【衝撃事件の核心】クエの産地偽装 市場関係者も「聞いたことない」中国産、いったいどんなもの? - 産経ニュース

【衝撃事件の核心】クエの産地偽装 市場関係者も「聞いたことない」中国産、いったいどんなもの?

 漁獲量が少なく、「幻の魚」と呼ばれるクエ。天然ものは高値で取引され、近年は養殖の研究も盛んだ。そんな高級魚をめぐる産地偽装事件が4月、大阪で巻き起こった。中国産のクエを国産と偽り販売していたとして、不正競争防止法違反容疑で、大阪府内に拠点を置く水産加工会社が摘発された。希少資源であるがゆえに、偽装が行われるのはある意味、当然といえる。中国産を国産に、という構図もいかにも分かりやすい。ただ中国産のクエを輸入していたのは、国内ではこの会社だけだった。つまり中国産自体もなかなかに希少という、よく分からない背景があるのだ。なぜ他の業者は仕入れないのか。見た目や味に違いはあるのか。
中国産の伝票
 きっかけは貝殻の不法投棄だった。
 大阪府南部にある水産加工会社の流通センター。ここで中身を取り出した後のホッキ貝が、大阪湾に捨てられている疑いがあった。
 貝殻は産業廃棄物にあたり、海への投棄は海洋汚染防止法に抵触する。大阪府警は今年2月、センターへの家宅捜索に踏み切った。
 押収物を調べる中で、海洋投棄とは別の容疑が浮上する。中国からクエを輸入していたことを示す伝票があったが、同社の販売品には「山口天然クエ」などと表示されていたからだ。
 府警は4月、中国などから仕入れたクエ98匹(約250キロ)を国産のように偽装表示し、宮城県内の水産卸業者に約98万7千円で販売したとして、不正競争防止法違反(誤認惹起(じゃっき))の疑いで、同社社長の男(46)らを逮捕した。
 府警によると、同社は平成28年に中国からクエ約7500キロを輸入。府警はこのうち約7千キロを国産と偽って高値で販売していたとみている。社長らは容疑を否認しており、処分保留ですでに釈放された。
年間取引量は10トン足らず
 漁業データを収集、分析する一般社団法人「漁業情報サービスセンター」(東京)などによると、クエはハタ科の魚で、本州中部以南や東シナ海、南シナ海に生息。「アラ」や「モロコ」、「クエマス」など地方によって呼び名も変わる。
 身は淡泊な味わいがあり、冬場の鍋料理に使われる高級食材として高級料亭で提供されている。天然ものは漁獲量が非常に少なく、1キロあたり1万円前後の値がつくことも。近年は養殖技術が向上し、こちらは同4千~5千円前後で取引されている。
 同センターが、クエを扱う主要9市場で行った聞き取り調査によると、28年の取引量は約6・7トンで、1キロあたりの平均価格は4899円だった。年によって量や価格にばらつきがあるものの、おおむね年間約7トン、1キロあたり平均5千円が相場だ。同じく高級魚のトラフグで年間の取引量が200トン弱だから、クエがいかに少ないか分かるだろう。
 クエは近年、メディアで取り上げられる機会も増え、高級魚としてすっかり定着したが、国内全体の漁獲量を示す公的統計はないのだそうだ。
 水産庁によると、理由はその希少性。サケやアジといった漁獲量の多い魚とは違って、クエは「その他の魚」として他の魚種とまとめて計上されるため、「クエ単独での漁獲量は分からない」(同庁担当者)という。クエは統計上も謎多き魚というわけだ。
養殖も高コスト
 近畿大水産研究所(和歌山県白浜町)では昭和50年ごろからクエの養殖に関する研究を開始。昭和63年に初めて産卵に成功し、平成19年ごろから本格的に出荷するようになった。
 養殖とはいえ、3キロほどの成魚に育てるまでには和歌山県沖で6~7年、水温が高い鹿児島県奄美沖でも3~4年ほどの時間がかかり、出荷までには高いコストがかかるという。
 和歌山県内のある養殖業者は「台風や津波、潮の流れ次第で、すぐに育たなくなったりする。養殖といえども一筋縄ではいかない」と話す。
 国産の天然クエに、養殖もの。では中国産の流通はどうなっているのか。
 「中国産のクエなんて聞いたこともない」。全国から鮮魚が集まる東京・築地市場の卸業者に聞くと、こんな反応が返ってきた。「仮に扱ったとしても、イメージはそんなに良くないだろうし…」
「味も見た目も遜色なし」
 そもそも中国でクエは取れるのか。ハタ類は中国近海にも生息しているから、当然クエもいるはずだ。ただ日本と違って爆発的に水揚げされているとか、そういう話は聞かないという。
 海産物の輸出入販売会社「イヨスイ」(愛媛県宇和島市)は10年ほど前から、中国でクエの養殖を行っている。日本で取れたクエを中国近海で養殖し、それを中国の国内向けに出荷している。
 同社の担当者は「味も見た目も、日本の養殖ものと遜色ない」と胸を張る。一方で市場価格は日本の養殖ものの半値ほどだ。
 今回の事件のように「国産」と偽って日本で販売した場合、「輸送費などのコストを差し引いても、もうけはあるのではないか」と推測しつつ、「中国でも養殖技術が進歩する中、食に対する不信感を消費者に与える行為は見過ごせない」と批判した。
 市場価格も安く、味も国産と遜色がないとなれば、堂々と輸入して中国産として販売すればよかったのではないか。イヨスイの担当者は「あまり出回らない魚であるうえに、日本の市場は中国と比べて小さい。大量に輸入しても、さばけるかどうか分からない」と分析した。
 中国にまで目を向けてもやっぱりクエは幻の魚、ということだろうか。