【関西の議論】キャンパスに「問題を信じるな」の看板も出現…人生狂わす入試ミス、大学の対応は - 産経ニュース

【関西の議論】キャンパスに「問題を信じるな」の看板も出現…人生狂わす入試ミス、大学の対応は

京大の文化と言われる立て看板の脇を足早に試験会場へと急ぐ受験生ら。「(問題を)信じるな」と書かれている=京都市左京区の京都大
緊張した面持ちで試験開始を待つ受験生ら=京都市左京区の京都大吉田キャンパス
 大学は入試問題の正解・解答例を、どこまで明らかにすべきなのか-。京都大や大阪大で起きた出題ミスをきっかけに、公表の是非をめぐる議論が起きている。公表すれば、早い段階で誤った採点などを防ぐことができるとの意見もあり、文部科学省は今後、正解や解答例の公開ルールを定める方針を示す。すでに阪大はミスを機に、解答例のホームページ上での公表に一転して舵を切った。一方、「解答に至る考えを重視したい」との理由で、非公表の立場を取る京大や東京大などの大学もあり「公表は混乱をもたらす」と指摘する関係者もいる。「1点」が、受験生の運命を左右する結果につながりかねないだけに、各大学は慎重な判断を求められている。
疑問集めた京大の姿勢
 「(問題を)信じるな。疑え」
 2月25日、2次試験が行われた京大の吉田キャンパス(京都市左京区)には、学生らが作製したとみられる立て看板に交じり、出題ミスをこう皮肉る看板が登場した。この日、吉田キャンパスを訪れたある受験生は緊張した様子でこうつぶやいた。「ミスで人生が変わることもある。今日は力を出し切りたい」
 京大の出題ミスは、昨年2月に約4千人が受験した物理の問題であった。京大によると、音波について問う選択式の設問の中で、条件設定が不十分だったことが分かり、2つの解答から正答が選べなくなっていたという。合否判定をやり直した結果、本来は合格点に達していた17人を、誤って不合格としていたことが判明。京大は対象者を追加合格とした。
 このミスに絡み、議論を呼んでいるのが、入試問題をめぐる解答例の公表の是非だ。
 京大は以前から、選択式も含めて解答例などを公表していない。このため今回ミスがあった問題でも、各予備校の解答速報では、正解が分かれていた。
 ミスが発覚したのは、阪大のミスが明るみになった後の今年1月中旬、京大に「解答不能ではないか」と外部から寄せられたことだったという。
 もし、大学が解答例を公開していれば、もっと早くにミスが発覚したのではないのか-。京大の姿勢に批判や疑問が集まったのも無理はなかった。
「世の中には解がないこと多い」
 ただ、京大は、こうした非公開の手法にも明確な理由があると説明する。
 「知識だけを問うのではなく、(受験生が)解答に至った経緯を見たい。ポリシーとして非公表にしている」。京大が出題ミスを認めた2月1日の記者会見で北野正雄副学長はこう強調した。
 物理や化学の教科については、できる限り記述式の問題にするように取り組みを進めているという京大。解答例の公表を求める声については、「いきなり来年から正答を出すのは、今まで何だったのかという感じもある」(北野副学長)と戸惑いを隠さなかった。
 同じく東大も、同様の理由で解答例の公表に否定的だ。福田裕穂副学長は「世の中には解がないことが圧倒的に多い。一つの解を覚えることはふさわしくない」としており、今後も解答例の公表などを行う予定はないという。
 神戸大は平成27年の入試までは一部科目の解答例をホームページで掲載していたが、翌年から取りやめた。その理由は「著作権法上の絡みで一部の問題が公表できない中、全ての解答例を明らかにするのはバランスに欠くと判断した」(担当者)という。
阪大はHPで公開へ
 一方、一連の入試ミスを契機に、解答例の開示を進めようとする動きも広がりを見せている。
 「問題や解答、出題の意図など開示の在り方を検討したい」。2月の閣議後記者会見でこう指摘したのは林芳正文部科学相だ。「解答例を公開することで、こういうこと(ミス)がなくなることにつながる」とも述べ、ミス回避には解答例の公開が「特効薬」になるとの認識を示した。
 ミスにより30人が入学できなかった阪大では、今年の入試から、合格発表後の3月中旬をめどに、大学のホームページで解答例などの公表に踏み切る。これまでは、新年度に入った4~5月に、希望者に大学での閲覧を認めるだけだったため、大きく方針変更したことになる。担当者は「万が一ミスがあっても、早期に発見できるようになる」と効果を訴える。
 例年4月以降に解答例などを公表してきた名古屋大では、今年からこれを3月中に前倒しすることを決めた。担当者は「他大学の(ミスの)例もあるほか、文部科学省の要請もあり、できるだけ早い開示が必要と判断した」と理由を説明し、前倒しにより一時的に業務量が増えるのも「やむをえない」と受け止める。
過去問「再利用」でミス防止も
 ただ、積極的な解答例の公表に違和感を覚える関係者もいる。
 「いくら解答の『例』だと説明しても、自分の解答とかけ離れていれば、不安にかられる受験生もいるだろう」。近畿の国立大学で入試問題作成に携わる教授はこう明かし、「本当に受験生のためを思うならば、想定される複数パターンの解答例を示すべきだ。しかし、それでは現場の業務量が膨大となり、現実的に不可能だ」と漏らす。また「(解答例を)公表する意義はよく分かるが、そこを徹底的にできなければ、かえって混乱を生むことになるのではないか」と危惧した。
 大学入試に詳しい桜美林大の田中義郎教授(教育学)も「難関大は、(受験生が)解答という山にどういう登り方で到達したのかを見たいはずだ」と述べ、解答例の非公表の考えに理解を示す。
 解答例の公表とは異なるアプローチで、ミス撲滅を目指す大学もある。
 一部では、過去の入試で使われた「良問」を再利用し、問題作成への労力を軽減しようとする動きが加速。岐阜大を窓口に19年から開始されたネットワーク「入試過去問題活用宣言」には、全国で100以上の国公私立大学が参加する。
 この宣言は、蓄積された過去の良問は、大学が共有すべき「共通財産」と位置づけている。参加大学は、他の参加大学の過去問題をそのまま、または一部を改変して利用することができ、岐阜大の担当者は「作問への労力を削減することは、副次的にミスを防ぐことにもつながる」と話している。
 今年の大学入試はほぼ終了したが、すでに来年の入試に向けた取り組みも求められるのかもしれない。