「ラスカル」どころか害獣 近畿でエスカレートするアライグマ被害

関西の議論
市街地に現れたアライグマを追いかける警察官=平成27年12月、大阪市北区

 特定外来種に指定されているアライグマが、関西で増殖している。兵庫県では平成28年度の捕獲数は約5300頭、大阪府でも約2千頭と、ともに過去最多となった。昭和50年代の人気アニメをきっかけにペットとして飼うケースが増えたとされるが、世話に手を焼く飼い主が飼育を放棄したために野生化し、一気に繁殖したという。近畿2府4県の農業被害も深刻で、自治体側も対策に頭を悩ませている。(今村義明)

ビジネス街でも目撃

 7月2日未明、大阪府豊中市の閑静な住宅街で、6頭のアライグマがマンションの敷地内を歩いているのを住民が目撃した。通報を受けて市職員が駆けつけたが、6頭はすでに隣接する公園内に逃げ込み、発見には至っていない。住民の目撃情報では、1頭は母親、5頭は子供とみられる。同市内では、6月から住宅街を中心に17件、計28頭の目撃情報が寄せられている。

 大阪市中央区のビジネス街でも6月29日昼過ぎ、ビル1階にある飲食店のダクトの上にアライグマ1頭が横たわっているのをビルの管理人が発見。区の職員が駆けつけて捕獲しようとしたが、逃げられた。同区内では5月にも近くのビル街で1頭が目撃されたが、同一の個体かはわからないという。

 アライグマの目撃情報は、大阪府内のほぼ全域におよんでいる。郊外の山林や畑だけでなく、市街地でも公園や民家の庭、屋根裏などでもあり、深夜の繁華街などでも出没して警察や消防が出動する騒ぎも起きている。

 府動物愛護畜産課野生動物グループによると、野生化したアライグマは気性が荒く、人間に向かって攻撃してくることもある。また、感染症の怖れもあり、自治体側はアライグマに近づいたり、食べ物を与えたりしないよう、注意を呼びかけている。

飼育放棄で野生化

 アライグマは北米原産の雑食性の野生動物で、体長40~60センチ、体重4~10キロ。昭和50年代にテレビで放送された人気アニメ「あらいぐまラスカル」の影響で人気を集め、ペットブームに乗って海外から大量に輸入された。

 しかし、アライグマは成獣になると性格が凶暴になり、人間を噛んだり、ひっかいたりするようになる。こうしたトラブルが相次いだことで飼い主が飼育を放棄して郊外に捨てるなどして、全国に野生のアライグマが急速に増えていった。また、学習能力の高いアライグマが、飼育ケージなどの扉を自力で開けて脱走するケースも報告されている。

 大阪府では平成13年度に3頭だったアライグマの捕獲数は、22年度に千頭を突破し、28年度には約2千頭と6年間で倍増した。兵庫県でも28年度の捕獲数は約5300頭にのぼり、兵庫県三木市では昨年度の捕獲数は約1300頭に達している。

 これだけ急速に増えている背景にあるのは、アライグマの繁殖能力にある。

 アライグマは繁殖期の春から初夏にかけて、1頭のメスは平均で3、4頭、多い場合で7、8頭の子供を産む。さらには、日本国内にはアライグマの天敵となる生物がいないため子供の死亡率が低く、増え放題の状態になっているという。

 環境省や全国の自治体はあわてて捕獲に乗り出しているが、大阪府動物愛護畜産課野生動物グループは「アライグマを減らすには、年間増加数の何倍もの個体を捕獲する必要があるが、まったく追いついていない。今後は、さらなる爆発的な増加も予想される」と警戒感を強めている。

近畿が全国の半数

 野生化したアライグマによって深刻な影響を受けているのが農作物だ。トウモロコシやスイカ、イチゴなど甘い野菜や果物が狙われ、収穫期の成熟した作物を好んで食べる。

 例えば、スイカは皮に穴を開けたうえで、中身を手できれいにくり抜いて食べてしまう。トウモロコシの場合は、皮と芯を残して実の部分だけを食べるという。

 大阪府では28年度で過去最悪の約3千万円もの農業被害が報告され、10年前の約5倍に増えた。兵庫県でも28年度は約5900万円もの被害があった。害獣ではイノシシ、シカに次ぐ3位になった。近畿2府4県では全国の被害額の半数近くを占めており、野生アライグマの“被害”は深刻化している。

 さらに、アライグマ増殖の影響は、都心や郊外を問わずに拡大を続けている。住宅の天井裏で繁殖して糞尿で汚染する▽池のコイや水槽の金魚、熱帯魚などを食べる▽ペットのエサを食べる▽ゴミをあさる-などの被害報告も寄せられており、狂犬病や寄生虫を媒介する怖れも指摘されている。野鳥の卵やカエルも食べるために、生態系への影響も懸念されている。

捨てるのも違法

 昨年10月、大阪府富田林市に住む40代女性が、無許可でアライグマを飼育して山中に捨てたとして、警視庁に特定外来生物法違反の疑いで書類送検された。平成17年にアライグマが特定外来種に指定されて以来、全国で初めての摘発だった。

 調べによると、女性は勤め先の工場倉庫に置かれていた段ボール箱の中に生後間もないアライグマ4頭を発見し、自宅に持ち帰って飼育していた。その後、「自治体に届けると処分されてかわいそう」と思い、山中に放したという。

 特定外来生物法では、アライグマの飼育や譲渡、輸入、野外放出を禁止している。すでにアライグマを飼育している人は許可を受け、逃げ出した際には飼い主がわかるようにしなければならない(識別措置)。一方、動物愛護法では、飼育しているアライグマの虐待や飼育放棄を禁じている。

 大阪府動物愛護畜産課は「最後まで責任を持って飼育することが原則。どうしても飼えなくなったときは、都道府県や市区町村に相談してほしい。絶対に野外には捨てないで」と呼びかけている。