原発避難者訴訟“京都基準”は根付くか 個別事情を判断、救済対象広く

関西の議論
京都地裁判決を受けて記者会見する原告側の女性ら=3月15日、京都市中京区 

 東京電力福島第1原発事故をめぐる訴訟で“画期的”な判断が出された。京都へ避難してきた原告たちへの損害賠償の支払いを国と東電に命じた3月15日の京都地裁判決。避難指示に基づくものでない「自主避難」の相当性の判断に独自の基準を示し、原告個々の状況を検討。東電が賠償対象とした区域外に住んでいた人たちの請求も認めた。これで全国で約30ある同様の集団訴訟は、判決が言い渡された7例のすべてで東電の責任が認められ、国の責任も4例で認められた。だが、こうした“京都基準”が今後の主流となるかどうかは不透明。さらに原告らは、それでもなお賠償責任を負う対象に“線引き”がなされているとしており、「全員勝訴を目指す」「まだ戦う」と控訴に踏み切った。(宇山友明)

関東からの避難も相当

 「(避難指示によらない)避難でも、個々人の属性や置かれた状況によっては各自がリスクを考慮した上で避難を決断したとしても、社会通念上相当な場合がある」

 3月の京都地裁判決は避難の相当性について、避難指示によるものは事故との因果関係が当然認められるとした上で、自主避難でも相当性が認められうることを明言した。

 そして、7つの「個別、具体的な事情」などを考慮して避難の相当性を判断するという独自の基準を示した。以下がその7項目だ。

 (1)福島第1原発からの距離

 (2)避難指示区域との近接性

 (3)政府や自治体が公表した放射線量の情報

 (4)自治体で自主的避難者が多いか少ないかなどの状況

 (5)避難した時期

 (6)自主的避難等対象区域との近接性

 (7)子供や放射線の影響を特に懸念しなければならない家族がいるかどうか

 京都地裁判決は、この基準などをもとに原告174人を個別に検討。149人に避難の相当性を認めた、このうち東電がすでに支払った額を差し引いた結果、最終的に110人の請求が認められた。

 一方、京都訴訟の原告のほとんどは避難指示区域外の福島など5県からの自主避難者だったが、このうち賠償対象の区域外に住んでいた21人の請求が認められた。

 原告側弁護団は、原告らを広く救済する“京都基準”による判断について、「個別の事情を考慮する認定基準を立ててくれた」と評価。大阪市立大大学院の除本理史(よけもと・まさふみ)教授(環境政策論)も「大半の原告の避難の相当性を認め、賠償対象の区域外に住んでいた人にも賠償を命じた。積極的に評価できる」と話す。

「長期評価」を重視

 一方、最大の争点だった「国の責任」を認定するにあたって判決は、政府の機関が平成14年7月に地震防災のために公表した見解「長期評価」を重視した。

 長期評価は太平洋の三陸沖北部から房総沖の海溝でマグニチュード8クラスの津波地震が30年以内に20%程度の確率で発生すると推定している。この点、国と東電は訴訟で「長期評価は確立した科学的知見ではなかった」などと主張してきた。

 しかし判決は「国の専門機関が地震防災のために公表した見解。検討にも値しないということはできない」と指摘。国と東電について、長期評価に基づいて津波の規模の試算を行っていれば「14年末ごろまでには福島第1原発付近で、敷地の高さから10メートルを超える津波の到来を予見できた」と認定した。

 その結果、国は「東電に対して遅くとも18年末には安全対策を講じるように求める規制権限を行使すべき」で、そうしていれば事故を回避できた可能性が高いと指摘。東電に津波への対応を命じなかったのは著しく合理性に欠き「職務上の法的義務に反して違法」と結論づけた。

 京都訴訟以外の6例の判決でも長期評価は重視されており、今後の訴訟でも踏襲される可能性は高いとみられる。

「全員勝訴を」控訴

 国の責任を認め、独自の基準を提示して救済範囲を広げた京都地裁判決。だが、原告らは「手放しでは喜べない」とする。原告174人のうち64人の請求は棄却されたからだ。

 原告側代理人によると、判決では自主避難してきた子供たちの多くが請求を棄却された。避難指示区域外から避難した子供たちには、国の中間指針に基づき東電が1人当たり40万円の賠償金をすでに支払っており、地裁は賠償の上乗せが必要ないと判断したのだ。

 また、福島第1原発から距離が離れていたり、空間線量が低かったりしたと判断された仙台市や茨城県つくば市からの避難者にも賠償が認められなかった。

 ある原告女性(52)は、自身は判決で約217万円の賠償を認められたが、一緒に避難してきた長女(30)、次女(24)、次男(22)は請求を棄却された。

 特に長女は避難の相当性も認められなかった。事故時に住んでいた福島県会津若松市が福島第1原発から約99キロ離れていることや、事故直後の空間線量が特段高いと認められる証拠がないことが理由とされた。女性は「子供を含め、全ての原告の避難の正当性を認めてほしかった」と訴える。

 原告団は3月末、判決を不服として控訴した。