【軍事ワールド】21世紀のいま求められる「戦艦」とは… 「カギは残存性」 過去の遺物が最新鋭に - 産経ニュース

【軍事ワールド】21世紀のいま求められる「戦艦」とは… 「カギは残存性」 過去の遺物が最新鋭に

海上自衛隊のイージス艦「みょうこう」。砲は艦前方の127ミリ速射砲1門で、46センチ砲9門を搭載した第二次大戦時の大和や武蔵とは全く性格を異にする(2002年、岡田敏彦撮影)
昭和16年12月、公試運転中の「大和」=季刊「丸」(潮書房)
過去の「戦艦」の巨砲に変わる役割を果たすのが、イージス艦のVLS(垂直ミサイル発射装置)。並んだ小さい蓋(ふた)の下に各種ミサイルが立てた状態で格納されている(2002年、岡田敏彦撮影)
海上自衛隊のイージス艦(写真は「みょうこう」)。レーダーとミサイルを駆使する視程外での戦闘が主目的で、「打たれ強さ」はかつての戦艦には及ばない。艦の規模もかつての軽巡~重巡並だ(2002年7月、岡田敏彦撮影)
海上自衛隊のイージス艦「みょうこう」。砲は写真中央に見える127ミリ速射砲1門で、46センチ砲9門を搭載した第二次大戦時の大和や武蔵とは全く性格を異にする(2002年、岡田敏彦撮影)
 イージスよりも戦艦を-。長らく海軍の主力でありながら第二次大戦で“時代遅れの恐竜”として滅びの道を辿った戦艦(バトルシップ)がいま再び重視されている。原子力潜水艦や空母、イージス艦といった現行の海軍装備だけでは、来るべき作戦には不十分だというのだ。求めるのは戦艦大和や武蔵、独ビスマルクなどが持っていた“打たれ強さ”だという。(岡田敏彦)
 戦艦必要論を打ち出したのはシドニー大学のサルバトーレ・バボネス准教授。米外交誌ナショナル・インタレスト(電子版)への寄稿で、中国の接近阻止・領域拒否(A2AD)戦略や南シナ海での島しょの基地化による“課題”を解決するためには、「未来の戦艦が必要とされる」と強調した。しかし、現代には「戦艦」という艦種は存在しない。まずは、なぜ滅びたかを辿らなければ復活の背景は見えないのだが、滅びるには理由があった。
 ドレッドノート
 英国が七つの海を支配するきっかけとなったトラファルガー海戦で用いられた戦艦は木造で、両舷(左右側面)に大砲を多数備えたものだった。以後、船体が木造から鋼製となり、帆船から蒸気船へと進化したが、左右に多くの砲を並べるのは変わりなかった。艦首の水面下には衝角(しょうかく=ラム)と呼ばれる角(つの)を設け、体当たりで敵艦の水面下に穴をあけて沈めようという“原始的”な構造も長く引き継がれたが、1906年、英国海軍は画期的、というよりもはやジョーカーと呼ぶべき戦艦を開発した。それが「ドレッドノート」だ。
 それまでの戦艦のように大中小の砲をまんべんなく積むのではなく、装備は大口径砲1種類に統一。しかもそのほとんどを回転式砲塔として艦の中心線上に配置した。当時、揺れる船から移動する目標を撃破するのは難しく、実際に弾を撃って次弾の射距離を修正していたのだが、砲を1種にしたことで射撃官制が効率化され、遠距離砲戦で圧倒的に優位となった。
 ドレッドノートの完成により、他の戦艦は全て時代遅れの遺物となった。日本が初めて自国で建造した戦艦「薩摩」(1906年進水)は完成前に旧式となったが、皮肉にも当時世界で最も多くの戦艦をもっていた英国が多くの旧式戦艦を抱えることとなり、最もダメージを被ることにもなった。
 以後、ドレッドノートの斬新なコンセプトを踏襲する艦はドレッドノート級戦艦、略して弩級(どきゅう)艦と称された。超弩級戦艦という言葉は、ドレッドノートを超えた性能を持つ、という意味だ。日本語で「ど真ん中」など強調に「ド」が用いられるのも戦艦が起源だ。
 戦艦から空母へ
 世界の海軍にとって、ドレッドノートに並ぶ大きなショックを与えたのは、大日本帝国海軍(IJN)だった。1941年の真珠湾攻撃、そしてマレー沖海戦の勝利がそれだ。もろく小さい航空機の攻撃で巨艦が沈むのか、対空機関砲を撃ちながら回避行動を取る戦艦に、航空機からの小さい魚雷や爆弾が本当に当たるのか-。かねて根強かった各国海軍関係者のこうした懐疑にIJNは回答を“出してしまった”。
