝の言葉がつづられている。
「100人中、99人にだまされても…」
 「目の前で困っている人を放っておけない。食だけでもサポートしたい」。無料食堂はそんな思いで5月4日から始めた。ツイッターで告知すると2万件以上の「いいね」と応援メッセージが寄せられた。
 店頭の張り紙にはこんな文句も。「お店で食べるのが気まずければお弁当の持ち帰りでも大丈夫です。お代は出世払いでもいいですし、忘れてもらってもいいです」
 これまでに家族連れや1人客ら10数組が利用。多くはロースかつ弁当(通常は税込み1180円)を持ち帰っていくという。30代くらいの男性は「家族のために」とロースかつ弁当を6つも持ち帰り、後日「子供たちも喜んでいた。お金が入ったらまた食べに行きます」と感謝の電話をかけてきた。
 また「ごはんを3、4日食べておらず、店まで行くこともできない」という高齢の男性にはとんかつやご飯、ヒレカツ、ミンチカツなどを宅配便で送り届けた。男性からは「無事に届いた。本当にありがとう助かりました」とお礼の言葉があったという。
 ただ中には「ただで食えるんやろ?」と、食べものに困っているようでもないのに、悪びれる様子もなく無料で食べて帰った者もいた。
 「いたずらで利用する人も中にはいるけれど、困っている人に少しでも喜んでもらえたらうれしい。100人中99人にだまされても、1人に僕の思いが届けばいい」と金子さん。「お腹が空くというのは本当に辛いこと。特に子供には。だから困っていたら迷わず、お店に来てほしい」と優しい笑顔をみせる。
 経営的にも決して楽ではないが、無料食堂はできる限り続けるつもりだ。
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 ■まるかつ 奈良市神殿(こどの)町667の1((電)0742・81・4568)。無休。営業は午前11時~午後3時、同5~10時。メニューはロースかつ定食などのほか、みそかつ定食1380円、厚切りロースかつ定食1580円(全て税込み)など。定食ならごはん、キャベツ、しじみ汁はおかわり自由。