「京大の文化」が消える タテカンに規制、市の指導受け撤去へ

関西の議論

 意見主張の手段か、景観条例に抵触する「広告物」か-。サークルや部活動を紹介するために学生らが掲げる立て看板、通称「タテカン」をめぐって京都大学が揺れている。「京大の文化」とも言われてきたタテカンだが、大きさや色彩が京都市の景観を守る条例に違反するとして、市が学外に設置されたタテカンについて再三にわたり行政指導を実施。事態を重くみた京大は5月から、設置を学内に限定し、設置期間も制限するなど本格的な規制に乗り出すことになった。学生からは惜しむ声も聞かれるが、学生の街・京都に残る大学らしさの象徴が姿を消す日は近いのか。(小川恵理子)

自由な学風の文化

 京大のシンボル、時計台がある吉田キャンパス(京都市左京区)からほど近い百万遍(ひゃくまんべん)交差点。キャンパス沿いの歩道には、大小のタテカンが乱立する。その数は、同交差点から正門までの歩道上約650メートルに約70枚ある。

 「違反広告物 タテカン撲滅。」

 大学側の規制方針に賛成する団体が設置したのだろうか。ひときわ大きい看板が目を引くが、黒地に赤い文字がおどろおどろしい。規制派ならば、なぜあえてタテカンを設置したのだろうかとの疑問もわく。

百万遍交差点の歩道上に設置されたタテカン=4月2日、京都市左京区

 横のタテカンには、ひげをたくわえた巨大なゴリラと、逃げ惑う人間の姿が描かれ「ゴリラ討伐 大学奪還」の威勢のいい文字が躍る。ちなみに京大の山極寿一(じゅいち)総長はゴリラ研究の第一人者として知られる。

 ほかにも「タテカン規制のおしつけに反対する」と大学側を批判したり、部活やサークルの新入部員を募集したりと内容はさまざま。いずれもキャンパスを囲む石垣に立てかけ、コンクリートブロックやひもで固定しているが、強風で飛ばされそうなものもある。

 タテカンは、学生運動が盛んだった昭和40~50年代に広まったともされるが、正確な時期は不明だ。ただ、京大では「自由の学風」の下、学生らが自分たちの意見を主張する手段として脈々と受け継がれてきた。それに「待った」をかけたのが京都市だった。

景観条例に違反

 京都市は景観保護の観点から市全域を看板やポスターなど「屋外広告物」の規制区域に指定し、広告物の設置には市の許可が必要とする条例を定めている。大きさ(2平方メートル以内)や色なども厳しく規制しているのが特徴だ。

 市は、京大周辺のタテカンについて、商店の看板やポスターなどと同じく、常時あるいは一定期間、継続して野外で公衆に表示される屋外広告物に該当すると判断している。

 条例は平成19年に新たな景観政策の目玉として改正され、市は24年から商店などの違法な看板に対する指導を強化してきた。その一環で京大に対しても、タテカンの大きさやデザインが条例に違反するとして改善を求めて口頭や文書で行政指導を行ってきた。

 市によると、タテカンの多くは設置に必要な市の許可を取っておらず、一部が歩道にはみ出していることから公道占有にあたる可能性があるという。担当者は「固定の仕方が甘いものが強風にあおられて通行人とぶつかる」と危険性を指摘。市民からも「危険だ」「邪魔だ」との苦情が寄せられているという。

百万遍交差点の歩道上に設置されたタテカン=4月2日、京都市左京区

 実際に歩行者がつまずいて転んだりけが人が出たりしたケースもあり、大学側も危険と認めたタテカンは撤去してきた。そして昨年12月、設置を新入生の勧誘や学園祭の時期に限定▽設置場所は敷地内に限る▽大きさは縦横2メートル以内-など20項目にわたる規定を策定。今年5月から導入し、強制撤去を含めて厳しく臨む方針を内外に示した。

様変わりするキャンパス

 一方、京都市内にキャンパスを置く京大以外の大学では、すでに学内規定で取り扱いを決めている。同志社大(上京区)は16年以降、タテカンの設置は学内のみに制限。期間の限定はないが、設置するためには大学への申請が必要だ。京都府立大(左京区)も設置は学内に限定している。

 立命館大(北区)も申請が必要だが28年以降、学内のデジタル看板(高さ約2メートル)に移行し、タテカン自体の廃止を目指している。

 「京大だけが法令違反の状態が続くのは社会的責任の観点から不適切。京都市にある大学として、市の指導などを真摯(しんし)に受け止めた」(京大の担当者)と、他大学に足並みをそろえた格好だ。山極総長は3月末の定例会見で「京大の中の規制が高まっているのではなく、世間の常識が変わり始めている」と説明。「学生の自由な意見を出す場所として、学内にタテカンを立てる場所を用意しようとしている」と述べ、ルールを守って設置するよう理解を求めた。

 一方、学生からはタテカンが学外に設置できなくなることを惜しむ声が聞かれる。音楽サークルに所属する文学部4年の女子学生(21)は「入学したときからタテカン文化が身近にあった」と語る。この学生が所属するサークルもタテカンを設置しており、「今後タテカンが外に出せなくて困ることはないけど、カオス=混沌(こんとん)さ=がなくなるのは悲しい」と表情を曇らせる。

京大吉田キャンパスに隣接する歩道に立てかけられた看板。地面にブロックを置いて固定している=4月2日、京都市左京区

 京大の担当者は「規定に反対する団体もあるが、近隣住民や通行人の安全が第一」とした上で、「規定はタテカンそのものを禁止するのではない。構内の指定場所に要件を満たして設置してほしい」と話した。

京大吉田キャンパスに隣接する歩道に立てられていた看板。これらは撤去された=4月2日、京都市左京区