「認知症カフェ」全国へ マクドやスタバでも、患者や家族の受け皿に 

関西の議論

 認知症高齢者やその家族らが交流する「認知症カフェ」が全国に広がっている。少子高齢化が進み、認知症を巡る社会問題が広がる中、厚生労働省は総合戦略で平成30年度から全市町村でのカフェ開設を掲げており、参加した家族からは「気軽に悩みを打ち明けられた」との声があがる。より多くの人に参加してもらおうと、ファストフード店などで開催する動きも出ている一方で、カフェの運営者からは「認知症患者の参加率が低い」との意見も。専門家は「対象を患者に限らず、地域で認知症を考える入り口にするべきだ」と指摘する。(小松大騎)

地域で認知症を支える

 4月中旬、神戸市長田区の介護老人保健施設「サニーヒル」で開かれた認知症カフェには、認知症患者や家族、近隣住民ら約40人が集い、世間話や介護の話題で盛り上がった。施設長の大川二朗医師(80)は「カフェを訪れた認知症患者は表情が明るくなる。患者や家族が困った際に悩みを打ち明けられる場所になれば」と話す。

認知症患者や家族らが交流する介護老人保健施設「サニーヒル」の認知症カフェ=神戸市長田区

 施設では、大川医師が認知症カフェ開設を立案し、今年2月から火、木曜日の週2回のペースで開催。コーヒーや紅茶などを1杯50円で提供するほか、ノンアルコールビール(100円)もある。2年ほど前に認知症を発症した父親(69)と参加したという同区の女性(31)は「和気あいあいとした雰囲気で、気軽に相談しやすくて助かっている」と語る。

 女性が父親の異変に気がついたのは28年夏。父親から「自宅に知らない人間が入り込んでいる」と困惑した様子で電話がかかってきたのがきっかけだった。認知症と診断された後も、日常生活を送る上では問題なかったが、徐々に症状は悪化した。女性の名前を思い出せなくなったり、夜中に「殺される」と叫ぶようになったりしたという。

 そんな中、女性は昨年9月に父親を施設に入所させることを決断。施設にカフェが開設されることを知り自分も通い始めた。当初は「父は自宅で家族と過ごしたかったはず」と悔やんだが、そこで知り合った認知症患者や介護経験者の体験や気持ちを聞くうちに、「自分ができる範囲で介護を頑張ろう」と思うようになった。今では週1回ボランティアとしてカフェに足を運んでおり、「自分と同じような不安を抱えている人は多いはず。少しでも力になれれば」と意気込む。

 一方、カフェを利用するのは入所者が4分の3を占め、外部から認知症の高齢者らが参加することは少ない。運営を担当する脇田英二さん(55)は「『カフェは認知症の人が行く場所』という固定観念がある」とした上で、「格安のコーヒーを飲みに行こうという気分でもいいので、ぜひ立ち寄ってほしい」と話す。

全国4267カ所に普及

 認知症カフェが広がる背景には、厚労省の調査で全国の認知症高齢者が27年時点で約520万人に上り、37年には高齢者5人に1人の約730万人に達すると推計されたことにある。厚労省は27年に認知症の総合戦略「新オレンジプラン」を発表。30年度から全市町村での同カフェ開設を目標に掲げたため、全国で一気に普及が進んだ。

 設置基準が法律などで規定されていないカフェは、行政機関やNPO法人、個人などさまざまな運営主体が自由に開設できる。厚労省によると、28年度末時点で全国4267カ所(前年度末より2014増)で運営されており、初期の認知症患者の発見や支援などで成果が出ている。ただ、資金不足や人材難、参加者数の低迷などから閉鎖に追い込まれるケースも少なくない。

 認知症介護に関する研究を行う「認知症介護研究・研修仙台センター」が昨年3月にまとめた全国の認知症カフェ1477カ所の調査では、77・4%が「認知症の人の参加が少ない」ことを課題に挙げた。また、60・2%が「将来的な継続に不安がある」と回答、47・6%が「地域の理解が得られていない」とした。一方で、参加した認知症患者からは「ありのままの自分を受け入れてもらえた」「治療に前向きになれた」といった意見が出るなど、役割の大きさも判明した。

 調査結果について、同センター研修部長の矢吹知之さん(45)は「運営者自身が認知症カフェ本来の目的を見失っているのではないか」と分析。増加する認知症患者を社会で受け止めるために、本人や家族、近隣の人たちが認知症への理解を深め、話し合える地域のインフラとして機能するはずが、「認知症の人が少ない」と人集めの対象を認知症患者に限定してしまっていると指摘する。

 矢吹さんは「大切なのは子供や若者、認知症の疑いがある高齢者など、さまざまな人が集まってコーヒーを飲みながら認知症について考えることだ。気軽に参加できるカフェだからこそ、地域の意識を変える力になる」と訴える。

マクドやスタバでも…

 さまざまな課題を抱えながら全国で広がりをみせる認知症カフェだが、大手企業と連携し、カフェを通して認知症への理解を広げようとする動きもある。

 埼玉県内で薬局などを展開する「ヴェルペンファルマ」(同県飯能市)は、28年4月から同市内のマクドナルドの店舗で認知症カフェ「ひだまりカフェ」を開いている。毎月2回午後2~4時に店舗の一角で行っており、同社は「マクドナルドは認知度が高くさまざまな人が集まりやすい」と話す。

 また、東京都町田市は29年10月から、米コーヒーチェーン大手のスターバックスの協力を得て、市内8店舗で「Dカフェ」を毎月1回開催。予約の必要はなく「認知症を知る入り口になった」などと好評で、これまでに約500人が参加したという。スターバックスは現在、東京や大阪、岐阜など全国約40カ所で同様の取り組みを展開している。

スターバックスの店舗内で行われている認知症カフェ「Dカフェ」=東京都町田市(スターバックス提供)

 認知症専門医の武地一・藤田保健衛生大教授(老年内科学)は「初期段階で認知症だと分かれば、周囲のサポートや在宅医療につなげることができる。カフェは認知症を支える新たな社会基盤として期待が大きい」と話す。

 一方で、全国で運営されるカフェの8~9割が「認知症予防」に主眼を置き、歌や体操などレクリエーションに力を入れてしまっていると指摘。「予防ではなく、認知症本人や家族などが安心して生活するための相談ができることが大切。各自治体が運営する民間企業などを後押しして、カフェを正しく普及させる施策を考えるべきだ」と強調した。