【銀幕裏の声】「イーストウッドには負けない!」“寅さん”の名匠、山田洋次監督が語る家族映画論 - 産経ニュース

【銀幕裏の声】「イーストウッドには負けない!」“寅さん”の名匠、山田洋次監督が語る家族映画論

家族会議の演出をする山田洋次監督(中央) (c)2018「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」製作委員会
「ヒットの方程式? ありますよ」と山田洋次監督は語った
喜劇を演出するが、山田洋次監督(中央)の顔は笑っていない (c)2018「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」製作委員会
シリーズ恒例の緊急家族会議が見どころの一つだ (c)2018「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」製作委員会
 「なぜ最近の邦画は若者向けの作品ばかりなのか? もっと大人のための映画が作られてもいい…」。公開中の映画「妻よ薔薇(ばら)のように 家族はつらいよIII」を撮った山田洋次監督は、こう語り始めた。かつて家族連れで楽しめるプログラムピクチャーと呼ばれた名作シリーズが、邦画に数々あったが、その路線が途絶えて久しい。そんな中、「家族はつらいよ」は3作目となり、長期シリーズ化を予感させる。「男はつらいよ」「釣りバカ日誌」などの監督、脚本を務めてきた山田監督に「シリーズ化の秘訣(ひけつ)は?」と聞くと、「もちろんありますよ」と即答してきた。重鎮監督が明かす“ヒットの方程式”とは…。(戸津井康之)
■プログラムピクチャー復活
 「家族はつらいよ」は、全48作が製作された国民的人気シリーズ「男はつらいよ」が終了し、約20年後に1作目が公開された。
 頑固親父(おやじ)の平田周造(橋爪功)、優しい母、富子(吉行和子)、会社人間の長男、幸之助(西村まさ彦)と妻、史枝(夏川結衣)ら3世代4組の家族が巻き起こす騒動を描く喜劇だ。
 これまで、亭主関白の幸之助のわがままな言動に耐えてきた史枝が3作目でついに爆発。家出をするが、とたんに平田家は崩壊の危機を迎え、周造は家族全員を招集、“シリーズ恒例”の緊急家族会議が開かれる-というストーリーだ。
 「1、2作目を撮っていて、こう思い始めた。幸之助は自分勝手な悪い男。一方、文句を言わずに家事すべてを任されてきた妻の史枝さんはあまりにもかわいそうだと…。それなら3作目で史枝さんを家出させ、主婦の仕事がいかに重要かを描こうと決めたんです」と山田監督は打ち明けた。
■シリーズ化の難しさ
 1、2作目では周造夫婦の離婚の危機、高齢者問題などを描いたが、3作目では長男夫婦の離婚騒動へと展開。個性豊かな登場人物たちのそれぞれのドラマが動き出し、長期シリーズ化が期待される。
 だが、「家族はつらいよ」は当初、シリーズ化の予定はなかったという。
 同シリーズは平成25年公開の「東京家族」をきっかけに生まれた。
 小津安二郎監督の名作「東京物語」を山田監督がオマージュして撮った作品で、家族構成をそのままに設定を変えて引き継がれたのが、「家族はつらいよ」。「『東京家族』を撮り終え、このキャストで家族を題材にした面白い喜劇が撮れるのではないか…」と山田監督が構想、3年後に1作目が公開された。
 家族向けの喜劇シリーズはもう流行(はや)らない-などといわれ、“邦画最後のプログラムピクチャー”と呼ばれた「釣りバカ日誌」シリーズも21年に終了した。そんな風潮に逆らうように生まれた喜劇シリーズ「家族はつらいよ」は順調に3作目の公開までこぎつけた。
 1作目のときにシリーズ化の構想はなかったというが、その後も状況は同じだった。「2作目の公開数カ月後に3作目のゴーサインが出た」。名匠・山田監督にして、ヒットしなければ後がない-というのが、今のシリーズものの宿命だ。
■大人向け邦画への期待
 本当に喜劇シリーズは流行らないのだろうか?
 「家族はつらいよ」シリーズの人気が、そうでなかったことを証明している。
 「近年、大人向けの邦画が少ないと思う。若い俳優ばかりを配役し、高校生を中心にした若者向けの映画ばかりになっている」と山田監督は実情を語る。
 寅さんシリーズで山田監督は、自由奔放な車寅次郎(渥美清)に振り回される妹、さくら(倍賞千恵子)ら“昭和の日本の家族ドラマ”を描き続け、釣りバカシリーズでは、“不良”社員のハマちゃん(西田敏行)を見守る社長、スーさん(三國連太郎)たちとの世代を超えた家族愛、友情などを描いてきた。
 「いつしか日本映画の題材は若者向けの恋愛だけになり、親やきょうだいなど家族が描かれなくなった。そんな中、日本でブームになったのが、韓国の映画やドラマ。家族愛がきちんと描かれていますからね」と山田監督。映画ファンを、日本映画は無視してきたのではと分析する。
■家族愛、人間愛を描く
 「東京家族」を撮る際、山田監督はこんな話を語っている。
 「松竹に入社した当時、大先輩に小津監督がいた。若い私は反発し、小津監督が得意とする家族ものなんて撮らない、黒澤明監督のような大作を撮るんだと言っていたが、小津監督の年齢に近づいていく中で、そんな考えは変わっていきました」
 普遍的な家族の絆などを淡々と描いた「東京物語」の魅力を改めて思い知らされ、敬意を込めて撮ったのが、「東京家族」だった。
 山田監督が脚本を手掛けた隠れた人気シリーズに「サラリーマン専科」がある。親代わりになって弟を育てた兄を三宅裕司が好演した喜劇だ。とぼけた兄と我(が)の強い弟との兄弟の絆は、寅さんとさくらの絆のように、現代人が忘れた家族の在り方を丁寧に紡ぎ出していた。
 そう山田監督に伝えると、「釣りバカのハマちゃんとスーさんの関係もそうですね。スーさんは浜崎家のおじいさんのような存在で、家族を超えた絆を描いています。映画で描くべきテーマは恋愛だけじゃないんです」と答えた。
■ヒットの方程式は?
 数々のシリーズ化に成功してきたが、ヒットの方程式はあるのだろうか?
 山田監督は答えた。
 「もちろん、ありますよ。どんな世代でも共感でき、楽しめる映画を作るべきです。愛情には男女の恋愛だけでなく、両親や兄弟への思いなどいろいろある。それらを丁寧に大切に描くことが必要です」
 山田監督の答えは、寅さんや釣りバカ、サラリーマン専科、そして家族はつらいよシリーズを見れば自(おの)ずと理解できる。ただ、この方程式を成立させることは容易ではない。シリーズ化されることなく消えていった作品は、邦画史の中で数え切れない。
 山田監督のシリーズもので、忘れてはいけないのがもう一つ。「たそがれ清兵衛」など作家、藤沢周平の小説を原作に3部作を手掛けた時代劇シリーズだ。
 新作の構想はあるのか?
 「もちろん撮りたい。だが、時代劇はセットなどが大掛かりになり、現代劇に比べて製作費が5、6割は増えてしまう。だから、なかなか自由に撮れない。それに年齢の心配がね…」と語る山田監督に、「88歳のクリント・イーストウッド監督は、まだ元気に撮り続けていますよ?」と言うと、「そうですね。イーストウッドには負けたくないね。彼よりも長く撮らないと」と語った。
 86歳となった名匠の創作意欲はまだまだ尽きそうにない。