【関西の議論】受刑者への「頭髪指導」は違法? 髪を伸ばしたい男の訴えの行方は - 産経ニュース

【関西の議論】受刑者への「頭髪指導」は違法? 髪を伸ばしたい男の訴えの行方は

 「寄付するために髪を伸ばす」「死刑囚は髪形が自由なのに」「女性受刑者は髪を伸ばしているじゃないか」「出所後に元受刑者とバレる髪形は嫌だ」…。受刑者になったら髪形が制限されるのは違法として、刑事被告人の男が国に髪形を制限する処分の差し止めを求めた訴訟の判決が大阪地裁であった。男はあれこれと論を尽くし、髪を伸ばすことは認められるべきと力説したが、果たして裁判所は訴えをどう判断したのか。受刑者のあるべき髪形とは-。
受刑者は「原型(げんけい)刈り」
 訴訟を起こしたのは、詐欺罪などで実刑判決を受け、上告した30代の男。大阪拘置所(大阪市都島区)に収容中で、昨年5月に提訴した。
 訴えによると、男は、病気やがん治療の影響で頭髪に悩みを抱える子供のウイッグ(かつら)をつくるために髪を贈る取り組みに協力しようと、約3年かけて寄付が可能な長さ(31センチ以上)に髪を伸ばしていたという。1、2審で詐欺罪の有罪判決を受けた男は上告していたが、この判決が確定して受刑者として収容されれば、髪形を制限され「髪を寄付することができなくなり、自己決定権が侵害される」-として訴えを起こした。
 そもそも受刑者の髪形というのは、どのようなものだろうか。受刑者の髪形については、刑事収容施設法や「被収容者の保健衛生及び医療に関する訓令」などで規定されている。
 男性受刑者の場合は「原型刈り」(髪全体を0・2センチに刈る)か「前五分刈り」(最も長い部分が1・6センチで、上部の髪と調和するようにすそから刈り進める)のどちらかを受刑者が選ぶと規定。
 仮釈放の準備の必要があったり、残りの刑期が3カ月以内となったりした場合は「中髪刈り」(頭頂部の髪の長さが約5センチ。頭頂部に至るに従い丸みを持たせながら刈る)を参考に、調えることもできるとしている。
 一方、女性受刑者については「華美にわたることなく、清楚な髪形」(訓令)とされており、大阪拘置所では、これを受けて、編み込み型▽束ね方▽ショートカット-のうち本人が希望する髪形にすると定めている。
男女不平等?社会復帰に影響?
 こうした規定について、男はさまざまな角度から反論を試みた。
 (1)最も犯罪傾向の進んだ死刑確定者には自由な髪形が認められている
 (2)大阪拘置所では作業時に帽子やヘルメットの着用が義務付けられており、長髪でも安全管理に支障はない
 (3)逃走防止のために受刑者の見た目を統一する必要があるとしても、服装をそろえれば足りる
 (4)希望者には自分の費用で調髪させれば、施設の財政負担が軽くなる
 さらに、男性の髪形は女性に比べて制限されているのは、「国民は法の下に平等で性別で差別されない」とした憲法に違反すると主張。また、世間には受刑者と同じ髪形をしている男性がほとんどいないとして、「出所すると周囲に元受刑者とバレてしまい、社会復帰の妨げになる」とも訴えた。
国は「規律維持」「逃走防止」と反論
 こうした男の訴えに対し、国は訴訟で、受刑者の髪形を制限する正当性を以下のように説明した。
 (1)集団生活の規律や衛生を維持するために有効
 (2)逃走を防止するため、ある程度見た目を統一する必要がある
 (3)髪形を限定することで、器具の調達や維持の財政負担が軽減できる
 (4)受刑者に課す作業の内容によっては安全管理上、一定の髪形にすることが求められる
 その上で、髪形の制限は「必要かつ合理的な措置で、過剰な制限を加えるものではない」と述べた。
 男が訴える「男女差別」については、男女の髪形の違いは、社会的な役割分担などによって歴史的に形成されてきたもので、「認められる髪形に差があって当然」であり「憲法上の平等原則に違反しない」と反論した。
裁判所の判断は…
 大阪地裁で判決が言い渡されたのは今年2月。地裁は判決理由で、まず、国が受刑者の髪形を制限するのは「汗をかいたり機械を動かしたりする作業をさせることがあり、汚れを落としたり、髪が機械に巻き込まれるのを防ぐ目的がある」と指摘。髪形を制限したからといって「受刑者の更生などが妨げられるとはいえない」として、髪形の制限は大阪拘置所長の裁量権の逸脱や乱用には当たらないと判断した。
 その上で男の訴えを検討。「死刑囚は髪形が自由なのに」という言い分については「死刑確定者は刑事施設で作業をしないため安全性を確保する必要がなく、調髪が義務付けられていない」とし、比較して違法とはいえないとした。
 女性受刑者より制限されていて憲法違反-という主張はどうか。判決は「性別に応じて異なる扱いをするのは当然」と位置づけた上で、男女の髪形の違いは「生物学的な差異や文化、慣習などによって歴史的に形成されてきた」と述べ、男女での違いには合理的な根拠があると判示した。
 「出所後に元受刑者とバレる」。この訴えについては、出所が近い受刑者には「中髪(ちゅうはつ)刈り」も認められており、一般社会にも同じ髪形の男性がいるとして、「社会的評価が低下したり、社会復帰を妨げたりするものではない」と退けた。
 男の訴えはいずれも採用されず、地裁は請求を棄却した。髪を伸ばすことは認められるべきという主張が聞き入れられなかった男は3月、大阪高裁に控訴している。