「萌えキャラ」がローカル線の救世主に グッズ即完売、イベントも盛況

鉄道ファン必見

 沿線の人口減少で利用者の増加が見込めない地方のローカル鉄道。この厳しい現状を打破しようと、これらの鉄道会社の間で、愛らしい女性を題材にした「萌(も)えキャラ」で活路を見いだそうとする動きが広がっている。ローカル鉄道と萌えキャラという異色のコラボレーションだが、この取り組みが奏功し、限定グッズはすぐに完売し、萌えキャラの生誕イベントを開くところもあるという。ローカル線の救世主とも言える萌えキャラの実力とは。   (岡本祐大)

熱を帯びる写真撮影

 神戸市営地下鉄と相互乗り入れする北神急行は、新神戸(同市中央区)-谷上(同市北区)の2駅を、六甲山を貫くトンネルで結ぶ営業距離わずか7・5キロの珍しいローカル線。この谷上駅車庫が4月初旬、全国から男性を中心に約70人が集まり熱気に包まれた。

 これは通常、立ち入ることができない場所で開かれたイベント「北神弓子の誕生祭」。同社のマスコットキャラクター、北神弓子(きたがみ・きゅうこ)の誕生日(同社の営業開始日の4月2日)をお祝いするため各地からファンが駆けつけたのだ。

北神急行電鉄の「北神弓子誕生祭」でグッズを買い求める参加者ら=4月8日、神戸市北区

 平成26(2014)年に生まれた北神弓子は地元の守り神に仕える巫女(みこ)という設定。和装や駅員の格好をするかわいい女性で、いわゆる「萌えキャラ」として注目を集めている。

 28年に続き、2年ぶりに開かれた誕生祭では、彼女が描かれたタオルやパネルなどのグッズを販売。時計などのイベント限定グッズもあり、すぐに完売した。

 「リアル北神弓子」として同社のイベントなどに出演する女性モデルたちも参加。従業員らとのトークショーや、鉄道に詳しいお笑い芸人との漫才などを披露した。

北神急行電鉄の「北神弓子誕生祭」で写真を撮る参加者ら=4月8日、神戸市北区

 やはり、会場の熱気が最高潮となったのは女性モデルの写真撮影会。車両の前に立ってポーズを決めるモデルたちに、ファンたちが「こっち向いて」などと声をかけながら、熱心にシャッターを切っていた。

 大阪府高石市から駆けつけた会社員の男性(42)は「巫女という設定が新鮮で、当初から注目していた。2年前の誕生祭よりも盛り上がっている」と感慨深げ。グッズ販売に並んでいた大津市の会社員男性(51)は「北神弓子で北神急行の存在を知った。魅力的なキャラだと思う」と話していた。

コンテンツとして成長

 なぜ、北神急行の萌えキャラがここまで人気を集めているのか。

 先にも書いたが、区間のほとんどがトンネルのため、ローカル線の魅力ともいえるのどかな田園風景や風光明媚(めいび)な景観などを車窓から楽しむことができない。車両も1種類しかなく、自社で管理する駅も谷上駅のみという「売り出すコンテンツがない」(同社)状況だった。

 鉄道各社が集まるイベントの物販でも、駅名が入ったキーホルダーしか目立つものがなく、売り上げは数万円程度。そうした中、白羽の矢を立てたのが「萌えキャラ」づくりだった。

北神急行電鉄の「リアル北神弓子」にふんする女性モデル=4月8日、神戸市北区

 デザインの公募に集まったアイデアは129件。社員や有識者による審査の結果、「神戸市北区の神に仕える巫女」という設定で北神弓子が生まれた。

 26年10月から各地のイベントでキーホルダーやクリアファイルなどのグッズ販売を開始。半年で約100万円を売り上げた。

 その後はさらに認知が広がり、関連グッズの売り上げは27年度で約180万円、28年度で370万円と順調に伸びている。谷上駅の乗降者数は27年度の約333万人から29年度は約326万人と減少傾向が続くが、北神弓子は少ないながらも経営に貢献。同社のシンボルに成長した。

先駆となった「太秦萌」

 北神急行が「萌えキャラ」の参考にしたのが京都市営地下鉄の「太秦萌(うずまさもえ)」だ。もともとは23年に利用者増を狙って若手職員の発案で誕生した「市内の高校に地下鉄で通う女子生徒」というキャラクターだったが、認知度は伸び悩んでいた。

 そこで25年に地元出身のイラストレーター「賀茂川さん」を起用してデザインを一新。「萌える」とインターネットを中心に話題を集めた。グッズの売れ行きも好調で、昨年5月に太秦天神川駅で開いたイベントで限定カード乗車券を販売したところ、約300人の行列が駅の外まで続く人気ぶりだった。

京都市営地下鉄の人気キャラクター「太秦萌」(中央)らをあしらったポスター

 鉄道がテーマの萌えキャラとしてはこのほか、鉄道模型などを販売する玩具メーカー「トミーテック」(栃木県壬生町)が17年から鉄道各社などとタイアップし、駅員などの制服を着た女性キャラクターのシリーズ「鉄道むすめ」を展開している。大阪府貝塚市の貝塚-水間観音を結ぶ水間鉄道の「水間みつま」や、滋賀県東部を走る近江鉄道の「豊郷あかね」など、これまでに80以上のキャラクターが世に送りだされた。

 今年3月に万博記念公園(大阪府吹田市)で開かれた「万博鉄道まつり2018」では、関西を中心とした8社の鉄道むすめと北神弓子がデザインされた記念硬券(厚紙の切符)のセットが人気を集めた。

 快進撃を続ける北神弓子だが、会社への貢献はグッズ販売だけにとどまらない。地元の神戸市北区にある六條八幡宮でデザインをあしらったお守りを作成したり、同区の公式キャラクターとコラボレーションしたりするなど、地域に根ざした活動も始まっている。

 北神急行の担当者は「会社のシンボルとしてだけでなく、地域に愛されるキャラクターに育ってほしい」と期待を込めている。

北神急行電鉄の「北神弓子誕生祭」で集合写真を撮影する参加者ら=4月8日、神戸市北区