3億円詐欺で共犯に問われた住職と檀家総代が法廷バトル…「信じたのが間違い」VS「利用された」

衝撃事件の核心
事件の舞台となった松山市の黄檗宗の寺院「安城寺」

 寺の住職と檀家(だんか)総代。二人三脚で数億円を集金したとされる男2人は、公判では手のひらを返すように真っ向から対立している。黄檗(おうばく)宗寺院「安城寺」(松山市)の土地・建物を担保に1億5千万円の融資を受けた不動産会社に損害を与えたなどとして、背任や詐欺罪などに問われた住職、片井徳久(57)と檀家総代の宇都宮貞史(42)両被告の裁判。2人はそれぞれ「宗教家であることを宇都宮被告に利用された」「住職(片井被告)を信じたのが間違いだった」と主張している。寺を舞台にした巨額詐欺事件の真相は何だったのか。審理は佳境を迎えている。

宗教団体次期教祖を名乗り集金?

 2人が起訴された主な罪は次の2つだ。

 《安城寺の建て替え資金名目で大阪市の不動産会社から寺の土地・建物を担保に1億5千万円の融資を受け、借入金を支払うことができなければ土地・建物の移転登記を同社が行うのに協力する任務を負っていたのに、平成26年、土地・建物は別の寺に寄付したと偽り、同社の所有権移転登記を妨害して損害を与えたとされる背任罪》

 《黄檗宗大本山「萬福寺」(京都府宇治市)で関連施設の建て替え計画などがあるとして、25年に石川県内の建築会社から3億円をだまし取ったとされる詐欺罪》

 関係者や公判証言などによると、片井被告は、日本仏教会や愛媛県仏教会などの要職についたこともある。一方、宇都宮被告も会社経営の傍ら歌手としても活動し、ラジオのレギュラー番組を持っていた。2人とも地元・松山では知られた存在だった。

 事件では、片井被告が大阪府東南部の著名宗教団体の次期教祖を名乗り、就任すれば教団関係の仕事を仲介するなどと持ちかけ、関係者の信頼を得ていたという。宇都宮被告は契約書の作成など交渉の実務を担っていたとされ、2人が役割分担していた様子がうかがえる。

「住職にお布施数億円渡す」

 「片井被告の遊興費や宇都宮被告が経営する会社の借金の返済のため、金を工面しようと考えた」

 検察側は冒頭陳述などで、2人が共謀し巨額の金を手に入れていたと事件の構図を描く。だが、裁判は意外な展開を見せた。

 「住職のことを信じていたけど、間違いだった」

 宇都宮被告は被告人質問でこう答えた。10年以上“コンビ”を組んでいた片井被告との決別宣言だった。

 宇都宮被告によると、2人が知り合ったのは平成7年12月ごろ。「母が肺がんになり、祈祷(きとう)してもらえるところを探し、有名だった住職にお願いした」

 母親の病状が回復したことや片井被告の助言で始めた会社が成功したこともあり、宇都宮被告は片井被告に傾倒していく。自身の収入のみならず、経営する会社の利益を「お布施」として片井被告に渡し続け、総額は「数億円になると思う」と証言。ついには僧籍まで取得した。

 宇都宮被告の妻は法廷で2人の関係性をこう述べている。

 「おかしなぐらい安城寺さん(片井被告)に従順でコントロールされているように見えた」

「私は下々の人間がすることはしない」

 そこまで心酔していたが、事件発覚後に目が覚めたのか、宇都宮被告は片井被告の“犯行”を語り始めた。

 法廷では、背任事件について、1億5千万円の借り入れは片井被告が計画したものと証言。詐欺事件では宇都宮被告の会社の口座に2億円が入金されていたが、「片井被告の口座に入金すれば足が付くからと言われた」と述べた。

 片井被告からは「私はこういう下々の人間がすることはしない。判子はお前がつきなさい」といわれたといい、契約書の作成など交渉の実務は宇都宮被告が担っていたという。

 一方の片井被告。自身の被告人質問で、背任罪について「懇意にしていた住職が納骨堂で成功したので、同じことがしたいと思った」と述べ、遊興費目的とされる動機を否定。宇都宮被告から安城寺の建て替え計画の取りまとめをしたいとの提案があったとし、交渉の場には立ったことは認めたものの「(宇都宮被告から)住職には関係のない話と言われていたので、聞き流していた」ため詳細は知らず、背任罪には当たらないと主張した。

 さらに、萬福寺の関連施設の建て替え計画をめぐる詐欺罪も「宇都宮被告が契約書を持ってきた。署名・押印は宇都宮被告がやると言っていた」などと述べ、無罪を主張した。

最後のやり取りは「金の無心」

 片井被告の弁護人は、今回の事件を「宇都宮被告が宗教家としての片井氏を利用した」と主張。一方の宇都宮被告は、被告人質問で弁護人から「片井被告が首謀者か」と問われ、「そうです」と言い切った。

 迎えた片井被告の論告求刑公判。検察側は「(両事件で)資金提供者を探させたほか、契約手続きや資金の受領や登記の妨害手続きなど、犯行の実行部分をことごとく宇都宮被告に行わせた」と指摘し、片井被告が主犯だと位置づけた。

 その上で、「自己の関与を発覚しにくい態様を取りつつ、終始主導して一連の犯行に及んだ。役割は宇都宮被告と比較して重大で、関与の仕方は狡猾(こうかつ)かつ卑劣」と指弾。懲役7年6月を求刑した。

 片井被告は最終意見陳述で「僧侶として、宗教家として、人をだますようなことは一切していない」と改めて無罪を主張した。

 かつては蜜月関係にありながら、法廷では角を突き合わせる2人。宇都宮被告の弁護人によると、2人の最後のやり取りは、先に逮捕された宇都宮被告に届けられた、片井被告の「寺の職員の給料支払いのための金の無心」のメッセージだったという。