【関西の議論】土俵は女人禁制、緊急時も思わず伝統重視…相撲協会が問われる社会とずれた教条主義 - 産経ニュース

【関西の議論】土俵は女人禁制、緊急時も思わず伝統重視…相撲協会が問われる社会とずれた教条主義

ツイッターに投稿された、京都府舞鶴市での大相撲春巡業で多々見良三市長が倒れた際の映像(観客提供)
動画投稿サイト「ユーチューブ」に投稿された、京都府舞鶴市の大相撲春巡業で多々見良三市長が倒れた際、土俵に上がる女性(手前)の映像
 京都府舞鶴市で開催された大相撲春巡業で、あいさつ中の多々見良三市長(67)がくも膜下出血で倒れた際、救命措置のため土俵に上がった女性に対し、日本相撲協会が土俵を下りるようアナウンスしたことで批判が起きた。人命よりも土俵の「女人禁制」という伝統を重視したような対応に非難が集中した。海外メディアを中心に「女人禁制」が女性差別との声も出た。何が起こり、何が問題になったのか。改めて検証した。
(永山裕司)
その時、土俵は
 関係者の証言や公開された映像などによると、問題が発生したのは4月4日午後2時5分ごろ。舞鶴文化公園体育館で行われた市制施行75周年記念の「平成30年春巡業 大相撲舞鶴場所」で、多々見市長が土俵であいさつ中に突然、言葉を失ってあおむけに倒れた。
 相撲協会関係者ら男性数人が土俵に上がったが、事態に対処できず、多々見市長を囲んでいるだけの状態が続いた。市長が倒れた約20秒後、女性1人が向こう正面の客席付近から土俵に駆け上がった。地元関係者らでつくる巡業の実行委員会や市の関係者によると、女性は土俵に上がる際には「上がっていいですか」と声をかけ、「看護師です。心マ(心臓マッサージ)ができます」と話したという。
 女性は市長の右側から心臓マッサージを始めた。この直後、もう1人、マスクをした女性が土俵に上がり、市長の左側に座り込んで処置を手伝った。最初の女性が上がって約30秒後、さらに女性2人が正面側から手助けのために土俵に上がった。
 この段階で問題のアナウンスがあり、「女性の方は土俵を下りてください」と3回繰り返された。後から上がった女性らは戸惑った様子で土俵を下り、2番目に上がった女性は処置を続けたが、その後は舞鶴署員と交代。会場にいた市消防隊員らがAED(自動体外式除細動器)を持って駆けつけ、市長は病院に運ばれた。市長は手術を受けたが、命に別条はなかった。
 関係者の証言では、アナウンス以外にも相撲協会の協会員が、女性らに「下りなさい」などと声を掛けて土俵の外を手ぶりで示して指示。女性の1人は市関係者に「人命救助をしているのに、なぜ、そういうことを言うのか」との趣旨の発言をした。
 また、実行委員会によると、女性の1人は、医師でもある多々見市長がかつて病院長を務めた病院の現役の看護師で「知人の市長が倒れて、いたたまれず、とっさに土俵に上がった」と話したが、名前などの公表は断っているという。
最大の問題は
 今回のアナウンスは「女人禁制」を守ってきた伝統に固執するあまり、人命軽視とも受け取られかねないものだった。
 巡業の実行委員会の河田友宏委員長(78)は「初期治療を行った女性は勇気があり、適切な処置だった。アナウンスはわざわざすることではないと思う。人命に関わることで理解しがたい」といい、巡業の勧進元(発起人)を務めた四方八洲男さん(78)は「人命が大事か、しきたりが大事かというと、人命が重い」と話した。
 批判が巻き起こったことで、相撲協会の八角理事長(元横綱北勝海)は不適切であったことを認め謝罪。尾車事業部長(元大関琴風)は「場内放送をした若手行司は慌てていて、とっさに言ってしまったようだが、言い訳はきかない。どんな時も人命が第一」などと釈明した。
事態を顧みない対応
 相撲協会の資料には「土俵は神聖なる場所であるため」と、女性が土俵に上がれない理由を記している。各協会員は徹底的にこの慣例が教え込まれており、今回の場合も事態を顧みず、反射的にアナウンスをし、他の協会員もそれに習ったとみられる。
 最大の問題は、こうした点にあるのではないか。相撲協会が教条主義に陥り、相撲界の常識に縛られ、社会の現実に対応できていないことだ。
 市の関係者は「本来は『会場にお医者さま、医療関係者はいませんか』などの放送こそが必要だったと思う」と振り返った。
 女性らが土俵から下りた後、土俵に大量の塩がまかれたことも批判を呼んだ。相撲協会関係者は後日、「塩をまいたのは、骨折や大きなけががあった際の通例で、女性が土俵に上がったこととは関係はない」と説明したが、現場でアナウンスなどの説明がなく、観客らの反感をかった。
 また、巡業の責任者である春日野巡業部長(元関脇栃乃和歌)は当初、現場に居合わせなかったと説明。しかし、インターネットに同部長とみられる人物が会場奥で見守る画像が掲載され、3日後に巡業先の愛知県刈谷市で自身であることを認めた。
 同部長は「幕内の取組を見に行く準備をしたときで心配していた。市長が担架で運ばれた後は玄関まで一緒に行った」と発言を修正し、尾車事業部長は「言葉が足りなかったということだと思う」との見解を示した。
 これも緊急事態にあって誤解を招く対応だろう。元力士だけで運営される相撲協会と、社会一般の常識にずれがみられるという一例だ。
女人禁制について議論再燃
 この問題で再び議論されたのが、土俵の女人禁制だった。女性の「土俵入り」をめぐっては、平成12(2000)年2月に大阪府知事に就任した太田房江氏(現参院議員)が、府内で開かれた春場所千秋楽の土俵上で優勝力士に府知事賞を手渡したい意向を示したが、女性であることを理由に協会側に断られ、断念した例がある。
 今回のケースについて、尾車事業部長は「当たり前だが、人命より大事なものはこの世にない。女性が土俵に上がれないというのは次元が違う」と、過去の事例とは論点が異なるとの見解を示した。
 また米主要メディアは、男性のみで演じる歌舞伎なども例に日本の伝統文化で女性が不公平に扱われているとして女性差別と結びつける論調で報じたが、これも本質とはかけ離れた批判だろう。ただし、「伝統だから」で済ませていては問題の解決にはならない。
 スポーツ文化評論家の玉木正之氏は産経新聞のこれまでの取材に、「伝統が本当に正しいか、時代に合っているかを考える必要がある。そもそも、相撲関係者がどれだけ伝統の意味を理解しているのか疑問で、おそらく教条主義的に『女性は土俵に上がってはいけない』としているのではないか」と指摘している。
 相撲協会が伝統を重んじるのならば、「しきたり」の一言で片付けるのではなく、伝統を守る意義の説明、多くの人が納得できるよう理論の裏付けが必要で、その上で状況に応じた柔軟な対応も求められている。