全国初の「三冠」へ、京都・宇治川の鵜匠の挑戦 17年ぶり「放ち鵜飼」復活へ

関西の議論

 京都府宇治市の「宇治川の鵜飼(うかい)」の鵜匠(うしょう)たちが“伝説の漁法”に挑んでいる。目指すのは鵜をつなぐ追い綱をせず、川で自由に魚を取らせる「放ち鵜飼」だ。相棒となる海鵜(うみう)は平成26年以降に人工孵化(ふか)で育ち、鵜匠たちが育ててきた9羽。育ての親を本物の親と認識する習性を生かした試験的な取り組み。川魚をくわえて確実に鵜匠のもとに戻るまでに成長できるか。(勝田康三)

実現すれば17年ぶり

 「放ち鵜飼を実現するため、インターネット上で資金を募るクラウドファンディングを始めたい」

 宇治市役所で4月19日に開かれた記者会見。鵜飼を主催する宇治市観光協会の鵜匠、沢木万理子さん(44)は、こう訴えた。150万円を目標額に6月29日まで寄付を募り、集まった資金を餌代やトレーニングなどの費用に充てる。

海鵜を抱く鵜匠の江崎洋子さん。放ち鵜飼の成功には信頼関係を深めることが必要だ=京都府宇治市

 魚を丸飲みにする習性のある鵜を飼い慣らし、のどに首結(くびゆ)いをして引っかかったアユなどの魚を鵜匠が吐き出させる鵜飼は、宇治川や長良川(岐阜)など全国11カ所で行われている。夜の川面を照らすかがり火、風折烏帽子(かざおりえぼし)に腰蓑姿の鵜匠、追い綱をつけて魚を補食する海鵜…。風情豊かで幻想的な光景が観光客の人気を集める。

 一方、海鵜に追い綱をつけずに魚を捕る放ち鵜飼は、13年に島根県益田市の鵜匠が死去して以降途絶えたとされる。今秋に宇治川で実現すれば17年ぶりの復活、人工孵化の海鵜では全国初となるという。

 今回挑戦するのは、26年以降に人工孵化で育った海鵜9羽。全羽に「うみうのウッティー」の愛称がつけられており、沢木さんは会見で「ウッティーたちは呼べば反応する。追い綱がなくても鵜飼ができるのでは」と放ち鵜飼を思いついた経緯を語った。

 構想の裏には、沢木さんら鵜匠たちが全国で初めて海鵜を人工孵化させ、成長させた実績と自負がある。人工孵化の3羽がすでに鵜飼で活躍中というのも全国初。放ち鵜飼は3つ目の「オンリーワン」実現に向けた取り組みなのだ。

試行錯誤の連続

 宇治川の鵜飼は大正15年に始まった。世界遺産・平等院近くの岸壁と中州との間の宇治川が舞台。7~9月がシーズンで、昨年は約6390人の観光客を集めた。古くは藤原道綱母が記した平安時代の「蜻蛉(かげろう)日記」にも登場。かつては漁業だったが、現在は舟に乗る見物客を楽しませる観光用に変わったという。

昨季行われた宇治川の鵜飼の様子=平成29年7月、京都府宇治市

 中州には鵜飼小屋が設置され、ウッティー9羽と野生の9羽を飼育。沢木さんと江崎洋子さん(39)、松坂善勝さん(80)の鵜匠3人が伝統の技を引き継いでいる。

 放ち鵜飼の実現に向け、沢木さんらは27年12月、島根県益田市を視察した。野生の海鵜と鵜匠が一緒に過ごす映像を見たものの、具体的にどう接していたのか詳細は不明。沢木さんは「野生と人工孵化の海鵜は育った環境が全く違う。これからのトレーニングは試行錯誤です」と話す。

餌やりから信頼関係を

 宇治川は現在、護岸工事中で、さらに6月10日予定のアユ漁解禁まで河川でのトレーニングができない状態だ。このため、アユ漁解禁までは餌やりを通じて顔を合わせ、信頼関係を深めていく方針だ。

 4月下旬のある日。小屋での餌やりを取材した。1日1回の餌の時間に居合わせた大勢の観光客がその様子を見つめる。全羽同じ名前なのに、鵜匠たちは簡単に見分けが付くという。

 記者がカメラを構えると、ウッティーらはくちばしで記者の靴を突くなどご機嫌斜め。沢木さんは「知らない人が近寄ると、はじめは逃げ、追い込められると攻撃してくる。海鵜は怖がりで警戒心が強い」と解説する。

 ところが、鵜匠の江崎さんが餌をやり出すと、プールに飛び込み、餌をのみこんだ。中には鵜匠のひざの上に座ってくつろぐウッティーもおり、信頼関係の強さを感じた。

海鵜に餌をやる鵜匠の江崎洋子さん=京都府宇治市

 昨季終了後の昨年10~12月、護岸の一部にできた砂浜を活用し、ウッティーたちを追い綱なしで宇治川に放って岸に戻る練習を繰り返した。しかし、このときは呼んでも戻らないウッティーがいたといい、まだまだ課題は多いという。

手探りの状態

 沢木さんによると、ウッティー9羽のうち、26年に生まれた1羽と昨年生まれた4羽は鵜匠3人との関係も深く、放ち鵜飼の実現可能性は高いという。ただ、あくまで全9羽でできるようにすることが目標。残り4羽のトレーニングを急ぐ必要がある。

 そこで沢木さんらが考えているのは、できる5羽を先に鍛え、後れをとる4羽に練習の様子を見せるとともに餌やりで信頼関係も深めるという作戦だ。“できる”仲間を見習うという海鵜の習性に期待をかけるのだという。

 海鵜の生態などに詳しい国立民族学博物館(大阪府吹田市)の卯田宗平准教授(環境民俗学)によると、海鵜は知能や適応能力が高いとされ、沢木さんらが行うトレーニングは効果的だという。

 「餌を使って海鵜の行動をいかにコントロールするかが重要。魚を補食し、鵜匠の元に戻れば餌が食べられるという学習をさせれば、戻ってくるようになるだろう」と卯田准教授。さらに、餌の量に注意が必要とも指摘する。満腹状態だと魚も補食しないし、鵜匠の元に戻ることもないからだ。

 放ち鵜飼は日中に行うことになる。夜間だと鵜匠は海鵜の動きを把握しにくく、海鵜も暗くて魚を捕らえられないためだ。流れが速い宇治川の本流に出ると海鵜が流されてしまうことも想定され、こうした危険性も考えながらのトレーニングになるという。

 今年の放ち鵜飼はシーズン終盤の9月29日に、1日限定で行う予定で、観覧はクラウドファンディングで高額寄付をした20人に限定する。宇治川の鵜飼の「3つ目の全国初」が実現するか。鵜匠と海鵜の絆の強さが実を結ぶか注目される。