東大生産研が和歌山・加太に滞在型ラボ 地元密着で漁港の町の活性化策練る

関西の議論
東京大学生産技術研究所の研究拠点となる古民家。ここから情報が発信される=和歌山市

 「ラピュタの島」と呼ばれる友ケ島が観光で人気の漁港の町、和歌山市加太地区に6月、東京大学生産技術研究所が国内では珍しい駐在型の研究拠点(ラボ)を開設する。市の中心部から近く、自然に恵まれた同地区は観光客は多いが、下水道が未整備で過疎・高齢化も進み、市が唱える移住・定住が進んでいない。そこで地区の民家調査を続けてきた同研究所が活性化に協力することに。研究所は「ラボを拠点にフィールド調査などを重ね、観光や移住に特化したエリアを設定することで地元の受け入れ体制を充実させたい」としている。(小笠原僚也)

築100年以上の古民家をリノベーション

 東大生産技術研究所の「加太分室 地域ラボ」は6月末に開設予定。千人以上の工学分野の研究者を擁する、日本最大級の大学付属研究所が開設する分室への期待は地元でも大きい。

 同研究所は、経済産業省の地域活性化モデルを考える事業で加太地区がリストに上がったことから同地区とつながりを持ち、26年度から研究の一環として、古民家の活用調査や住民とのワークショップなどを実施。地区内で住民と観光客の歩くルートが大きく異なっていることなども調べた。

 さらに外部からの視点ではなく、地元に根ざした研究を進めるため、今回のラボ開設を決めたという。

 ラボは築100年以上の古民家をリノベーションして転用。研究のほか、情報発信や地域交流の場として市民や観光客にもオープンな場所にするという。

 常駐する同研究所の青木佳子特任助教(29)はすでに4月から地区へ移住し、地域の現状把握などに努めている。青木氏は「実際に住んでみると、想像していたよりも生活における不便さは少ない。車や自転車があれば移動もしやすく、若者でも移住がしやすい場所だと思う」と話す。

 ラボ開設後は市などと協力し、空き家の建て替えや下水整備、電柱の地中化などのインフラ整備、地区の持つ漁業ブランドの強化による雇用創出などに向けた実践的な研究・調査を始める。

観光客増も地域の活力は低下

 観光資源が豊富な加太には週末を中心に国内外から多くの観光客が訪れる。中でも有名なのが、紀淡海峡に浮かぶ無人島群・友ケ島だ。戦時中に築かれた赤レンガ造りの砲台跡などの遺構や廃虚のような島独特の雰囲気は、ジブリ映画「天空の城ラピュタ」の舞台に似ていることから「ラピュタの島」として人気を集める。

 市によると、平成18年度に1万5854人だった観光客は、その後ネットなどでラピュタの島が話題になり、29年度には8万6329人と5倍以上に増加した。一方、昭和60年に5185人だった加太地区の人口は、平成27年には2887人と4割以上も減少。魅力的な観光スポットを持っていても、市が掲げる移住・定住の促進には結びついておらず、人口減は深刻な課題だ。

 高齢化率も高く、住民のうち65歳以上の割合は44・8%と市平均の29・3%を大きく上回る。また29年の空き家率も7・1%と市内42地区のうちで3番目に高く、地域全体の活力の低下が大きな問題となっている。

 さらに公共下水道の未整備も移住・定住の大きな妨げだ。28年度時点での下水道の普及率はわずか4・3%で、市の担当者は「移住推進には下水道の整備が不可欠」と話す。

 市が同研究所の協力を得て活性化に取り組む背景には、こうした事情がある。

産官学合同のまちづくり

 4月には地区の活性化策を検討するため、市と同研究所に加え、地元企業などから関係者約30人が集まり初の連携会議を開催、産官学それぞれの目線から加太の魅力や移住への課題などについて話し合った。

 これに合わせ、市は担当12課が参加するプロジェクトチームを発足。今後は同研究所と連携し、加太地区の古い町並みを生かしたまちづくりや自然や歴史の魅力の発信を進め、移住・定住の推進を図っていく。同地区周辺は大型テニスコートや人気の高いサーフィンスポットがある海水浴場などスポーツ環境も整っており、合宿や大会の誘致などでスポーツの拠点も目指すという。

 青木氏は「取り組むべき課題はたくさんある。地元の内側から活性化に向けた意識を高め、ゆくゆくは全国に先駆けた地方活性化のモデルケースにしたい」と話している。