海軍の魚雷発射試験場、佐世保軍港の遺構と人気アニメの意外な接点(上)

銀幕裏の声
この突堤の先端から海へ向かって魚雷は発射された

 かつて日本海軍の拠点があった長崎県佐世保市の軍事施設跡をめぐる取材ツアーに参加した。鎮守府が置かれた佐世保、横須賀、呉、舞鶴の4軍港都市は平成28年、「日本近代化の躍動を体感できるまち」として日本遺産に指定された。呉海軍工廠は、アニメ「この世界の片隅に」(28年)の舞台となったことでも知られるが、佐世保海軍工廠で製造された魚雷の発射試験が行われた施設が、あるアニメのワンシーンに登場する。それは意外にもSFファンタジー「バケモノの子」(27年)。主人公の少年が格闘技訓練を行う“修業の場”として使われているのだ。佐世保市に隣接する川棚町の魚雷発射試験場跡の遺構は、戦時中から時計の針が止まったような、まさにアニメで描かれた時空を超えた不思議な“異次元空間”だった。(戸津井康之)

新型魚雷の発射試験場

 「佐世保海軍工廠や旧三菱長崎兵器製作所などで製造された魚雷が、この試験場へ運ばれ、発射試験で合格した魚雷が佐世保鎮守府へ送られていたのです」

 こう説明するのは、同町の戦史などを研究、語り継ぐ活動をしているグループ「川棚史談会」のメンバー、古川恵美さん。取材ツアー中、ボランティアとして遺構を案内してくれた。

 同工廠では佐世保軍港内に魚雷発射試験場を持っていたが、射程圏が数キロの短い魚雷にしか対応できず、その後、新型魚雷の射程圏が10キロ以上に伸びたため、その実験に対応できる試験場が求められた。新たな候補地として選ばれたのが、大村湾に面し、波が静かな川棚町の海岸だった。大正8(1919)年頃、新しい発射試験場は完成した。

古びた姿そのままで…

 内海を小さな漁船が行き交い、護岸には釣り人の姿が見える。穏やかな波が打ち寄せる大村湾の静かなこの浜辺に、本当に日本海軍の魚雷発射試験場があったのだろうか?

 海岸の駐車場で車から降り、そこから見えた光景は、そう疑うほどのどかだった。

 古川さんの案内で浜辺に向かって歩いていくと、コンクリート製の長いL字形の突堤が見えてきた。L字の長い部分にあたる突堤の表面には、重い魚雷を積んで運搬した台車の2本のレール跡がうっすらと残っている。L字の長い部分を先まで歩いていき、左へ90度折れ曲がり、L字の短い部分の突堤を進むと、海に突き出した行き止まりの先端部分に魚雷をセットする発射台があった。

 その近くには台車から魚雷を吊(つ)り上げ、発射台にセットするためのクレーンが設置されていた深い穴が残っている。

 長い時間、波に削られ、風化し、突堤の至る箇所が陥没したり、ひび割れしたりしているが、「町では修復したり、手を加えることはせず、このまま昔の状態で保存していく計画です」と古川さんは説明する。

幻想的な遺構

 魚雷発射台からL字の突堤を浜辺へと引き返し、直進して奥へ進むと、レンガやコンクリートで築かれた塀で囲まれた建物跡に行き当たる。屋根は落ち、入り口のドアや窓があった部分はぽっかりと穴が開いたままだ。入り口の穴から中へ入っていくと、タイル張りだった跡が残る床の基礎部分が奥まで続いている。

 塀にはこけなどが生え、廃虚のようになっているが、当時は頑丈な建物だったことがうかがえる。床の割れ目の所々から木や草花が生え、太い幹となって天にそびえ立つ立派な木の姿も見える。

 「この浜辺一帯に魚雷発射の準備のための調整場など複数の建物があったことが分かり、当時の資料によると、この建物跡は『空気圧縮ポンプ室』と呼ばれていた施設のようです」と古川さんが当時の配置図を見せてくれた。

 午後の明るい日差しが、屋根も窓もない塀の内側へと差し込み、タイルの床跡から天に向かって育つ木や草花へと降り注ぐ。“廃虚と自然”が織りなすコントラストは幻想的で、そこに立っていると時間が止まったかのように感じられた。

=つづく