「若手歌手の登竜門」セルシー解体へ、隣接の百貨店とともに一体再開発…“伝説の広場”残るか不安の声も

関西の議論
数々の歌手が利用したセルシー広場。中央に野外ステージが見える=大阪府豊中市

 岩崎宏美や河合奈保子、倉木麻衣、AKB48、きゃりーぱみゅぱみゅ…。「若手歌手の登竜門」として知られる北大阪急行・千里中央駅前の大型商業施設「セルシー」(大阪府豊中市)と、隣接する百貨店「千里阪急」(同市)を、阪急阪神百貨店を傘下に持つ「エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリング」などが、いったん解体し、一体的に再開発することになった。セルシーは建物の耐震性に問題があり、所有者側がテナントに、建て替える方向で検討していると伝えていたが、計画は水面下で練られ、関係者でさえ「寝耳に水」と驚く。駅周辺の活性化に期待がかかる一方で、歌手らがステージに立ったセルシー広場が残るかどうかにも関心が集まっている。(張英壽)

百貨店が核のショッピングセンター検討

 計画が発表されたのは2月28日。H2Oが再開発のためにつくられた特別目的会社とともに再開発プラン策定の検討を進めるとしている。着工や完成の時期などは未定だが、「百貨店を核としたショッピングセンターを検討している」という。

 セルシーは昭和47年に完成し、延べ床面積約4万5千平方メートルで地下1階地上6階建て。千里阪急は45年に完成して57年に増床しており、同約2万平方メートルで地下1階地上7階建て。計画では、両施設をいったん解体して新しい建物に建て替えるとしている。

 新施設は、延べ床面積が「阪急うめだ本店」(約14万平方メートル、大阪市北区)に近い10万平方メートル級となる商業施設を目指している。H2Oは特別目的会社に15億円を出資している。

 千里中央駅は、相互直通運転する大阪メトロ御堂筋線・梅田駅まで約20分で行け、交通の利便性が高い。また周辺の人口は増えており、商業施設の立地場所としては魅力が大きいとみられる。

 千里中央駅は、昭和37年にまち開きした千里ニュータウン(大阪府豊中市、吹田市)内にある。両市でつくる「吹田市・豊中市千里ニュータウン連絡会議」が昨年、まとめた資料によると、ニュータウン内の人口は昭和50年には12万9860人だったが、その後減少し、平成22年には8万9220人にまで落ち込んだ。だが、23年以降は増加傾向に転じ、昨年は10万人近い9万9319人にまで回復した。

 両市によると、府住宅供給公社の住宅や府営住宅が建て替えられて高層化し、住宅の集約化で余った土地が民間に売却されてマンションが建設されており、この民間マンションが人口増加を促しているという。建て替えは続けられており、民間マンションは今後も増えるとみられる。

 さらに北大阪急行は平成32年度に、現在終点となっている千里中央駅から北に約2.5キロ延伸し、大阪府箕面市内に2駅を開設する予定で、千里中央駅周辺をショッピングなどで訪れる人たちが増加する可能性がある。

 H2Oの広報担当者は「千里中央駅周辺は商業地としての可能性が大きい。幅広い層を対象にした商業施設にしたい」と話す。

セルシー広場存続「前向きに検討」と担当者

 昭和47年にオープンしたセルシーの象徴的な場所となっていたのが、約千平方メートルのセルシー広場だ。広場には野外ステージが設置され、若手歌手らがレコードやCDの販売促進のために曲を披露。東京のサンシャインシティ噴水広場とともに、「若手歌手の登竜門」として知られ、ファンや買い物に来た市民らは無料でイベントを鑑賞できた。

 ステージに立った歌手らは、岩崎宏美や河合奈保子、もんた&ブラザーズ、河島英五、川中美幸、大橋純子、石川秀美、松浦亜弥、後藤真希、中川翔子、矢井田瞳、氷川きよし、倉木麻衣、きゃりーぱみゅぱみゅ、AKB48などで、そうそうたる陣容だ。

 だが、セルシーの建物は耐震診断の結果、「震度6強から7の地震で倒壊、または崩壊する危険性が高い」とされ、豊中市が昨年3月に公表した。この耐震性の問題から、歌手らによるライブ活動は一昨年11月からほぼ1年半にわたり、開催できなくなっている。

 セルシーの管理会社である阪急阪神ビルマネジメントによると、賃貸借契約をテナントと結んでいる所有者側の会社が昨年夏、テナント側に建て替える方向で検討していることを明らかにした。テナントは一時約100店が入っていたが、立ち退く店が相次ぎ、現在はスーパーやスポーツクラブなど二十数店舗に減っている。

 H2Oの発表で、建て替えは現実のものになったが、具体的な計画は明らかにされていない。H2Oの広報担当者はセルシー広場について「認知されているので、開発にあたって前向きに検討している」と説明するが、存続させるかどうか明言はしていない。広場が本当に残るのかどうか、テナントが引き続き入れるのかなど、先行きを不安視する声もある。

「寝耳に水」人情は引き継いで…

 テナントと賃貸借契約している所有者側の会社の代理人によると、各テナントに再開発の計画を説明したというが、テナント業者の一人は今後の成り行きについて「まだ分からない」と、言葉少なに語った。

 一方、セルシーを管理する阪急阪神ビルマネジメントの担当者は今回の決定について「発表の前日に知った。寝耳に水」と驚く。「われわれの業務は管理。今後のことは答えようがないし、知らない」と困惑する一方で、「今あるテナントが新しい施設に入れるのかどうか」「野外ステージは撤去されてしまうのではないか」と不安をもらした。

 セルシーは登記上は三井住友信託銀行が所有しているが、日常的な管理業務は阪急阪神ビルマネジメント、テナントとの賃貸借契約は所有者側の別の会社が担っていた。テナントには、どこが主体なのかはっきり分からず、不安をつのらせる原因にもなっていたが、H2Oが再開発の主体として前面に出てきたため、阪急阪神ビルマネジメントの担当者は「大きい企業でもあり、テナントは安心しているのではないか」と推測した。

 一方、セルシーのそばを通る市民らに聞くと、一体再開発について知っている人はおらず、「初めて聞いた」と驚きの声があがった。

 病院勤務の男性(70)はセルシー広場について「いろんな有名歌手が来て、無料で見られた。見られなくなると残念」。女性会社員(48)は「セルシーのコンサート機能は残してほしい」と訴えた。

 主婦(55)は「セルシーには、長年通っているたこ焼き店がある。その店が新しいところで営業できるのでしょうか。セルシーの店には人情があり、新しい施設にはそういう伝統を引き継いでほしい」と願った。

商業地だけではダメ、広場残し文化成熟を

 市民団体「千里ニュータウン研究・情報センター」代表で、千里ニュータウンの歴史に詳しい太田博一さん(70)は「セルシーは耐震性の問題もあり、建て替えはしなければならなかった。顔が見える会社が開発を行うようになり、よかった」と歓迎する一方で、「千里中央駅周辺は人が集まる商業地であるだけではダメで、文化的なものが必要。歌手やアーティストの『登竜門』になってきたセルシー広場は地域の人たちの誇りにもなっており、残すべきだ」と主張する。

 そのうえで、「セルシー広場は、古くからの住民にも、新しく入ってきた人にとっても、それぞれのライブの思い出がある貴重な場所。千里ニュータウンのまち開きから60年近くたっている。広場はライブとともに住民による文化的な催しができる場にし、これまでつちかった文化を成熟させていく必要がある」と話している。