【軍事ワールド】「求む! 元戦闘機パイロット」 米空軍1000人募集も トム・クルーズの主演作でPRの海軍と比べ… - 産経ニュース

【軍事ワールド】「求む! 元戦闘機パイロット」 米空軍1000人募集も トム・クルーズの主演作でPRの海軍と比べ…

米空軍のF-15Eストライクイーグル戦闘攻撃機(米空軍提供)
トップ・ガンの新作に登場するとみられるFA-18スーパーホーネット(岡田敏彦撮影)
米俳優トム・クルーズのツイート画面。彼の演じる「マーベリック」は、前回は最高速度マッハ2の出るF-14トムキャットを操縦していたが…
米空軍のF-15Eストライクイーグル戦闘攻撃機(米空軍提供)
トップ・ガンで主人公のマーベリックが操縦したF-14トムキャット。現在は米海軍から全機退役し、飛行状態で残っているのはパーレビ政権時に輸出したイランの機体のみとされる(岡田敏彦撮影)
米空軍のF-15Eとほぼ同型のF-15C「イーグル」戦闘機。最高速度はマッハ2・4で、FA-18Eスーパーホーネット(マッハ1・6)より優速だが…(2014年9月、岡田敏彦撮影)
トップ・ガンで主人公のマーベリックが操縦したF-14トムキャット。現在は米海軍から全機退役し、飛行状態で残っているのはパーレビ政権時に輸出したイランの機体のみとされる(岡田敏彦撮影)
 米空軍が1000人の退役軍人を現役に呼び戻そうとしている。求めるのはパイロットと、後席に搭乗しミサイル発射などをつかさどる戦闘システム士官、そして早期警戒機に搭乗して空域の戦闘誘導を行う空中戦管理者の経験者。いずれも退職したか間もなく退職する人物が対象だ。年齢を重ね管理職となった人物が、組織のピンチに戦闘服を着用して現役復帰…というストーリーは「パシフィック・リム」など映画では胸躍るシーンだが、米空軍が目指す現役復帰は世知辛い風情が漂っている。(岡田敏彦)
 世界情勢とは別の…
 米空軍が1000人復帰を公表したのは5月下旬。北朝鮮情勢の緊迫化や中国による南シナ海の暗礁の埋め立て・基地化などによる摩擦と時期が重なるが、復帰・増員はこうした国際情勢が理由ではない。問題は米国における慢性的な軍パイロットの不足とされる。米軍事専門サイト「ミリタリー・COM」などによると、米空軍では今後、必要なパイロットの約10%にあたる1500~2000人が不足する事態に直面するという。腕の立つパイロットの育成には訓練機材も含め数千万円の費用と長い期間が必要だが、パイロットたちは待遇の良い民間航空会社に引き抜かれることが多々ある。また長期の海外派遣が家庭的に負担となり退職するといったケースも絶えなかった。さらに米紙USAトゥデイ(電子版)は「訓練の遅延と資金不足」を原因にあげる。その一方でイラクやシリアでの軍事行動のために「航空機と乗組員の出動率は予想以上に高まっている」と指摘。米空軍のパイロット不足は慢性的なものとなっていた。
 絵に描いた餅
 このため米トランプ大統領は昨年10月、退役パイロット1000人の現役復帰を可能とする大統領令に署名したのだが、中身は現実に対応していなかった。
 復帰できる期間がわずか1年に制限されていたことなどがネックとなり、実際に復帰したのはわずか10人。1000人復帰は絵に描いた餅となりかねない状態だったのだ。
 そこで今年5月、受け入れ条件を大幅に改正。復帰して働ける期間を「1年」から「2~4年」に延長したほか、パイロットだけだった対象を、戦闘システム士官(空軍特殊コード12X)空中戦管理者(同13B)にも拡大した。
 米空軍関連サイト「エア・フォース・タイムズ」によれば、最長4年の勤務を可能にしたことで「パイロットとしての再訓練に1年を充てたあと、さらに3年の間、任務を果たせる(働ける)」としている。さらに凄腕パイロットなど“匠の技”を持つ者は「空軍基地でインストラクター(指導教官)として働くことも可能」という。「退職したグレードで現役復帰を命じられ」ることから、階級は現役時のままで復職できるのも魅力だ。
