【関西の議論】新「長寿県」に躍り出た滋賀 データ活用と草の根運動が結実  - 産経ニュース

【関西の議論】新「長寿県」に躍り出た滋賀 データ活用と草の根運動が結実 

滋賀県内の愛好家団体が開いた試食会で、各家庭で作られたふなずしを食べ比べる参加者ら。ふなずしが県民の健康増進に一役駆っているとの指摘もある=滋賀県守山市
滋賀県東近江市は、健康増進に効果的として研究者が復活させた「ラジオ体操第3」の普及に取り組む=平成26年、同市役所
 昨年末に厚生労働省が発表した平成27年の都道府県別の平均寿命で、滋賀県の男性が全国1位、女性も4位となり、新たな“ご長寿県”に躍り出た。トップの座を奪われたライバルの長野県が早速視察に訪れたのをはじめ、担当課には自治体やメディアの問い合わせが殺到。県も今年度予算のテーマを「健康」とするなど、滋賀県内はにわかに長寿ブームに沸く。ただ、その陰には30年以上にわたって地道に続けられてきた、県民の健康調査に基づく草の根の活動がある。(川瀬充久)
ふなずしで長生き?
 厚労省の「平成27年都道府県別生命表」で、滋賀県は男性の平均寿命が81・78歳で初のトップ。女性も87・57歳で4位となり、一躍注目を集めることに。
 長寿の秘訣(ひけつ)はどこにあるのか。さまざまな説が噴出しているが、その中で根強いのが、「発酵食品のふなずしを日常的に食べているから健康なのではないか」という「ふなずし長寿説」だ。
 琵琶湖で獲れたニゴロブナを塩とコメで漬け発酵させたなれずしの一種のふなずしは、滋賀県で古くから食べられ、その歴史は奈良時代にまでさかのぼるとされる。
 独特の味わいと匂いの一方、アミノ酸や各種ビタミンが豊富で、発酵によって乳酸菌も多量に含む栄養価の高い郷土料理で、琵琶湖岸の家庭では現在でも「かぜをひいたらふなずしを食べればよい」と伝わっている。
 古くから湖魚を日常的に食べることで農村で不足しがちなタンパク質やカルシウム、脂質を補うことができたという、県内の食事情も合わせて考えると、ふなずしが県民の寿命の底上げに関係しているとの説もうなずける。
 しかし、県衛生科学センターの井上英二所長は「ふなずしは県民すべてがひんぱんに食べているわけではなく、塩分も多い。県民の寿命が伸びたのには別の理由がある」と指摘する。
生活習慣に着目
 それでは、滋賀県を長寿県に引き上げた要因は何か。
 県は調査項目の少ない国の調査を補い、県民の健康状態を正確に把握するため、昭和61年から独自の生活習慣調査を始め、大型のコンピューターを導入して、集めたデータの統計処理を行っている。
 調査は4~6年ごとに行い、運動習慣や生活習慣を選択式で質問。平成27年の調査では、喫煙や飲酒、運動時間など38項目を尋ねている。県健康寿命推進課は「他の都道府県が始めたのは12年ごろから。滋賀県は10年以上先を進んでいた」と説明する。
 こうした健康に関するデータの収集、分析で浮かび上がったのが、喫煙率とがん、塩分摂取量と脳卒中などの脳血管疾患の関係で、同課は「早くからがんや脳卒中などの疾患と生活習慣との関連に着目し、地道に改善を促してきた」という。
生活習慣改善の努力
 例えば12年の調査では、滋賀県の男性喫煙率は56・2%。これに対し、肺がんの罹患(りかん)率は10万人あたり39・2人で全国ワーストだった。
 そこで県は翌13年、男性喫煙率の半減を目標に設定した。ところが業界関係者から批判が噴出し、県にも苦情が殺到したという。それでも取り組みを続けた結果、その後若い世代で喫煙率が低下した。
 一方、塩分摂取量では、ボランティアの健康推進員が各地で食事の減塩指導を行うなど、大きな役割を担った。当時の知事だった国松善次さんは「健康は自助努力しかない。どう意識づけをするかが問題だった」と振り返る。
 こうした地道な努力の結果、喫煙率や食塩摂取量は大幅に改善。現在も約3600人の健康推進員がおり、県民の健康づくりを支えている。
 厚労省の28年国民健康・栄養調査では、滋賀県の成人男性の喫煙率は全国で最も低い20・6%。1日の食塩摂取量を少ない順にみると、男性5位、女性7位だった。
 生活習慣の改善とともに病気による死亡率も低下。脳血管疾患で死亡する人の少なさは男性が全国1位、女性で2位。がんは男性で2位、女性で14位だった。
 同課は「主要な生活習慣病の死亡率の低さが、平均寿命を押し上げた要因」とみている。
大学が分析
 今回、男性の平均寿命が初めてトップとなったことを受け、その要因を科学的に分析しようと、県衛生科学センターは滋賀大と協力し、改めて平均寿命と生活習慣との因果関係を調査。都道府県別生命表や国民健康・栄養調査、社会生活基本調査、社会教育調査など計12の統計や調査を比較、分析した。
 その結果、喫煙率や食塩摂取量の低さのほか、多量の飲酒の機会が少ない(男性4位、女性13位)▽スポーツをする人が多い(男性2位、女性6位)▽ボランティアをする人が多い(男性2位、女性4位)-などの生活習慣と、平均寿命や健康寿命との相関関係が認められた。
 さらにこれらの生活習慣の実践は、失業者の少なさ(2位)▽労働時間の短さ(9位)▽所得の高さ(4位)▽所得格差の小ささ(2位)▽図書館の多さ(14位)▽高齢単身者の少なさ(1位)-といった生活環境に比例するとみられることも、今回の分析で判明した。
 県は今後、県内各市町ごとに同様の調査を行い、地域ごとの特徴と寿命への影響などについてさらに詳しく分析し、「長寿県」の地歩を固める方針だ。
 今後の課題は病気などにかからない「健康寿命」を引き上げること。県は「生活の質を上げ、住んでいると自然と健康になるまちづくりを目指す」と意気込む。