ブームの影で増加「保護猫カフェ」の厳しい実情…医療費・エサ代 動物愛護はお金がかかる

関西の議論
保護猫カフェでは、新たな飼い主を待つ猫たちと触れ合って相性を確かめることができる=奈良県生駒市

 世間が猫ブームに沸き立つ影で、「保護猫カフェ」が少しずつ数を増やしている。その名の通り、飼いきれずに捨てられたり、ケガをしていたりという事情で保護された猫たちがいる猫カフェで、多くが新たな飼い主への譲渡を目的としている。猫好きに癒やしを与え、殺処分減少にもつながると期待される半面、利益を出すのが難しく、保護猫を人に慣れされるまでの手間や病院代などのコストが想像以上にかかることも珍しくない。動物愛護と経営のはざまで奮闘する保護猫カフェを取材した。(桑島浩任)

労力もお金も…

 平成27年10月に奈良県生駒市にオープンした里親募集型保護猫カフェ「ディアキャット」では、多いときには30匹を超える猫を保護している。きれいに掃除された店内は手作りの遊具などが並び、リラックスした猫たちと触れあえる癒やしの空間になっている。

 代表の澤江奈緒子さん(31)が家族の手を借りながら、ほぼ一人で切り盛りしており、定休日は毎週金曜のみ。平日の午前中は買い出しや動物病院の受診などで忙しく、要保護の猫がいれば現場へ駆けつけることも。

 店では猫たちの状態のチェック、掃除、年齢や体調に合わせたエサやりを1時間半~3時間かけてこなす。開店後も新たな猫の保護や引き取り相談の電話対応のほか、店の猫のけんかを仲裁したりと仕事は尽きない。「24時間、猫のための生活。それを負担に思うなら、保護猫カフェは難しいかもしれない」と澤江さんは話す。

 金銭面はさらにシビアだ。賃料はどんなに安くても10~20万円。エサや消耗品などの費用に加え、室温を一定に保つための電気代などが固定費としてかかる。さらに猫を保護すればするほど医療費がかさむ。

 ノミ・ダニの駆除や寄生虫・感染症の検査、ワクチンの接種…。去勢・避妊手術が必要な月齢だと1匹あたり3~5万円かかり、病気やケガがあれば10万円を超えることも。昨年保護した猫は約100匹で、医療費だけで数百万円かかった計算になる。

 当然、猫カフェの収入だけではやっていけず、新たな飼い主が見つかったときにもらう譲渡費用やエサ・消耗品などの寄付、預かりボランティアの協力が頼みの綱だ。澤江さんは「余裕がなくて保護の依頼を断るのはつらいが、限界を超えて引き受けてしまえば、猫を不幸にしてしまう」と苦しい胸の内を明かす。

必要なのはビジネス視点

 「保護猫カフェは、猫の保護・譲渡活動としてだけでなく、ビジネスの視点を持つべきだ」と話すのは、NPO法人「東京キャットガーディアン」の山本葉子代表(57)だ。

 同団体は20年から保護猫カフェや猫グッズのショップを兼ねたシェルター(保護施設)などを運営し、これまでに譲渡した保護猫は6千匹以上。猫の不妊去勢手術専門の動物病院の経営や、保護猫を借りて暮らせる猫付きマンション、猫付きシェアハウスなど猫の居場所を作る取り組みも積極的に行っている。

 東京で月1回、保護猫カフェの運営について学べる「猫カフェスクール」も実施。参加者は毎回10人以上、多いときには50人もの開業希望者が都内だけでなく、北海道などの遠方からも訪れるという。喜ばしいことかと思いきや、山本代表は「やめるよう説得することの方が多い」と話す。

 すでに書いた通り、保護猫カフェの経営は厳しい。小規模でも人件費を考慮すると、月100万円は経費がかかり、客単価は1000~1500円程度で回転率は悪い。営利目的の猫カフェですら、すぐに潰れるのが現実といい、「独立ビジネスで成功できる人でないと難しい。愛情だけではやっていけない」(山本代表)という。

 問題は金銭面だけではない。猫パルボウィルス(猫汎(はん)白血球減少症)という感染症はワクチン未接種の場合、高確率で感染し、一説には子猫だと致死率が90%に上るという危険な病気だ。保護猫がパルボなどの危険な感染症や寄生虫を持っていることも少なくなく、管理には細心の注意が必要になる。

 また、人に慣れさせ、しつけをするのに数カ月かかることも。そのためのノウハウを得るのも簡単ではない。

猫の保護活動に潜む崩壊リスク

 猫の生態に詳しい帝京科学大学の加隈(かくま)良枝准教授(動物福祉・行動学)は「猫の指導や訓練をできる人が、日本にはごく少数しかいない」と話す。獣医でも猫の行動学を学んでいる人は少なく、各保護団体が経験則などによる独自の方法論で対処しているのが現状。その結果、「感染症などへの知識や飼育のノウハウに格差が生じている」という。

 環境省によると、28年度の猫の殺処分数は4万5574匹で、5年前の約3分の1。背景には飼い主からの引き取り件数が減ったことに加え、愛護団体による引き受けの増加があると考えられるが、加隈准教授は「無理をして引き受けている団体が少なくない。キャパシティを超えると管理が行き届かず、多頭飼育崩壊(多数の動物を無秩序な飼い方で過剰繁殖させ、飼育できなくなること)が起きる」と懸念する。知識やノウハウの格差と限界を超えた猫の引き受けが、潜在的なリスクとなっているのだ。

 問題を解決するには一般への譲渡を増やすことが重要だ。だが、行政が運営する動物愛護センターなどは、中心市街地から離れたアクセスの悪い場所にあることが多く、譲渡会も月に1度など限られた範囲でしか開催されていない。そこで「街中にあり、引き取りを待つ猫にいつでも会える保護猫カフェが重要な役割を果たす可能性はある」(加隈准教授)という。

 殺処分ゼロの道のりはそう簡単ではない。保護猫カフェのような民間の「施設」が経営や飼育ノウハウなどの課題を乗り越えて営業を続けることが期待されている。