【関西の議論】目指すは観光立国か規制強化か…6月施行「民泊新法」めぐり深まる混迷 - 産経ニュース

【関西の議論】目指すは観光立国か規制強化か…6月施行「民泊新法」めぐり深まる混迷

「民泊絶対反対」の旗を掲げ、御堂筋を行進するデモ隊=大阪市北区
 空き部屋などを旅行者らに貸し出す「民泊」を営む事業者に自治体への届け出を義務づけた住宅宿泊事業法(民泊新法)が6月15日に施行されるのを前に、混迷が深まっている。民泊に顧客を奪われる形になる既存のホテル・旅館業界は、大規模な抗議デモを実施。住民生活への影響を懸念する各地の自治体では、民泊の営業日などを制限する条例の制定が相次いでいる。一方、新法により外国人観光客(インバウンド)への対応強化や無許可営業の「ヤミ民泊」の一掃を狙う国は、こうした動きを「新法の趣旨に逸脱する」と逆に牽制(けんせい)。当事者である民泊の経営者も「民泊のメリットが台無し」と反発している。民泊を活用した観光立国の推進と、これに反する、地域住民に配慮した規制の強化。専門家は「解決には大局的な見地が必要」と指摘する。
「おもてなし」精神が消える?
 「民泊反対!」「旅館業法改正は世界の恥だ!」
 新法施行による本格的な民泊解禁を約1カ月後に控えた5月8日、大阪市役所前の御堂筋でシュプレヒコールが上がった。デモを企画したのは全国1000店舗以上のホテル・旅館などでつくる「全日本ホテル旅館協同組合」(大阪市)。組合によると、約1500人の業界関係者や地域住民らが参加した。
 「民泊で私たちの生活を壊さないで」。デモに先立ち組合側は、住宅地に鳴り響くスーツケースの音や深夜まで続く笑い声に困り果てる住民の様子など、民泊解禁で起こることが予想されるトラブルをマンガで紹介したチラシを、大阪市中心部のマンションなどに配布した。
 組合側は、「インバウンドの影響で満室になるのは難波などの都心に立地するホテルや旅館だけ。都心から離れた中小のホテルの稼働率は50%程度にとどまっている」と主張。担当者は「民泊が台頭してきたころから、売り上げが大きく落ちた宿泊施設もある」と明かす。
 さらに組合は、民泊新法と同時に施行される改正旅館業法も危惧。法改正に伴う政令では、高性能のビデオカメラによる顔認証で本人だと確認できればフロントは不要としており、担当者は「管理人不在の民泊が合法になれば、『おもてなし』の精神はどうなるのか。災害などが起きた際に誰が誘導をするのかも不安だ」と投げかける。
兵庫は事実上「排除」
 民泊をめぐっては騒音やごみ投棄などのトラブルを懸念する声があり、民泊新法では年間の営業日数を180日以内と規定。ただ、「新法だけでは住民の十分な理解が得られず、健全な住環境も守ることができない」との判断から、条例による「上乗せ規制」を行う自治体が相次いでいる。
 空前のインバウンド需要に沸く大阪市では、ホテルや旅館が営業できない「住居専用地域」の場合、幅4メートル以上の道路に面していないエリアは全面的に民泊の営業を禁止に。小学校周辺100メートル以内では、月曜正午から金曜正午までの営業を禁じた。
 京都市では、住居専用地域での民泊営業を観光閑散期の1月15日から3月15日までに制限。一定の条件を満たした京町家や家主が居住する場合は例外としたものの、営業時間中は原則として、施設内かすぐに駆け付けられる場所に管理者を置くことを義務付けるなどトラブル対応も強化した。
 「全国一厳しい」とされるのは兵庫県の条例だ。住居専用地域や教育施設周辺での民泊営業を通年で禁止したほか、城崎温泉(豊岡市)などの「景観形成地区」では夏期(7、8月)と冬期(11~3月)は毎日、他の時期でも季節は金~日曜と祝日、祝前日の営業を禁止に。事実上、民泊営業が不可能な内容となっている。
 観光庁によると、5月7日現在で民泊の規制条例を導入した都道府県や特別区、政令指定都市などは計46自治体に上り、検討中は14自治体。条例を「制定しない」としているのは37自治体だった。
対立する国と自治体
 ただ、これらの民泊の規制強化を進める各自治体の動きに対し、国はあからさまに不快感を示している。
 政府は平成28年に初めて年間2000万人を突破したインバウンドを、東京五輪・パラリンピックがある2020年には4000万人、30年には6000万人とする目標を定めている。好調なインバウンドに対し、すでに一部都市では宿泊施設の客室不足が起きているとの指摘もあり、解消策の一つとして民泊新法を成立させた経緯がある。
 兵庫県のように、条例で通年の民泊営業を禁じるいわゆる「0日規制」について、観光庁は公表した民泊新法ガイドラインの中で「法の目的を逸脱するものであり、適切ではない」とくぎを刺し、自治体側に注意を喚起した。
 国家戦略特区制度を活用し、すでに大阪市内で民泊を経営している男性は、「(条例による)一方的な規制強化は、民泊が『怪しい存在』としか見られていない証拠。これでは、安価でさまざまな宿を選べるといった民泊のメリットが台無しになる」と憤り、「騒音防止などについては利用者に十分説明しているし、苦情も出たことはないのに」と悔しさをにじませた。
 民泊に詳しい和歌山大学観光学部の広岡裕一教授(観光学)は「住民の視点に立つのは当然だが、単に意見を丸飲みして『面倒だから全部禁止』はいかがかと思う」と一部自治体の対応に苦言を呈し、「民泊による地域振興など含めた大局的な見地に立った判断が重要。自治体は今、試されていると考える」と話した。