【衝撃事件の核心】将棋ブームに水差す偽装強盗事件、高級駒5千万円被害主張もあっけなく“即詰み” - 産経ニュース

【衝撃事件の核心】将棋ブームに水差す偽装強盗事件、高級駒5千万円被害主張もあっけなく“即詰み”

「将棋博物館 二歩」が入るビルに向かう捜査員=1月11日、大阪府八尾市
 藤井聡太六段の快進撃もあって、空前の人気に沸く将棋界。子供向けの教室は活況を呈し、グッズや漫画も話題だ。ただここだけは、その恩恵にあずかれなかったらしい。「娘のように大切にしていた駒。悲しい」。今年1月、大阪府八尾市の将棋用品販売店に強盗が押し入り、貴重な駒など5千万円以上が奪われた-と一報があった。経営者は報道陣の取材に「いい駒ばかりを狙われた」と落胆してみせたが、その2カ月後、強盗を偽装して保険金をだまし取ろうとしたとして詐欺未遂容疑で逮捕された。実は、派手に荒らされ駒が散乱した現場の様子に、捜査員は当初から疑問を抱いていたという。「駒はそろってこそ、価値があるはずなのに…」。ブームに水を差す事件の顛末(てんまつ)-。
「歴史的価値がある」
 「盗まれた駒は平均しても160万~170万円はするだろう。袋のようなものに駒を入れて持って行ったようだ」
 1月11日午後、大阪府八尾市の「将棋博物館 二歩(にふ)」の店舗前。強盗被害に遭ったという経営者の男A(58)は記者の質問に応じていた。
 「一番高いのは明治時代の駒師、牛谷露滴(うしや・ろてき)の作品。東京まで何度も行って540万円で譲ってもらった。これは駒として価値があるというより、史料として価値がある」
 事件直後にしては少し冗舌な気はした。
 「他にも豊島龍山、金井静山、宮松影水…」。聞いたことのない固有名詞が次々と飛び出す。記者の無知に対し、Aは「(ネットで)検索してもらったら、いくらでも出てきますよ」と言った。そして「従業員にけががなかったのが何より。白昼に大胆で計画的な犯行だ。正直ガクッときている」と話し、取材対応を締めくくった。
 一口に将棋駒といってもプラスチック製の安価なものから、プロ棋士によるタイトル戦で使われる高級なものまで、ピンからキリまである。
 日本将棋連盟関西本部によると、彫り方と漆の書き込み方により駒は、書き▽彫り▽彫り埋め▽盛り上げ-の4つに分けられる。
 最高級の盛り上げ駒は価格帯が数十万円のものが一般的。名匠による作品であれば、数百万円単位で取引されることも珍しくないという。
 今回の将棋博物館は高級な駒を取りそろえていることで知られ、テレビ番組で取り上げられたこともあった。
緊縛強盗!?
 直接の被害に遭ったのは従業員の女B(37)とされていた。Bが大阪府警の聴取に語った被害状況を以下に再現してみる。
 《1月11日朝、普段通り出勤したBは、店舗が入るビルのオートロックを解除した。そのとき見慣れない男が、後に続いてビル内に入ってきた。Bが将棋博物館の鍵を開けると、男はいきなり「出ていけ」と口走った。
 Bは言われるがままに外へ出た。いったん近くのコンビニに向かい、そこでたばこを吸った。
 「(男は)もういないだろう」
 再びビルへ入ろうとしたところ、男がどこからか、また現れた。今度は羽交い締めにされ、後ろ手に粘着テープで縛られた。
 Bはさらに店内でいすに縛り付けられた。その間、犯人の男はショーケースのガラスを割り、陳列していた駒を次々と奪って逃走した。
 Bはその後、自力でテープを剥がし、経営者のA(58)へ連絡。Aを通じて110番した》
不審点多数、あえなく…
 Bの状況説明は、素人目にもおかしな点が多い。犯人に「出ていけ」と脅されながら、すぐに通報せずコンビニで一服。犯人はBを出ていかせている間に盗みを済ますどころか、わざわざ戻って来るのを待ち、そのうえで緊縛…。
 府警も強盗事件として捜査を始めたものの、当初から偽装の線を疑っていた。
 捜査関係者によると、店内には大量の駒が散乱していた。駒を奪おうという犯人がその価値を知らないはずがなく、その上で犯行に及んだとすれば、こうはならないというのが捜査側の見立てだった。
 「駒がばらばらの状態で床に落ちていた。それが不自然」と捜査関係者。そして奪われたという駒は、その後も市場に出回ることはなかった。
 捜査が進むにつれ、Aの周辺でいくつもの不審点が浮かび上がってきた。
 Aは事件翌日に保険会社へ被害を申告。同社から調査を依頼された鑑定事務所に対して、総額5200万円に上る被害リストを提出したが、その中にはすでに販売済みのものも含まれていたという。
 携帯電話の通話履歴からは、事件前にAやBらが連絡を取り合っていたことも判明。Aが事件後の2月に自己破産していたことも分かった。
 実はAは事業に行き詰まり、関連会社の社員も解雇せざるを得ないような状況に追い込まれていたのだ。
 府警捜査1課は3月、詐欺未遂容疑でA、B、強盗役として被害を偽装した男C(26)、車を用意した男D(30)、見張り役の男E(26)の5人を逮捕した。
 府警によると、保険会社に請求された被害はほとんどが水増し分。実行役が実際に持って行った駒の価格を見積もったところ数百万円に過ぎなかったという。価値ある駒は、すでにほとんどが売り払われていたようだ。
 将棋の禁じ手である「二歩」。店名の由来は定かでないが、事件の後ではしゃれがきき過ぎている。