【関西の議論】弁慶も使ったなぎなた、乃木坂46映画を起爆剤に「聖地」PR 兵庫・伊丹 - 産経ニュース

【関西の議論】弁慶も使ったなぎなた、乃木坂46映画を起爆剤に「聖地」PR 兵庫・伊丹

 時代劇の籠城シーンで着物姿の女性が勇ましく手にする武具。そんなイメージのある「なぎなた」で観光客を呼び込もうと、兵庫県伊丹市がPR活動に力を入れている。伊丹は200年以上続く道場があるほか、全日本なぎなた連盟も拠点を置く「なぎなたの聖地」として知られる。昨年には人気アイドルグループのメンバーが出演するなぎなたを題材にした映画や舞台が公開され、好機とみた市がプロモーション強化に乗り出している。(山田太一)
メンバーに話したくて…
 「面!面!」
 「すね!すね!」
 1786(天明6)年開設の修武館(同市)に、なぎなたに励む人の気迫のこもった声が響く。
 全日本なぎなた連盟によると、なぎなたの競技人口は全国で約6万人。そのうち9割が女性で「女性の武術」のイメージが強いが、同館での稽古には男性の姿もある。女性が男性に打ち込めば、男性も負けじと女性に打ち込む。互いが真剣に稽古に取り組んでいる。
修武館で行われた稽古でなぎなたの特徴である「すね」を打ち込む参加者=兵庫県伊丹市
 なぎなたは長さが2メートル以上もあり、間合いを取りながら面や小手、胴を打ち込み一本を狙う。剣道との大きな違いは、打ち込む場所に「すね」がある点だ。
 伊丹市は同館の協力を得て昨夏からなぎなたを利用したPR活動を本格化させている。担当者は「以前からPRの準備を進めてきたが、ある映画の公開が最後の一押しだった」と話す。
 その映画とは昨年9月に公開された、なぎなたを題材にした漫画が原作の「あさひなぐ」だ。漫画は平成23年から連載が続いており、高校のなぎなた部に入った女子高生らの青春を描いている。劇中には同館や伊丹市の体育館も登場。映画版は人気アイドルグループ「乃木坂46」のメンバーが多数出演した。
漫画「あさひなぐ」で描かれている兵庫県伊丹市内の体育館?こざき亜衣/小学館「ビッグコミックスピリッツ」連載中
 市は映画公開前に先行上映会を開催。同11月には作品に登場する技の実演と解説や、未経験者がなぎなたを体験できるイベントを同館で催した。定員は100人だったが、同館事務局長の兵頭重巳さん(64)は「最初はそんなに来るのか半信半疑だった」と振り返る。
 しかし、不安をよそに応募者が殺到。232人の申し込みがあり、市は急遽(きゅうきょ)イベントを2部制にして対応した。市外からの参加者が3割以上で、佐賀県からの参加もあった。
 兵頭さんや市の担当者を驚かせたのは男性参加者の多さだった。全体の約4割を占め、乃木坂46のファンも多かったという。市の担当者は「グループの握手会で、好きなメンバーになぎなたを体験したことを伝えたいとの思いから参加した人もいたようだ」と分析する。
 イベントは大成功に終わり、市はこの結果を受けて今後も市内の商業施設などで同様のイベントを行っていくことを決めた。
公家を守ったなぎなた
 ところで、なぜ伊丹でなぎなたが発展したのか。修武館の歴史からひもといてみたい。
漫画「あさひなぐ」で描かれている修武館?こざき亜衣/小学館「ビッグコミックスピリッツ」連載中
 武士が権力を持っていた江戸時代、同市は公家の近衛家の領地だった。武士がいない領地の治安を守る必要性から近衛家は1697年(元禄10)年、住民自治の先頭に立つ「惣宿老」(そうしゅくろう)という地位を創設した。
 この地位に、酒造が盛んだった伊丹で1612(慶長17)年から清酒業を営んでいた小西家の4代目当主が選ばれた。その後、住民も武術を学ばなければならないと考えた7代目当主、宗脩(むねなが)が近衛家に請願して私設の道場を設立。剣道のほか、なぎなたの指導を始め、これが後の修武館(しゅうぶかん)になった。
 全日本なぎなた連盟の事務局が伊丹市に置かれたのも同館がゆかりだ。昭和30年に連盟を設立したのは当時の小西家当主だった小西静子で、自身も幼いころから同館でなぎなたの稽古を積んだ。
 連盟ができるまでなぎなたは全日本剣道連盟の一部門にすぎなかった。兵頭さんは「なぎなたの普及のためには独立した統括組織が必要と考えたのだろう」と当時の静子の思いを代弁する。
 そんな「なぎなたのまち」としての歴史を歩んできた同市では、平成24年度から市内の全公立中学校の体育の授業で女子のなぎなたが必修となるなど、伝統は脈々と受け継がれている。
漫画「あさひなぐ」で描かれている兵庫県伊丹市で開催されている大会?こざき亜衣/小学館「ビッグコミックスピリッツ」連載中
 「なぎなたの競技人口をさらに増やすためには男性への普及も目指さなければならない」と兵頭さんは考える。兵頭さんによると、かつて武蔵坊弁慶が使用したように、なぎなたは本来は男性が戦場で使用する武具だったが、鉄砲や弓矢などの登場で女性の護身用として使用されるようになったという。同館では28年から毎年、男性だけの稽古会を開くなど普及活動に力を入れている。
次は外国人取り込みを
 映画の力もあり、なぎなたで盛り上がる伊丹市だが、今後は外国人観光客を呼び込むコンテンツとしても育てていく考えだ。
 市はなぎなたのほか、剣道や茶道など日本文化が体験できるプログラムを旅行業者と協力して作成し、今年1月からインターネットサイトなどで販売を始めている。市によると、これまで4件の注文があったが、修武館で体験できるなぎなたのプログラムの注文はまだ入っていないという。
 それでも、市は外国人旅行者がプログラムを楽しむ動画を2月から動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開し、そこになぎなた体験を行う様子も盛り込んでいる。担当者は「修武館の近くには鉄道駅やホテルがあり、観光客を呼び込みやすい。大阪を訪問した外国人観光客を伊丹にも呼び込めれば」と力を込める。
修武館で行われているなぎなたの稽古。女性を相手に稽古に励む男性の姿もあった=兵庫県伊丹市
 観光振興に詳しい同志社女子大現代社会学部の大津正和教授は、伊丹市が今後取り組むべき課題として「『忍者といえば伊賀・甲賀』というように、『なぎなたといえば伊丹』となるよう広報活動に力を入れるべきだ」と指摘。そのうえで、「忍者と比べて外国人の知名度が高くないなぎなたでも魅力を感じる人は必ずいる。ネットを通じて広めていくためにも、SNS(会員制交流サイト)で影響力のある人にプログラムを体験してもらうなど地道な活動が必要だ」と強調した。