地味なアイドル東播磨ちゃん…自虐的なPR動画、「仲間割れ」で一時配信停止に

関西の議論

 兵庫県南部に位置し、東に神戸、西に姫路という有名な観光地に挟まれた東播磨(ひがしはりま)地域(明石、加古川、高砂など3市2町)を管轄する兵庫県の出先機関、県東播磨県民局が制作したPR動画が物議を醸している。動画は神戸、姫路、東播磨をそれぞれ女性アイドルグループのメンバーに見立て、センターながらも地味で目立たない「東播磨ちゃん」が、周囲の励ましを受け自分の良いところを思い出していくストーリー。自虐的な内容だが、東播磨の良いところを網羅した県民局としては「会心の作品」だったという。ところが、構成自治体の明石市からの猛烈な抗議で動画は一時、配信停止に追い込まれるなど波紋を広げた。(荒木利宏)

明石は日の出の勢い?

 4月20日午前、東播磨県民局の四海達也局長のもとに1本の電話がかかってきた。相手は明石市の泉房穂(いずみ・ふさほ)市長。泉市長は「PR動画について市民から批判の声が寄せられている」とした上で、次のような抗議をした。

 「明石市は積極的にプロモーションを展開しており、今や日の出の勢い。そんな明石を自虐ネタの対象にするのはおかしい。明石は、加古川市や高砂市とは違う」

 さらに泉市長は、動画投稿サイト「ユーチューブ」に配信していたPR動画から明石を紹介する部分を削除するよう訴えた。

「東播磨ちゃん」(中央)は「神戸ちゃん」と「姫路ちゃん」に励まされ地域の特産品を思い出していく(兵庫県東播磨県民局提供)

 明石市は4月から、姫路や西宮、尼崎の各市と並び県内4市目の中核市に移行。子育て世帯の転入促進に力を入れ、第2子以降の保育料無料化などの支援策が奏功し、人口減に苦しむ自治体が多いなか人口を着実に増やしている。

 好調な市政運営を背景に、「地味な東播磨」とひとくくりにされることに反発したのだ。この抗議を受け、四海局長は「一部とはいえ不快感を覚える人がいる以上、強引に配信を続けることは好ましくない」と判断。その日のうちに動画配信を停止した。

 一方、泉市長の抗議は同じ東播磨の近隣自治体との間に摩擦を引き起こした。

 加古川市の岡田康裕市長は自身のフェイスブックで「明石市は周辺市と露骨な形で比較し、自市がより優れているように見せる手法で広報活動を展開してきた。非常に腹立たしい」と痛烈に批判。人口増が目的化し、地域全体の利益よりも行政サービスの無料化や負担減ばかりが競われる現状に警鐘を鳴らすことで、明石市の姿勢に反対の立場を鮮明にした。

 他の1市2町もPR動画に対して肯定的で、明石市に追随する動きはみられなかった。

ネットでは明石に逆風

 そもそも東播磨県民局がPR動画制作に乗り出したのは、地域の圧倒的な知名度不足を解消するためだ。しかし、自治体制作のPR動画があふれている現状では、単に各地域の観光名所や特産品を紹介するだけでは大きなインパクトを与えることはできない。

動画では兵庫県のマスコットキャラクター「はばタン」が東播磨が神戸と姫路の間にあることをPR(県東播磨県民局提供)

 「多少の波風は立っても見る人の印象に残る動画をつくろうと考えた」と県民局の担当者は説明する。

 昨年8~9月にPR動画の内容を公募。寄せられたアイデアの中から、往年の人気アイドルグループ「キャンディーズ」をモチーフに3人組女性アイドルグループ「HYOGO」を結成し、東播磨地域を「東播磨ちゃん」に見立てるというコンセプトを採用した。

 約500万円の予算をかけ、自治体のPR動画では珍しい2~3カ月にも渡るオーディションを実施。主役の東播磨ちゃんには舞台を中心に活動する女優の小西はるさん(17)を起用した。1本30秒程度の動画を5本制作し、今年3月26日から配信を始めた。

 神戸北野異人館街や姫路城といった「売り」を堂々とアピールする神戸ちゃんや姫路ちゃんに対し、東播磨ちゃんが持ち出す明石焼やかつめしを「弱い!」と一喝するシーンがあるなど、あえて自虐的な部分を前面に出した。しかし、一般の視聴者ではなく、身内の自治体首長からの猛抗議で「炎上」するという皮肉な結果となってしまった。

兵庫県南部の各地域を女性アイドルに見立てた県東播磨県民局制作のPR動画(同局提供)

 動画の配信停止の報道を受け、インターネット上では「自虐PRはどうかと思う」「事前に抗議を予想できなかった想像力の欠如が問題」などと県民局の姿勢に疑問を呈する声もあったものの、「東播磨のPRを自ら潰す明石市」「明石市は東播磨ではなく西神戸とでも思っているのだろう」「笑って見過ごせない感性こそが『東播磨ちゃん』」「器が小さい」など、明石市の姿勢に批判的な意見が多く寄せられた。

 こうした意見や再配信を望む声に押されたのか、泉市長は態度を軟化させ、5月2日にはオリジナルのまま動画配信が再開された。

 一連の騒動はひとまず収束に向かったが、明石市と周辺自治体との遺恨は残された。兵庫県の井戸敏三知事は8日の定例会見で「県民局らしからぬユニークな取り組みといえる。(明石市は)もう少しおおらかに対応してもよかったのでは」と、ややあきれた風に話した。

全国でもトラブル相次ぐ

 自治体のPR動画をめぐっては、過去にも「炎上」が起きている。

 平成28年9月、鹿児島県志布志(しぶし)市が公開したふるさと納税のPR動画では、返礼品のウナギを水着姿の少女に擬人化し、「養って」と訴える内容が女性蔑視との批判を浴び、公開約1週間で削除に追い込まれた。

 29年7月には、タレントの壇蜜(だん・みつ)さんを起用して制作した宮城県のPR動画の内容が「性的表現がある」「品位に欠ける」として騒動に発展するなど、インパクトを狙った過激な表現が裏目に出るケースが相次いでいる。

 一方で、東播磨と同じ自虐路線で成功を収めた自治体もある。埼玉県川口市が制作した移住を呼びかけるPR動画では、東京からのアクセスの良さを前面にアピール。「ほぼ東京」「嫌よ埼玉なんて」「治安だっていうほど悪くない」などの自虐ワードをちりばめつつ、市のゆるキャラが懸命に川口をPRする姿勢がネットユーザーに好感され、炎上を回避しつつ独自のPRも成立させた事例となった。

「東播磨ちゃん」(左)は「神戸ちゃん」に励まされ地域の魅力への自信を取り戻していく(兵庫県東播磨県民局提供)

 東洋大の藤本貴之教授(メディア論)は「全国の自治体のうち知名度に恵まれているのはごく少数で、大半はまず知ってもらうことから出発せざるを得ない」と指摘。その上で「ネット動画はPRには手軽な手段でおもしろければ拡散してもらえる利点があるが、情報が一人歩きする怖さも伴う。行政側はインパクトありきの動画制作ではなく、ネットの特質を理解し、リテラシー(判断・応用力)を高めていく必要がある」と強調した。