【衝撃事件の核心】交番襲撃の元自衛官、素顔は「武器マニア」 - 産経ニュース

【衝撃事件の核心】交番襲撃の元自衛官、素顔は「武器マニア」

 両手に刃物、返り血に染まったTシャツ。拳銃の5発の弾は使い切った。小学校に侵入した男は、警察官の制止を聞かず、刃物で襲いかかった。そして腹部に銃撃を受け、その場に倒れた。富山市で6月、交番を襲撃して拳銃を強奪し、2人を殺害したとされる元自衛官、島津慧大(けいた)容疑者(21)。事件後に一時意識不明となり、現在は回復したが、詳しい動機は明らかになっていない。何が男を駆り立てたのか。背景には銃器への傾倒が透けてみえる。
男が警察官を交番で刺し、奪った銃で小学校で警備員に発砲する事件が発生した
響く銃声
 6月26日午後2時25分ごろ、富山市立奥田小学校の正門付近。道路を挟んで向かいの住宅街から、島津容疑者が姿を見せた。
 右膝を地面につくと、正門に向けて2発発砲。素早く立ち上がって道路を横切ると、走って正門へ向かった。
 その途上にいた小学校改修工事の警備員、中村信一さん(68)に対し、至近距離から発砲した。中村さんは膝から崩れ落ち、まもなく死亡した。
 島津容疑者が使った拳銃は、15分ほど前に交番で奪ったものだった。
住宅街を走り回る
 富山市久方町の富山県警富山中央署奥田交番。島津容疑者は裏口で応対した所長の稲泉(いないずみ)健一警部補(46)=事件後2階級特進、警視=に突然刃物で襲いかかり、30カ所以上を刺して、拳銃を奪った。
 腰の帯革(たいかく)=ベルト=と拳銃をつなぐ吊りひもは特殊な金属ワイヤ製だ。「ニッパーでも切れない」といわれているが、事後の捜査で寸断されていたことが分かっている。相当大きな刃物で、強引に断ち切ったのかもしれない。
 大量の返り血を浴びながら拳銃を手にした島津容疑者は、交番を出て住宅街に入ると、不可解な行動を取り始める。
 舗装された生活道路と、草木が生い茂るあぜ道、民家裏の路地を行き来しながら走り回った。民家の倉庫やブロック塀など、道路沿いの複数の場所で血痕が確認され、血まみれの布も残されていた。そして400~500メートル走ってから小学校へ向かっている。
警備員が撃たれた奥田小学校を調べる捜査員ら
 交番と小学校は通りを面して向かい合い、距離にしてわずか100メートルほど。あえて遠回りをしたのか、走り回った先にあったのがたまたま小学校だったのか。島津容疑者の最終目的地がどこにあったのか、謎は残ったままだ。
「カッとなりやすい」
 島津容疑者は、富山市中心部から約15キロ南東にある同県立山町の出身。両親と姉の4人家族で、地元の小中学校に通ったが、中学3年時から欠席しがちだった。
 多くの知人らが「おとなしい性格」と口をそろえる一方、中学校の同級生の男性は「カッとなりやすい面があった」と振り返る。友人に意見されると舌打ちをしたり、テストの採点に納得できず教師に反抗的な態度を取ったりすることもあった。
 家庭内では父親と衝突していたといい、「家庭内暴力を振るったことがあるようだ」との証言もある。
 中学卒業後、数年してから平成27年3月に陸上自衛隊に入隊。2年後に退職したが、事件当時も有事の際に招集される即応予備自衛官だった。
 同時期に自衛隊に在籍していた男性は「同じ班で、口論や殴り合いのけんかをすることがあったようだ」と明かした。
自宅にモデルガン十数丁
 島津容疑者は、奪った拳銃に装填(そうてん)されていた5発の銃弾をすべて発射し、至近距離とはいえ、稲泉警視や中村さんに1発ずつ命中させていた。
 捜査関係者によると、小学校の付近を通った車のドライブレコーダーには、片膝を地面についた姿勢で発砲する島津容疑者の姿が写っていた。銃器評論家の津田哲也氏は「姿勢を安定させて命中率を高めている。訓練された人間の撃ち方といえる」と指摘する。
 自衛隊関係者によると、島津容疑者は小銃の射撃訓練や、野外や屋内での戦闘訓練を経験し、拳銃の取り扱い方も学んでいた。津田氏によると、日本の警察が使用している拳銃は自衛隊で使用している小銃に比べて反動は小さく、扱いやすいという。「自衛隊の小銃訓練を経験していれば、容易に扱うことができるだろう」という。
警察官が殺害された奥田交番に向かって手を合わせる女性
 警察官を執拗(しつよう)に刺してまで拳銃を奪った島津容疑者。犯罪者心理に詳しい奈良女子大の岡本英生教授(犯罪心理学)は「今回の犯行は、元自衛官というより容疑者の趣味、軍事への強い関心が関係しているように思う」と分析する。
 県警が島津容疑者の自宅を捜索したところ、ナイフ数点のほか、モデルガンや摸造刀、軍用のベスト、武器関連の書籍が見つかった。モデルガンは拳銃型やライフル型、マシンガン型など十数丁にのぼった。
 捜査関係者も「犯行の動機に関連していると考えられる」とこれらの押収物を重視。岡本教授は「モデルガンでは満足できず、本物の拳銃を手にしたかったのか。自分の行動範囲内で、拳銃を奪いやすい立地のところを捜していた可能性はある」と語る。
突発的?計画的?
 事件直前、島津容疑者は4月から勤務していたアルバイト先のファストフード店で、トラブルを起こしていた。制服に着替えたものの、店長から店内を掃除するよう指示されると拒否。注意されると、突然殴りかかり、制服を脱いで立ち去った。店長はあばら骨を折るなどのけがをした。
 島津容疑者はそのまま職場を去り、家族に無料通信アプリで「持ち物を処分してほしい」と連絡。その後、奥田交番に向かい、事件を起こしたとみられている。
 トラブルを発端とする短絡的な犯行にも思えるが、計画性をうかがわせる状況も明らかになっている。
 犯行当時、島津容疑者は2本のナイフにおの、山刀、はさみと5本の刃物を所持していた。バイト先を飛び出してから交番を襲撃するまで1時間ほどしかなく、その間に買いそろえたとは考えにくい。
 さらに数日前には、交番周辺で島津容疑者によく似た男の目撃情報もあった。現場周辺は細かい路地が入り組んでおり、島津容疑者が訪れた交番の裏口については、存在を知らない住民もいる。入念に下見を行っていた可能性もある。
 突発的な犯行だったのか、それとも入念な計画に基づいたものだったのか。県警は今後、調べを本格化させる。