【衝撃事件の核心】「タートルショック」カメ1匹40万円、カワウソ100万円…密輸絶えない希少野生動物 - 産経ニュース

【衝撃事件の核心】「タートルショック」カメ1匹40万円、カワウソ100万円…密輸絶えない希少野生動物

 タートルショック-。関係者の間ではそう呼ばれることもあるらしい。直訳すれば「カメの衝撃」だが、意味合いとしては、世界的規模の金融危機「リーマンショック」の使われ方に近い。ここ数年で、何種かのカメの経済的価値が激変したというのだ。野生動植物の保護を目的としたワシントン条約による取引規制が強化され、その反動として市場価格が跳ね上がった。このためブローカーによる投機対象となり、5月には希少カメをスーツケースで密輸しようとしたとして、男3人が大阪府警に逮捕されている。タートルショックの実情を追った。
違法に販売されたオオアタマガメ=大阪市中央区の大阪府警本部
靴下に大量のカメ
 3月28日夜、関西国際空港の通関検査エリア。税関職員が中国から帰国した男(28)に目をつけた。
 男は同月にパスポートを取得したばかりで、今回が初めての渡航だった。「1人で中国に行った」というが、初めての海外のはずなのに、単独行というのが気になった。
 税関職員が男のスーツケースを検査すると、沢山の衣類にまぎれた複数の靴下が、妙に膨らんでいた。
 靴下の中にいたのは、何と生きたカメだった。ワシントン条約で輸出入が規制されているフロリダハコガメなど希少種39匹。中には1足の靴下に小さなカメが7匹も詰め込まれていた。長時間に渡り、劣悪な環境に閉じ込められていたからだろうか、39匹は日を追うごとに弱り、6月6日までに12匹が死んだ。
 その後の調べで、男は会社の同僚の男A(29)や知人の会社員の男B(40)とカメを密輸しようとしていたことが判明。大阪府警は5月、関税法違反(無許可輸入未遂)容疑で3人を逮捕した。
 府警によると、男らは中国・杭州のペットショップで39匹を計約30万円で購入していた。フロリダハコガメはインターネット上で1匹30万~40万円で取引されている。Aは当初の調べに「繁殖させて販売するつもりだった。東京五輪の頃には税関の取り締まりが厳しくなり、高値になると思った」と供述した。
 府警はその後、Aの親族が経営する香川県内のペットショップで、ワシントン条約で商業取引が規制されているオオアタマガメ3匹を顧客に40万円で販売したとして、種の保存法違反(譲渡)容疑でAを再逮捕。Aに同カメ4匹を販売したとしてBも再逮捕した。府警はBがカメ専門のブローカーだったとみて、入手先の捜査を進めている。
付属書掲載で価格高騰
 両生類や、は虫類を取り扱う大阪市内のペットショップ関係者によると、海外の希少なカメは甲羅の幾何学的紋様の美しさや、その丸みを帯びた形状から一部の愛好家に高い人気を誇る。
 環境省によると、今回の事件で売買されたオオアタマガメは平成25年、強く規制されているワシントン条約の付属書1(サイテス1)に掲載され、商業目的での輸出入は禁止。国内でも種の保存法に基づき、一般財団法人「自然環境研究センター」に登録された繁殖個体を除き、商取引が全面禁止された。
 サイテス1に掲載されると、国内での流通量が極端に少なくなり、販売価格は登録前の10~30倍に跳ね上がるという。これがタートルショックの一例だ。
 関係者は「ブローカーからすれば、サイテス1に載った種は、逮捕リスクが高い一方、多額の利益をもたらすうまみも併せ持つ」と分析する。
希少なほど高値で販売も
 経済産業省によると、ワシントン条約の規制に当たるとして、29年に全国の税関で輸入が差し止められた生物や製品は803件あり、前年の723件と比べて11%増加。このうち生物は180件で、過去5年で最多となっている。
 日本動物園水族館協会(JAZA)によると、近年では東南アジアからの密輸が多く、驚くほど安い値段で動物を購入できるという。
 仮に税関を通過できれば、数十万円から数百万円単位の高値で取引されるため、密輸者にとってはリスクを冒すだけのメリットがあるわけだ。
 昨年10月には、タイの市場でカワウソ10匹を日本円で約3万3千円で購入し、国外に持ち出そうとしたとして、日本人の女子大生が現地当局に拘束された。カワウソは日本では1匹あたり約100万円で取引されるケースもあるという。
密輸動物の行方は
 密輸が発覚し、保護された生物たちはその後、どこに行くのか。JAZAによると、ワシントン条約の対象となる動物は原則、輸入元の国に送り返されるが、相手国の飼育環境が整っていなければ、日本国内で保護されることになる。
 こうしたケースでは、経産省から依頼を受けたJAZAが、全国の動物園や水族館に問い合わせて受け入れ先を探す。
 大阪市天王寺区の天王寺動物園では、密輸がきっかけで保護された動物計約20種40匹を飼育している。南米原産のヘビ「ボアコンストリクター」や、カンボジアやラオスの森林などに生息するサルの仲間「レッサースローロリス」など、いずれも希少種だ。
 飼育には手がかかる一方で、展示するにはスペースが足りず、ほとんどはバックヤードで飼育されているという。
 相次ぐ密輸を受け、同園では毎年3~4月ごろ、絶滅に瀕している動物や過去に同園で飼育していた希少動物の剥製を展示する企画を開催し、環境保護への協力を呼びかけている。同園の今西隆和飼育課長は「生物が絶滅する原因は人間がつくっている」と苦言を呈す。
 動物の違法取引は、薬物と並び、テロ組織の資金源になっている。アフリカのテロ組織が密猟された象牙を販売していたケースもある。JAZAの岡田尚憲事務局長は「動物や製品を没収するだけでよいのか、厳罰化に関しても議論の余地があると思う」と警鐘を鳴らす。
 動物を売る側だけが悪いのではない。捜査関係者は「求める人がいるから密輸がはびこり、商売が成り立つ。珍しいからといって購入する人は本当に動物を愛しているのか」と憤った。