 実際、米空軍の公式発表では、対象者は▽退職後5年以内▽原則50歳未満▽階級は大佐か中佐、もしくは大尉-などとなっており、つまりは現役時に戦闘飛行中隊の指揮官や部隊司令を務めた“腕利きのエリート”が対象となっている。
 結局はベテランが前線で「昔取った杵柄」といわんばかりの戦闘任務に就くのではなく、映画「トップ・ガン」に出てきたような凄腕の教官となって現役をシゴキ抜くことで、全体のレベルアップにつなげ、かつ人員不足を解消するのが目的のひとつのようだ。
 ただし、空軍の「人集め」には根深い難点があるのではないかと苦笑したくなる要素もある。
 空軍と海軍のイメージ戦略
 5月31日、ある1件のツイートが米海軍関係者のみならず世界の航空機ファンを騒然とさせた。ツイートされた写真は、遠方に米海軍の艦上戦闘機FA-18スーパーホーネットらしき機体があり、手前にはエヴィエイター(海軍でのパイロットの呼び方)がたたずむ。その手に持つヘルメットには「MAVERICK」の文字が。ツイートのタグは「♯Day1」で、ツイートしたのは米俳優トム・クルーズ本人。1986年上映の名作「トップ・ガン」の続編の撮影1日目がスタートしたとの知らせだった。
 人員募集の「最初の一手」であるイメージ向上とPRにおいて、米海軍はこうした映画撮影への全面協力という形で米空軍に対し大きくリードしている。その結果、映画「バトルシップ」では、主役が戦艦なのはともかく、舞台がハワイなのに出てくる戦闘機は海軍機ばかり。ハワイには最新鋭戦闘機を擁するヒッカム空軍基地があるにもかかわらずだ。
 同じく映画「インデペンデンス・デイ」でも活躍するのは米海軍機のみ。主役が海軍の空母艦載機乗りなのはもちろん、準主役の米大統領も元海軍エヴィエイターで、ハイライトでは自ら戦闘機に乗り込み異星人と空中戦を繰り広げる。空軍機はというと、異星人を倒した後に破壊された姿で登場。米空軍所属を示すマークが書かれた残骸を、戦勝に沸く人々が踏みつけていくというアンチ空軍かつ海軍バンザイな映画だった。
 この地味な嫌がらせにもみえる仕打ちに日頃から異論があったのか、トム・クルーズのツイートでは空軍が“反撃”した。
 突っ込んだのはツイートに書かれた「FEEL THE NEED」(必要性を感じる)の言葉。ちなみに元ネタはトップ・ガン1作目の「I feel the need… the need for speed」(俺は必要性を感じるんだ、スピードに対する必要性を)という名セリフ。俺は高速で飛ばなきゃ生きていけないんだ、という意味合いだ。
 このツイートに米空軍公式ツイッターは「(トム・クルーズ演じる)マーベリックが本当にスピードを必要としているなら、われわれ空軍のF-15Eストライクイーグル戦闘機に乗るべきだ。最高速度は時速1875マイル(音速の2・4倍)だ」とツイート。
 確かに海軍のFA-18E(同1・6倍)を上回る速度なのだが、これに今度は米海軍公式ツイッターが反応し「覚えておけ、小僧。2番ではだめなんだ」というトップガンの凄腕教官のセリフで返答。戦闘機の強さが最高速度だけで決まるわけないだろ、というところか。
 あとは泥沼で、米空軍公式は「F-15は2番じゃない。このスコアをみろ」とスミソニアン博物館のホームページにあるF-15の戦歴紹介ページをリンク。さらには米海兵隊公式ツイッターが乱入し「空軍の戦闘機って世界に展開する船から離陸できるの?」と世界展開の「速度」について挑発。空軍公式は「空中給油機があるのに、なんで大海の中に“陸”を探さなきゃならんのだ」と返答…。
 なぜ「もし良かったら空軍機も出してね」程度の軽いツイートで済ませられないのか…。映画協力もともかく、この空気の読めなさが、空軍に人の集まらない一因ではないだろうか。