 真珠湾では艦載機が米戦艦3隻を撃沈、2隻を大破着底させた。マレー沖海戦では、陸上基地から発進した日本海軍の爆撃機が、英国の最新鋭戦艦HMSプリンス・オブ・ウエールズを撃沈した。その巨砲も、砲弾に耐える厚い装甲も、空からの攻撃には無力だった。ドレッドノート誕生よりもショックは大きく、戦艦という艦種そのものが過去のものとなり、空母機動部隊が海軍の中核となった。日本では主力として期待された大和、武蔵、扶桑、伊勢などの戦艦ほぼ全てが「速度が遅く、空母機動部隊についていけない」という理由で冷や飯喰いとなった。
 この「航空機優位」の考え方はいまも続いている。米国の原子力空母を中心とし、対空防御にイージス艦多数を擁する空母機動部隊は、21世紀の最先端にある。一国の空軍に匹敵する戦闘機や攻撃機を搭載し、世界のあらゆる場所へ火力を投射できる戦闘群。しかし、そこにも弱点はあった。
 脆弱さ
 バボネス氏は、現代の海軍の、ある局面での脆弱さを指摘する。
 昨年6月、静岡県の伊豆半島沖で米海軍イージス艦「フィッツジェラルド」がフィリピン船籍のタンカーと衝突。8月にはマラッカ海峡シンガポール沖で同じく米イージス艦の「ジョン・S・マケイン」がタンカーと衝突した。いずれも兵員が死傷したが、タンカーに死傷者はいなかった。そしてイージス艦はいずれも船腹に大穴が開き、戦闘行動どころか通常の航海もできなくなってしまった。
 バボネス氏は同誌で「こうした事例からは、現代の海軍艦艇の脆弱さが浮き彫りとなる」と指摘する。「無論、(対空・対艦ミサイル約100発を装備する)イージス艦の火力は艦隊にとって重要だが、敵の攻撃を受けても航行を続けられる艦が必要なのだ」としたうえで「空母機動部隊が求められるような世界規模の戦役は起こらず、航行の自由作戦(FONOPs)のような別の形の作戦行動が発生している」と説明。「中国の台頭に対抗して頻度の増えているFONOPsでは、戦闘は全く必要ない」と指摘する。
 また、現在の米軍を含む各国軍では敵の攻撃を避けるためにレーダーに映らないステルス性を重視して艦船を開発しているが「FONOPsは見つけられる、見せつけることに意味があるので、ステルスは目的に合わない」とも強調する。
 不沈の新戦艦
 さらに重要なのは「中国が(対艦誘導ミサイルなどの)精密攻撃能力を開発するなかで、強靱さは重要な性能だ」という主張だ。この強靱さこそ、かつての戦艦が備えていたものだ。
 重要防御区画(バイタルパート)に厚い装甲を施し、敵主砲弾の斉射を受けても沈まない船。バボネス氏は「戦艦大和は魚雷11本と爆弾6個の直撃を受け、ようやく沈んだ。武蔵は沈むまでに19本の魚雷と17個の爆弾を受けた」と、戦艦の強靱さを強調したうえで「しかし昔通りの戦艦を作る必要はない。必要なのは新発想の、現代版の戦艦だ」という。
 それは「高性能装甲素材や損傷の自動修復機能を持ち、事実上不沈艦となった船」で、攻撃兵装は対艦ミサイルや巡航ミサイル、対空ミサイルなどを作戦目的に合わせて選べるが、「カギは残存性だ」としている。さらに重要なのは、戦争の拡大を防ぐという側面だ。
 限定戦争
 米海軍のドクトリン(基本原則)は、平たく言えば「攻撃こそ最大の防御」というもの。中国のA2ADに対しても、「指揮命令系統を破壊し、精密誘導兵器を使えなくすること」だがバボネス氏は「これでは全面戦争にエスカレートする」と危険視する。
 一方、新戦艦なら「中国や北朝鮮が多用するとみられる体当たり戦術でも耐えられる」うえ、A2ADがミサイルの撃ち合いになったとしても「新戦艦なら危険地帯で任務を遂行しながら踏みとどまれる」。つまり米国が勝つために、その圧倒的な戦力で米国が有利な全面戦争へと拡大することなく、局地戦で周辺地域を制圧し“勝利”を収めることが可能だというのだ。バボネス氏は「かつての大艦巨砲主義に戻る必要性はないが、軍艦艇の装甲性能を再検討すべき時にきている」と述べている。